長尾景虎 上杉奇兵隊記「草莽崛起」<彼を知り己を知れば百戦して殆うからず>

政治経済教育から文化マスメディアまでインテリジェンティズム日記

あゆみ。歌姫・あゆの真実。ブログ連載小説3

2011年02月20日 09時12分13秒 | 日記
         怒り




  光田利二は死んでしまった。
 自殺したのだ。
 そして、松崎奈々子も死んでしまった。
 光田利二に犯され、殺されたのだ。
  休日の早朝、亮一は珈琲を飲みながら、新聞を読んでいた。場所は自宅…。
 皮肉にも、鬼畜・光田利二の古巣、M新聞である。
 朝日が眩しいほどで、陽の光りが差し込んで、辺りに反射してハレーションを起こしていた。それは、しんとした風景だ。

”東京都在住のOL、松崎奈々子(32)さん殺害される。
  犯人は、元・M新聞社員、光田利二容疑者(54)。同容疑者は警察に自首し、拘留中  に自殺。犯人死亡のまま送検される。
   松崎奈々子(32)さんは大手商社・四菱商事の事務員で、独身。近所のひとにも評  判もよく、温厚な人柄であったという。”

  何日か前の新聞だった。
 記事がそんな感じで書いてある。亮一は記事を何度も何度も読み返した。そして、ひとりで泣いた。誰もいないのが幸し、亮一は情ない顔をみられずに済んだ。
 妻の春子はショックで入院したままだ。
 休日の早朝なので、長男の純也はまだねんねである。
 奈々子。……奈々子!
 亮一は、胸がきつくしめつけられるような感触を感じた。妻よりも、殺された松崎奈々子のほうが愛しかった。彼はしゅんとした顔をした。
 そして、松崎奈々子は死んだんだ……と心の中で何度も唱えた。
 それにしても、奈々子を殺した光田利二という男は、リストラされてホームレスか…… 亮一はふっと思った。
 そして怒りもこみあげ、奈々子を殺す前に光田利二が自殺してれば…一瞬だけ憤慨した。 それにしても、
 奈々子を殺した光田利二という男は、リストラされてホームレスか……
 しかも、リストラの理由は少女買春で、クビか……
 自業自得ではないか!
 だが、そのたったひとつの過ちで、仕事をクビになり妻子は利二を見限って出ていったのだ。少女買春で、クビか……末路はホームレスで人殺しで自殺か…
 亮一は光田利二に少しだけ同情もした。
 この御時世にリストラか。
 だが、………自業自得ではないか!
 …………奈々子。……奈々子!
 亮一は、胸がきつくしめつけられるような感触を感じた。妻よりも、殺された松崎奈々子のほうが愛しかった。彼はしゅんとした顔をした。
 そうしてると、やがて長男の純也が起きてきた。
「おはよう、お父さん」純也はいった。
「おはよう」
 亮一は平静をよそおっていった。
「…ねぇ」純也は寝ぼけ眼のまま続けた。「お母さん……まだ退院しないの?」
「あぁ。まだだ」
「いつまで?」
「さぁな。まだかかるだろうな。治るまで」
「そんなに風邪が酷いの?」
 亮一は押し黙った。息子には「風邪で入院」といってあったのだ。
 まさか、精神を病んで、などとはいえまい。
 いや、いったとしてもまだ小学校低学年の少年だ。理解できまい。
「ねぇ?」
「……お母さんもそのうちケロッとして帰ってくるさ。風邪が治ってね」
「本当?!」
「………あぁ」
「やった!」純也は笑顔になった。
「顔洗って、歯を磨いてきなさい。秀子ちゃんは今日いないから…お父さんが朝食つくってあげるから」
「うん!」純也は笑顔でいった。
 秀子ちゃんとは、お手伝いの十七歳の少女のことである。今日は、母親の親族が死んだとかで葬儀に参列していていないのだ。秀子はいかないといったが、「家のことはいいから葬式にいきなさい」と亮一が説得した。
 無論、秀子ちゃんのためを思ってだが、別の理由もあった。
 亮一は”ひとり”になりたかったのだ。
 暗闇の中で膝を抱えて、殺された奈々子のことを考え、泣きたかったのだ。

