11月末にこのブログでお知らせした
佐滝剛弘さんの新刊 『「世界遺産」の真実 ― 過剰な期待、大いなる誤解』 を
読みました。
いやー、おもしろいですね。
ああそうだったのか、あれはそういうことなのね、といちいち納得させられることばかりで、
ホント、勉強になります。
世界遺産については、富岡製糸場の伝道師になるときに勉強をして、
それからも本を読んだり、新聞、講演会等でいろいろ情報も仕入れてはいました。
でも刻々と変化する状況については、憶測やうわさの域をでなかったり、
富岡製糸場が本当に世界遺産に登録できるのかどうかは、解説をしていても確信が持てず、
心のなかでは揺らいでいました。
私がそうやって疑問や不安におもっていたことすべてについて、
明確な答えがこの本の中に示されています。
よくぞ、小難しい世界遺産の理念をここまでわかりやすく解説してくれた!
豊富な世界遺産の知識をいかして、世界中の例をひいて、複雑な登録への道を説明してくれる。
そして日本の世界遺産については、
机上の空論をさけ、脱稿するまえの4ヶ月の間に各地に赴き、取材を重ねた内容。
まさに、旬の情報の宝庫です。
今読んでこその本です。
とても興味深かったのは、毎年登録が協議されるユネスコの世界遺産委員会の様子。
とくに掲載の写真はとてもインパクトあり。
構成する委員の国名や人数、任期や開かれる会議は国の持ち回りであるとか、
調査組織のイコモスの委員の実態や本登録における影響の度合いなど。
そして年々登録が難しくなってきているというのは本当か? という問いには
佐滝氏はデータをあつめてグラフにし、年毎の登録率をだした。
そんなことも納得のいく答えとなっている。
そして一番興味のある日本の現状。
文化庁が2006年と2007年に募集した候補のリストでは37件あり、
それに関わっている自治体はなんと100を超えているという。
ほんとうに「猫も杓子も世界遺産」というかんじである。
それらの自治体の生の声はなかなか聞くことができないが、
佐滝氏はかなり突っ込んで取材。
自治体の世界遺産の予算がいったいいくらぐらい使われているのか、
そしてそれが登録までいけば、回収はたやすいかもしれないが、
そうでなかった場合、県民や市民は自分達の税金が使われていることを認識しているのだろうか、と問う。
決して世界遺産について、批判をしているのではなく、
ユネスコがいかに理念に見合った登録をしていけるのか、ということについて言及しているのである。
むしろ高邁な理念の世界遺産を応援している気持ちにあふれている。
それは巻末付録の「世界遺産の本質が伝わる10のお勧め世界遺産」を読むとよくわかる。
佐滝氏がお気に入りの世界遺産10ヶ所が紹介されているが、
この世界遺産はここが素晴らしくって、初めて見たときはこんなに感動して、と
素直に喜んでいる姿がみえて微笑ましい。
人類の長い歴史のなかから生まれた本当に残すべき価値あるものに出合って、
いとおしい気持ちでそれに正面から対峙している。
彼のような深い見識があってはじめて、真の世界遺産の価値がわかるのだとおもった。
世界の国の人たちが真摯な気持ちで、議論を重ね、知恵を寄せ合い、
「人々の心に平和の砦を築く」ために世界遺産を決定している。
試行錯誤を続けながらもユネスコが理念を歪めることなく、公平な組織であろうとしていることを実感し、
それが崩れてしまわないことを切に願った。
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