海外のニュースより

政治・経済・社会の情勢について書かれた海外の新聞や雑誌の記事を選んで翻訳しています。

「フランスの家族の価値」と題するポール・クルーグマンの論説。

2005年07月30日 | 福祉と経済
アメリカ人には、おれ達は他の誰よりも何でもうまくやっていると思う傾向がある。この信念のせいでわれわれが他の人たちから学ぶことが難しいのだ。例えば、多くの人々がヨーロッパはヘルス・ケア政策についてわれわれに何か教えることができると考えることを拒否するのを私は経験した。結局、その人たちが言うには、ヨーロッパの経済がこれほど失敗であるときに、どうしてヨーロッパ人がヘルス・ケアをうまくやることができるのか。
だが、ある国が優れた健康保険制度を持ちながら問題の多い経済を持つことはありえないと信じる理由はないのだ。そもそもヨーロッパの経済はそんなにうまくいっていないのだろうか。
答えは、ノーである。アメリカ人は最近、これ見よがしに振舞っているが、米国とヨーロッパ、特にフランスの経済をつき合わせて比較すると、大きな違いが優先順位にあって、成果にはないことが分かる。労働時間と家族の時間との間で異なる取引をした二つの高度に生産的な社会について語っているのだ。そして、フランスの選択について言われるべきことは沢山ある。
第一に、フランス人が受ける手厳しい批判にもかかわらず、彼らの社会は「生産的」であると私が言ったら、あなた方は驚くかもしれない。けれども、OECD(経済協力開発機構)によれば、フランスの生産性--1労働時間あたりのGDP(国内総生産)は、実際、米国におけるそれよも少し高いのである。
フランスの一人頭のGDPが米国のそれよりも下であるというのは本当である。しかし、それはフランスの労働者達が家族と過ごす時間がより多いからなのである。
よろしい。確かに私はちょっと単純化しすぎた。フランス人がなぜわれわれよりも一人あたり少ない労働時間しか投入しないかについてはいくつかの原因がある。一つの原因は、フランス人のある人達は、働きたいのだが、働けない。アメリカの失業率よりも4%高くなる傾向があるフランスの失業率は、現実の問題である。もう一つの原因は、多くのフランスの市民は早く定年になる。しかし、フランスの常勤の労働者は、週あたりの労働時間が少なく、常勤のアメリカ人労働者よりももっと多くの休暇をとる。
需要なのは、フランス人がわれわれよりも収入が少ないのは、主として選択の問題であるということだ。この選択の帰結を見るために、フランスにおける典型的な中流家庭の状況はどのようにアメリカにおける中流家庭のそれと比べられるかと問うてみよう。
フランス人の家族は、確かに、より低い可処分所得を得ている。このことの結果、個人消費が少ない。車はより小さく、家はより小さく、あまり外食はしない。
だが、このより低い消費のレベルを埋め合わせるものがある。フランスの学校は、国中に良い学校を持っている。フランスの家族は、子供達を地域の良い学校へ入れるのに頭を悩ませる必要がない。フランスの家族は、優れたヘルスケアにアクセスすることを補償されているから、健康保険を失う心配をしたり、治療請求書で破産に追い込まれることを心配する必要がない。
ひょっとしたらもっと重要なことは、フランス人の家族は、彼らのより低い収入を遥かに多い時間一緒にすごすことで埋め合わせているということだ。常雇いのフランスの労働者は、一年間に有給休暇が平均約7週間とれる。アメリカでは、4週間より少ない。
それではどちらの社会がより良い選択をしたのだろうか。
ハーバード大学のアルベルト・アレシナとエドワード・グレーザー、ダートマス大学のブルース・ササドートか行った労働時間の国際比較について新しい研究を見ていた。この研究の要点は、文化の違いよりも、政府の規制の違いが、ヨーロッパの労働者はアメリカの労働者よりも少なくか働かないのかという理由を説明している点である。
しかし、この研究は、この場合に、政府の規制が、実際には、国民に控えめに低い収入の代わりに友人や家族とより多くの時間を過ごすという望ましい取引をすることを可能にしていることを示唆している。それはある個人が交渉するのが難しい取引である。この研究の著者達は、次のように述べている。「あなたの使用者から自分でもっと多くの休暇を勝ち取ることは難しい。そして、あなたの友人と同じ取引をして、一緒に休暇に出かけるkとはもっと難しい。」
彼らは、「潜在的収入は少ないのに、より少なく労働することがヨーロッパ人をより幸福にしている」というある統計上の証拠を提示している。
それは決定的な結果ではない。彼らが述べているように、問題全体は、「政治的に反論を呼ぶもの」である。しかし、私の観察では、その政治的反論のあるものは間違ったサインであるように見える。
アメリカの保守派は、フランスのような、ヨーロッパの福祉国家を軽蔑している。けれども彼らの多くは、「家族の価値」を強調しているのだ。フランスの経済政策について何を言うにせよ、彼らは制度としての家族を非常に支持しているように見える。リック・サントーラム上院議員よ、あなたはこれを読んでいますか?
[訳者の感想]文末に出てくるリック・サントーラム上院議員は、恐らく保守派でEU諸国の福祉国家に対して批判をしたのだろうと推測されます。クルーグマン氏が名指しで、自分の意見を議員にぶつけているところが迫力満点ですね。日本人もアメリカ式の収入をできるだけ増やすことに懸命になるよりは、フランス式の生活の仕方を学ぶべきだと思います。日本の国会議員や政府閣僚もそういう未来像を描くべきだと思います。
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