海外のニュースより

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「若くて、反抗的で、爆発しやすい」と題する『ツァイト』紙の解説記事。

2006年01月08日 | テロリズム
彼らは世界を変革したのだろうか?21世紀の最初の惨事を引き起こすのに、核弾頭つきロケットを持ったハイテクの軍隊は必要でなく、絨緞を織るのに必要なナイフを持った19人の若者しか必要でなかった。2001年9月11日にニューヨークとワシントンで引き起こされた破壊の程度にイスラム教テロリスト達が二度と及んでいないことは確かである。だが、モハメド・アタの方法は、成功を収めた。自殺テロは、今日、以前にまして、無力な者達の象徴的な究極的ちからとして歴史の中に残っている。
2005年7月7日に、少なくとも56人を殺傷したリュックサック爆弾を背負っていた4人の若いパキスタン人の場合も自殺による暗殺者だったのについては、ロンドン警察は、これまで疑いを表明した。だが、爆発物が遠隔操作で点火されたとしても、ともかくイギリス育ちの四人の青年は、民間人の真中に爆弾を持ち込む価値があると考えたのだ。ジハード青年がキングス・クロス駅から散開して以来、想像できなかったことが、もはやありえないことではなくなった。戦争も弾圧も国外追放も経験したことのない若いヨーロッパ人が、西欧社会に対して致命的な憎悪を感じたのだ。だが、9月11日の人間ミサイルとは違って、リーズから来た犯人達は、代理人テロリスト、盲目の代弁者のように見える。つまり、彼ら自身のではない狂信主義の代弁者、最小の手段で最大の損害を与えようとする指導チームの代弁者、彼らに抑圧として押し付けられた欲求不満の代弁者のように見える。最後に、脅かされたモスレム共同体の抵抗闘争の代弁者のように見える。
これらすべての動機は、既に自殺により殺人の歴史の中で与えられている。もちろん、これまでは、それらの動機は、ばらばらに分かれていた。最初の自殺による暗殺者と見なされるのは、11世紀と13世紀のアサシン派である。シリアとペルシャでは、この教団のメンバーは、背教的なイスラム教徒に襲い掛かった。公道上で相手に短剣を突き刺した暗殺者は、彼らの行為が自分の死も意味することを覚悟していた。彼らは純粋な宗教的熱狂からこのような行為を行った。これに対して、日本軍は、1944年から45年にかけて、冷静な戦争経済から約2千人の神風特攻隊員をアメリカの軍艦めがけて落下させた。天国への約束を刷り込まれて、イランのホメイニ師は、イラクとの戦線で1980年代に数千人の子供を地雷と砲撃の餌に送り込んだ。
これに対して、自殺テロの変形の動機は、個人的な侮辱と政治的転覆の意志にある。興味のあることに、1980年代の初めから、最も多くの自殺テロを行った集団は、最も宗教的ではないグループの一つだった。スリランカの分離主義的地下軍隊である「タミールの虎」は、2000年までに、168件の自爆テロを行った。中東のイスラム主義のテロ集団は、これまでに合わせて82件しか自爆テロを行わなかった。
1983年10月23日、一握りの「フェダシン」(犠牲覚悟者)は、ベイルートで彼らが超大国に対して何ができるかを証明した。2.5トンのTNT爆薬を積んだトラックに乗った自爆テロリストは、レバノン駐留のアメリカ海兵隊の司令部を破壊し、241名のアメリカ兵が死んだ。二番目の爆発では、58名のフランス軍落下傘部隊の兵士が死んだ。この流血の惨事から数ヶ月後に、アメリカとフランスとイスラエルは、レバノンから撤兵した。(以下13行省略)
だが、静かなリーズに住むティーンエイジャーを虐殺へと駆り立てた原因は何か?イギリスの事件がわれわれを不安にする理由は、犯人を駆り立てたのは古典的な動機ではなかったという点にある。そこに示されているのは、自殺テロのポストモダンのグローバル化された変形である。犯人のうち3人は、30才のモハメド・カーンの影響を受けた。彼は、カリスマ的な指導者で、地域の青年クラブで若いパキスタン人には余りに分かりやすいある世界観を説いた。最後に彼らは英国の他の民族集団と違って負け犬だと感じた。パキスタン人の五人に一人しか、中学卒にならない。彼らの未来の展望は、他の少数民族と比べて、非常に暗い。よりによって、リーズ大学は、数年前に、ある研究の中で、若いパキスタン人があきらめと白人に対する反感に悩んでいると警告した。この劣等感が流血の攻撃に転化するのは、彼らが、貶められたと感じた人々を貶めようと決心した場合である。更に、パキスタンのマドラサ(宗教学校)や、リーズの青年クラブで、ある権威が、西欧にだけ責任があるというイデオロギーを伝達すると、政治的心気症は完成する。
わが身を吹き飛ばす理由があるかどうかと、あるケースワーカーが先週ロンドンで若いモスレムの集団に質問した。「うん、もちろんあるさ。だって、イラクやアフガニスタンでわれわれの兄弟が殺されているんだから」と答えたと『フランクフルター・アルゲマイネ』紙は引用している。テロに対する戦争を、少なからぬイマムや誘惑者はイスラム教に対する戦争だと解釈しなおしている。「ブッシュやブレアやシャロンがしたことを見てみろ。奴らはイスラム教徒を瓦礫の中に埋めたんだ。奴らは『コーラン』に小便を引っ掛けた。やつらすることを止められないなんて言うなよ」と人気のあるインターネット・サイト「jihadunspun.net」は、読者に呼びかけている。メカニズムは簡単だ。信仰を同じくする兄弟たちに対する抑圧を自分の抑圧にする者は、自分の世俗的な怒りに宗教上の自由の戦いという輝きを与えているのだ。こうして、国境を越えたイスラム的同体感情が生まれる。それとともに、西欧が与えることのできない帰属意識が生まれる。オランダに住む若いイスラム教徒の世界像と敵のイメージを研究したハーバード大学の女性研究者ジェシカ・スターンは、次のように述べている。「今日、腹を立て反抗的であるということは、腹を立て、反抗的でしかも暴力的であるということを意味する。」
[訳者の感想]『ツァイト』紙にしばしば寄稿しているヨッヘン・ビットナー氏の論説です。社会的な差別が宗教的信念と結びついている点にロンドン・テロの動機を見出している点では目新しい論点はないようです。なぜ多くの若いパキスタン人がイギリス社会で落ちこぼれてしまうのかという理由がよく分かりません。パキスタン人がイスラム原理主義に同感しやすい理由が何かも知りたいと思います。
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2 コメント

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Unknown (kts)
2006-01-09 13:45:14
何だか当たり前のことしか書いてないような気がしますけど、特攻隊を自殺テロと同列に書いてあるのは気に入りません。特攻隊は戦争状態にあってのことで一般市民を対象にしたものではありませんから。これも印象操作かと疑念を持ってしまいます。
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違いはあるでしょう。 (medicus19)
2006-01-09 16:35:06
あなたの言われるとおり、日本の特攻隊は、民間人を巻き込むことが分かっているような攻撃をしたわけではありません。しかし、人間の命が失われることが分かっている方法で敵を攻撃したという点で、欧米人の目には、特攻隊もイスラムの自爆テロも同じに見えるのだと思います。
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