徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:糸森環著、『恋と悪魔と黙示録』全9巻(一迅社文庫アイリス)

2017年08月15日 | 書評ー小説:作者ア行

『恋と悪魔と黙示録』は2012年からのシリーズで、2017年7月に刊行された9巻で完結しました。

私がこれを読みだしたのは2014年以降です。ティーン向け(?)ファンタジーライトノベルですが、きちんとファンタジー世界が構築されており、一度入ってしまえば難なく楽しめます。

主人公は悪魔の名を記した聖沌書を複製する森玄使であるレジナ・バシリス、16歳。兄を悪魔に喰われて失った彼女は教会に引き取られて、勉学に励み、森玄使となりました。教会の敬う神は「ラプラウ神」。ある日彼女は神魔と呼ばれる高位の魔物を召喚してしまいます。それは赤毛の獣の姿でしたが、人型になると美しく禍々しくなります。その名はアガル。彼と契約することによって、レジナは神魔を使役し《名もなき悪魔》の名を書に記す朔使となります。

このシリーズのベースラインはこの二人(一人と一頭?)の恋物語なんですが、神魔は契約主を盲目的に溺愛し、それ以外は世界が滅びてもどうでもいいというような人間離れした感覚の持ち主で、かつ妙に乙女だったりするので、そのずれっぷりが笑えます。

ストーリーが進むごとに段々話のスケールも大きくなっていき、タイムスパンも8巻で急激に伸びます。世界はラプラス神の保護のない魔の時代へ突入し、魔王マグラシスが悪魔に「進化」をもたらそうと人間界を侵略していきます。

荒唐無稽と言ったらそれまでですが、幾重にも織り込まれた伏線が複雑に絡み合い、感情がもつれて関係が複雑化していく様子の描写には力があり、引き込まれます。

そしてどんな深刻な状況でも、乙女心を忘れず、レジナを褒め称え、一人で照れるのんきな神魔の脱力感がまた魅力です。

脱力すると言えば、ラプラウ神の化身である小汚い灰色の鳩。本当に神なのか?と疑わしくなるほど的外れにのんきな「くるっぽー」という鳴き声を発し、おまぬけにも敵に捕獲されてしまうという情けなさがまた味わい深いです。

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