海外のニュースより

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「学校暴力を巡る激しい論争」と題する『ヴェルト』紙の記事。

2006年04月02日 | 政治と文化
 学校内暴力についてのベルリンの学校教師の危険信号を発する書簡は、外国人生徒の扱いに関して激しい議論を引き起こした。バイエルン州首相のエトムント・シュトイバーのような政治家は、移民受け入れと統合について考え直すことを要求している。「ドイツに統合出来ない者は、我が国を去って故国に帰らなければならない」とシュトイバーは、『ヴェルト日曜版』に語った。
 ベルリンの問題地区ノイケルンのリュトリ基幹学校(Hauptschule)の教師は、市庁宛の書簡で、生徒の暴力がもはや手に負えないという理由で、自分たちの学校を閉鎖することを要求した。この基幹学校の生徒の80%以上は、移民の家族の子弟である。金曜日以来、警官が学校の前にいて休み時間中の秩序を護っている。一月前から空席になっている校長の地位はふさがった。市庁はアラビア語とトルコ語ができるソーシャル・ワーカーを学校に配備した。
 文教担当参事であるクラウス・ベーガーと共に市庁に対する批判が激しくなっている。緑の党の代表レナーテ・キュナストは、『ベルリーナー・モルゲンポスト』紙で「市庁の全面的失敗」について語った。ベーガー自身が間違いを認めている。文教局が彼に知らせるのが遅すぎた。学校内での暴力の問題に手をつけるのは、教師達の書簡以来ではない。
連邦首相のアンゲラ・メルケルは、ベルリン市長で社会民主党所属のクラウス・ヴォヴェライトの下での学校行政が学校の状態に対して責任があると述べた。市庁は、教育政策に間違った強調をおいた。メルケル首相は、移民の子供のドイツ語知識を改善することを要求した。なぜなら、児童は教師の言うことを理解できなければならないからである。
バイエルン州首相のシュトイバーは、激烈な攻撃を加えた。「お人好しの多文化主義は、挫折した。ドイツに子供達と暮らしながら統合を拒否している外国人家族に対しては、生活保護給付は短縮されるべきだ」とシュトイバーは、『ヴェルト日曜版』に述べた。「統合を長期的に拒否する場合には、次のステップとして、ドイツ滞在も終わりにしなければならない。」緑の党党首のラインハルト・ビュティコーファーは、その提案を退けて、「それは該当者に対する悪意のある告発だ」と言った。
 ベルリン市長のヴォーヴェライトは、リュトリ基幹学校は、新しい校長とソーシャル・ワーカーの助けを借りて、妨害のない授業を取り戻さなければならないと述べた。新学期の初めに、新鮮なアイデアを持った新しい教師達が学校に配置される。「そこに長年勤務していた同僚は燃え尽きた」とヴォーヴェライトは言った。これに対して、社会的な焦点にある学校にもっと金を出すべきだというベーガーの要求を彼は退けた。「金が足りないというのは余りに単純すぎる」と市長は述べた。
 社会民主党幹事長フベルトウス・ハイルは、メルケル首相と同様、ドイツ語の知識を入学の前提にすることを要求した。「われわれは州政府と一緒に数年内にドイツ語が話せないでドイツの学校に来る生徒一人もいないようにしなければならない。」だが、ベルリンのリュトリ基幹学校の場合は、統合の問題だけではない。「われわれは社会階層がばらばらになってゆく社会的な崩壊過程を体験しているのだ。われわれの社会では、他の国々よりも、社会的な出自が、教育や生活の機会を決定している」と社会民主党の政治家は批判した。
 キリスト教民主同盟所属のヴォルフガング・ショイブレ内務相は、学校内暴力に対して断固とした処置を取り、降参しないことを要求した。「リュトリ基幹学校で起こったようなことは、社会全体の問題である。青少年は結局、明確な限界を引き、重要な規範を断固と貫くことを怠っている社会を反映しているすぎない」とショイブレは、『ビルト』紙に語った。
 CDU/CSU会派の代表代理であるカタリーナ・ライヒェは、ドイツではもっと多くの教師ともっと小さな学級が必要だと考えている。「爆弾が爆発するまで待っているわけにはいかない」と彼女は警告した。
 これを支持しているのは、連邦政府の統合問題担当のマリア・ベーマーである。「私たちは、基幹学校を強化し、基幹学校卒業生に職業上の展望を与えなければならない」と彼女は『ヴェルト日曜版』に語った。「私たちは、基幹学校を卒業してくる青少年にもっと多くの訓練場所を与えなければならない。」ベーマーは、ノイケルンの事件を防ぐためには、もっと多くのソーシャル・ワーカーが必要だと述べた。「事実上、学校にだけ任せてきた。」リュトリ基幹学校の教師達は、生徒を混ぜるために、彼らの学校を実科学校(Realschule)と合併するように要求していた。
[訳者の感想]今ドイツで一番大きな国内問題は、アラブ系トルコ系の生徒が80%を越えたベルリンの基幹学校で生徒間だけでなく教師に対する暴力が頻発し、先生の言うことを聞かないため、その学校の先生達がベルリン市庁に学校を閉鎖するよう要求した事件です。基幹学校とというのは小学校4年生終了後に進学できる5年制、あるいは州によっては、6年制の学校で、日本で言うと小学校上級と中学とを合わせたような学校です。小学校の4年が終わると児童の一部はギムナジウムか実科学校か基幹学校に進学し、その後社会に出て就職することになります。ギムナジウムを卒業した生徒だけが原則として大学に進学できます。基幹学校の職業訓練は十分でないようで、基幹学校の卒業生に就職の機会は余りないようです。基幹学校の生徒の12%から23%は、未修了まま退学するので、未熟練労働しか就くことができないようです。これは結局、ドイツの全人口の8.8%に達する外国人、特にアラブ・トルコ系の移民をどう統合できるかというもっと大きな問題の一部だと思います。
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