  純也がいなくなってから、亮一はキッチンに向かった。
 キッチンにいって冷蔵庫を開ける。が、食料はいっぱいあるものの何をつくっていいかわからなかった。ハッキリというと、亮一は料理なんてしたことがない。
「……さて…と」
 亮一は溜息をつき、続けて「なにをつくればいいのやら」と落ち込んだ。
 秀子ちゃんや春子は毎日キッチンにたって食事をつくっていたのだ。いろいろなものを。あるいはカロリー計算ぐらいだってしたのかも知れない。
 考えると、亮一は溜息がでた。
 彼は、自分のほうが女より偉いと思っていた。主婦なんて食事つくって、掃除して、あとはテレビでもみているだけだ、そう思っていた。
 でも、女だって大変なのだ。
 亮一は胸が痛んだ。
 そんなとき、「おはようさん!」と玄関から女の声がした。
 亮一が玄関に出ると、女はにやりと笑った。
「……みつ代さん」
 亮一もにやりとなった。訪問した女は、小室みつ代という三十代の体格のいい女である。春子の親友とかで、結婚式のとき初めて会った。
 なんでも、ゴスペルの教室を近所のキリスト教会で開いている才覚の持ち主でもある。体が大きくて太っていて、歌がうまい。というよりプロのゴスペル歌手だ。
 亮一は、小室が結婚式でゴスペルを歌ってふたりを祝福してくれたことを今も忘れない。 ……なんといい歌だったことか…
「春子の旦那さん。ひさしぶりじゃね。いや……奈々子の葬儀にあったか」
「そうだね」
 ふたりは笑った。
「……春子…大変なんだって?」
「まぁ」
「なんでも……死んだ奈々子を見たとか…」
「あいつも…」亮一は続けた。「ショックだったんだろうね。それで気がふれたんだ」
「そうか」
 小室はそう頷いた。
 そして、「春子の旦那。朝メシ食べたかい?」と亮一に尋ねた。
「…いや……何をつくっていいやら…料理なんてしたことないから」
 小室は笑った。「朝メシなんざパンと牛乳とバナナでもありゃあいいのさ」
「そんなもんかい?」
「あぁ!そうとも!…それとも旦那は金持ちだから朝からステーキかい?」
 ふたりは笑った。
 ……いい女だな。まぁ女として意識できないな、ハッキリいうと…でもいいひとだ…  亮一がほんわりすると、小室は、「…じゃあ、この小室さんが朝メシつくってやるさ!」といって家に上がり込んだ。
「あ!おばさん!」
 純也が歯を磨きながら笑顔をみせた。
「やぁ、純也ちゃん。おばさんが朝メシつくってやるからな」
「おばさんが…?」
「あぁ!」
 小室はキッチンに向かった。そして、「旦那。冷蔵庫開けっ放しだよ」と呆れた。
「あ…そうか。みつ代さんがきたんで閉めるの忘れてたよ」
「旦那は……頭がいいんだか悪いんだかわからんね」
 小室は笑った。


 ”朝メシ”を食べおわり、純也が出かけると、小室みつ代が、「そうだ、旦那」といった。「あのな。ほら……あの…」
「…え?」
「産婦人科医の…た…け…なんだったかな?」
「武田ですか?武田玄信」
「そう!」小室みつ代が大声でいった。「その…武田玄信っていう産婦人科医が…なんでも奈々子の赤子を預かってるって話だよ」
「え?! まさか!」
「そのまさかなんだよ。あたししか知らないことだけどね」
「しかし…」
「その武田って、旦那、知ってるんだろ?」
「えぇ」亮一はいった。「大学で同期でした」
「その同期の桜が、奈々子の赤子を預かってるって話だよ」
「まさか!」
「まさか……ってこともないだろう? 奈々子だって女なんだから妊娠くらいするわな」 亮一は無言になった。
 まさか……俺の子……?まさか!
 赤ん坊がいるなんて知らなかった…まさか……俺の…子…?!
「どうしたんだい?旦那」
「い……いや…なんでも」
「でさ」小室は続けた。「…その子は奈々子の忘れ形見って訳さ」
「でも、いつ産んだんだい?」
「さぁ」
 小室みつ代は考えが浮かんだ。「…そうか!奈々子、仕事で前に何年間かアメリカに出張してたから……そのときか…」
 亮一は何もいえなかった。
 そして、そうか!アメリカで……じゃあ俺の子か外人の子か……?どっちにしても子が不憫だ。母親は死んで、父親はわからない。だが、俺の子のような気がする…
 俺の子か……
「どうしたんだい?旦那」
「い……いや…なんでも」
 亮一はそういうと、眉間を細めて煙草をふかした。
 俺の子か……
 ひきとってみようか……




  大手ゼネコン・浜坂建設本社は東京千代田区にある。
 けっこう大きなビルで、しょうしゃな感じもする建物である。
 亮一は浜坂建設の社長で、二代目である。会社はこの当時は業績もよくて、建設事業も拡大していた。おりからの『日本列島改造』景気で、公共事業がどんどん入ってきて、会社は嬉しい悲鳴をあげるのだった。
 亮一は「このまま好景気が続いてくれたら…」と願った。

「……奥さん退院されたそうで…」
 社長室で、椅子に座り向かい合った緑川が亮一にいった。
 奥さん?……このまえは「春子さん」などといっていたくせに…
 亮一は思わず癇癪をぶつけそうになったが、それはしなかった。
 ただ、「あぁ。もう元気だ。毎日忙しく働いているよ」といった。
「それはよかったですね」
「ああ」亮一は続けた「ところで君の仕事のほうは?なんでも作家…え~と」
「総合プロデュースです」
「そうか。それはどうなんだい?」
「まあまあです。作家としての執筆活動は順調ですし、本も売れてますよ。プロデュースのほうも映画とか音楽とかテレビドラマとか……まあまあです」
「へえ~つ。映画かい? それはいいじゃないか。で、相談とは…?」
「はい」緑川は暗い顔になり、「実は…」と口ごもった。
「…ん?」
「先輩に相談にのっていただきたくて…。実はぼくは癌なんです」
「え?!」亮一は驚いたような顔をした。
 しかし、心の中で、ざまぁみろ……と思った。
「癌かい?だいぶ悪いの?」
「いえ。まぁ、初期癌で、しばらく入院して、しばらく避暑地で静養しようかと…」
「そうか」
 亮一は顔に同情の表情をつくった。
 しかし、心の中では、ありがたい…これで妻もおとなしくなるだろう…と思った。
「失礼します」
 秘書の鈴木杏子がお茶をもってきて、テーブルに置いた。杏子は若い二十代の美女で、頭はあまりよくないが気のきく女性である。
 亮一はこの若い女が気にいっていた。
「どうも」
 緑川がいって茶をのむ。亮一は、「がんばれよ緑川。癌なんかに負けるな」と言った。

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