徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:島田荘司著、『水晶のピラミッド』(講談社文庫)

2018年11月23日 | 書評ー小説:作者サ・タ・ナ行

エッセイと英語解説マンガの小休止を挟んで、また買いためてある御手洗潔シリーズに戻りました。

『水晶のピラミッド』(1991、文庫は1994年)は御手洗潔シリーズ第7巻の長編。『暗闇坂の人喰いの木』で怪事件のあった藤波家の唯一の生き残り玲王奈こと松崎レオナが、ハリウッドのミュージカル映画撮影中に撮影現場のひとつであったビッチ・ポイントのエジプト島に建つクフ王のピラミッドを模した半分ガラスのピラミッドとつながる塔で起こった殺人事件に巻き込まれる話です。塔の7階、空中30メートルの密室で映画のスポンサーにしてこのピラミッドを所有するリチャード・アレクスンが「溺死体」で発見されるという奇怪な事件で、地元警察やFBIの捜査は一向にはかどらずに映画撮影禁止命令を出したために、映画製作側は危機に陥り、そこで主演女優であるレオナがこの事件をきっと5日以内に解決できる名探偵が日本にいると豪語して10万ドルの報酬を保証させて、御手洗潔に依頼しに来ます。

この事件の「現在」の間に1912年のタイタニック号内のエピソードと古代エジプトの第二王子ディッカとマーデュ島出身のミクルの悲恋物語が交互に差し挟まれており、それらのエピソードがどのように現在の事件に関連してくるのかなかなか見えてこないというもどかしさはあるものの、エピソードそれ自体は興味深く謎めいており、「ピラミッド」という謎の塊に相応しいサイドストーリーと言えます。こうしてタイタニック号は沈み(殺されたリチャード・アレクスンの祖父が乗っていた)、ミクルはディッカの婚約者一味に惨殺され、ディッカは「文明の死は常に溺死だ」などという言葉を残してジグラット(ピラミッド)の中に封じ込められた後に話が現代に戻ってようやく御手洗潔が登場します。愛犬が死んで鬱病になってたところで、レオナは最初けんもほろろの扱いを受けますが、それでめげる彼女ではないので、結局御手洗潔は依頼を受けるのですが、見事トリックを解明し、映画撮影再開の許可を警察からもぎ取って事件解決したかに見えましたが、実はまだ裏があったという展開がなかなか面白いですね。

レオナの御手洗に対する恋心も切ないですね。

「文明の死」という現象に対する考察は興味深いですが、要するに「驕れるものは久しからず」ということですよね。月並みですがそれでも驕ることをやめられないのが人間の哀しい性と言うところでしょうか。

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