杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

〈自未得度先度他〉の酒蔵取材

2015-01-19 13:10:00 | 地酒

 2015年も、早や半月が経ってしまいました。完全休養できた日は正月2日の一日のみで、慌しい年明けとなりました。フリーランスにとっては幸先のよいスタートですが、19日になるというのに新年の飲み会がゼロでお誘いもなし(- -;)。こんな新年初めてかも。ちゃんと元日に酒の神様にお参りしたのに何か粗相をしたのかなあ。

・・・というのは冗談で、今冬は連日、酒蔵取材で神聖な気持ちで過ごしています。年明けには思いがけず大好きな人が作る雑誌から、大好きな蔵元の取材を依頼され、とても難しいテーマでしたが精魂込めて書かせていただきました。また静岡で開催されたIT事業者の全国規模のレセプションでは地酒ブースをお手伝いし、久しぶりに【吟醸王国しずおか】パイロット版を上映。若い男性が想像以上に地酒に関心を示してくれました。

 私が書いた記事や撮った映像やイベントブースで紹介できる銘柄はごく僅かで、日本酒の魅力を知るきっかけがないばかりに呑まずにいる(だけの)若い世代に、伝えられることは本当に小さい。そのことをあらためて痛感しましたが、たとえ小さな力でも、キャッチしてくれる人の力を信じ、ていねいに伝え続けていかねば、と思います。それは小規模な仕込みでも手を抜かず、妥協せず、誠心誠意造りに臨む蔵元・杜氏・蔵人さんたちからいただく大切な教え。禅の本で見つけた「自未得度先度他」=自分は未熟でも真摯に努力し続ければ他者のためになることもある、という言葉が胸に迫ってきます。 

 以下は当ブログを訪問してくださった地酒愛飲者の方々へのお年玉フォト集です。絶賛仕込み中の静岡美酒にどうぞご期待ください!

 

 志太泉酒造(藤枝市宮原)です。瀬戸川のほとりに洗濯物の干し場があって、蔵人さんを追いかけていったら、干し場の足元に水仙が揺れていました。冬の水仙は私が一番好きな花です。志太泉の仕込み蔵には、新選組の池田屋事件の舞台みたいなものすごい急勾配の階段があります。2階にある麹室まで駆け足で蒸し米を運ぶ作業はまるで討ち入り(笑)。

 

  私が心惹かれるのは、作業の前後の掃除風景。清潔を保つというのは、必要だからというよりも、酒造りに向かう姿勢を自ら律する意味があるように思えます。「姿勢をつくる大切さ」というのは、武道でも芸道でも坐禅でも同じだな、と。志太泉では杜氏の西原さん自ら、麹室の床掃除をしています。

 搾り機ヤブタの掃除をしているのは森岡さん。地元藤枝の茶農家の奥様で、なんと、多田信男さん(現・磯自慢杜氏)が志太泉の杜氏だった昭和58年から勤めています。今では一番のベテラン蔵人で、若い西原杜氏も全面的に信頼しています。大阪出身の西原さんは、志太泉の杜氏になってから家族ともども藤枝に移り住み、正社員にはならず、冬は杜氏、夏は茶師という生き方を選択しました。この2人、志太杜氏がその昔、冬は酒造り、春~夏は茶師として地域産業の欠かせぬ担い手だった伝統をしっかり継承しているんですね。

 

 

 島田の大村屋酒造場へは、若竹PREMIUM純米大吟醸(誉富士40%精米)の洗米作業をどうしても見たくてうかがいました。売り出し中の静岡県産米「誉富士」を40%まで精米して大吟醸にしているのはここだけ(理由はこちらを参照してください)。高精白した米は浸漬での吸水状況をシビアにチェックします。杜氏の日比野さんの真剣な眼差しを見ればお解かりでしょう。

 理想の蒸し米にするための吸水を経て水を切った米は、南部(岩手)出身の蔵人加藤さんが麻布に丁寧にくるみます。加藤さんは、日比野さんの師匠である前任の南部杜氏・菅原さん、菅原さんの師匠である南部杜氏板垣馬太郎さんと、3代の杜氏に仕える熟練の蔵人。ここでも若い杜氏を、蔵を知り尽くしたベテラン職人がしっかり支えています。無駄口を叩かず、杜氏の手元をしっかり見据え、次なる作業にキビキビと移る蔵人さんは、酒蔵の宝だ・・・と実感しました。

 

 萩錦酒造(静岡市駿河区)と富士錦酒造(富士宮市)の2蔵で杜氏を務める南部杜氏小田島健次さん。萩錦で小田島さんの補佐をするのは萩原郁子さん。蔵元の奥様です。蔵元夫人が現場で主力となって働いている酒蔵、女性として心から応援したくなります!!。

 

 そして青島酒造(藤枝市上青島)の蔵元杜氏青島孝さん。喜久醉松下米の浸漬です。大村屋の日比野さんと同じ眼差しでした。二人とも眼鏡をかけているので、白衣を着たら化学者みたいですね。もっとも青島さんは、蔵入りとは出家したようなものだというのが口癖で、私の禅の修学にも付き合ってくれる“変人”です。彼のことだから、ひょっとしたらいつかホンモノの禅僧になるかも(笑)。

 

 小田島さんと青島さんは、引退した喜久醉の前杜氏で南部杜氏富山初雄さんの直弟子という共通項があります。富山さんは、複数の蔵を掛け持ちする小田島さんには、変化する環境に即応できるプロのスキルを、蔵元の経営者兼杜氏という立場の青島さんには〈守・破・離〉の精神を伝えました。私には、〈酒を伝えるとは、人を伝えることだ〉と教えてくださったように思います。

 

 

 

 そして1月15日、グランディエールブケトーカイの4階大宴会場シンフォニーで開催されたJANOG25 Meeting in Shizuoka 懇親会でのひとコマ。これだけのスクリーンで【吟醸王国しずおか】を流していただけたのは大変光栄でした。もっとも観ている人はほとんどいなかったけど(苦笑)、居酒屋「のっち」の福島夫妻が用意した静岡銘酒18升が2時間でカラになりました。酒の試飲会でもないのに、ブースの行列が途絶えず、「隣で呑んでた人に勧められて来た」「静岡の地酒がこんなにうまいなんて」「今夜に限って他のアルコールは要らない」とあちこちから嬉しい声。IT関係者の集まりで、20~40代がほとんどでしたから、この世代に訴求できたのは大ヒットでした。

 

 「自未得度先度他」の他者の役に立っているという手応えが、回りまわって自分の成長につながるんじゃないか・・・厳冬の酒蔵で汗を流す職人さんたち、また地酒ブースで眼を輝かせていた若者たちを目の前にして、ほんの少し、確信が持てたこの半月。この先も、追々、酒蔵写真をUPしますので、スズキマユミの成長ぶり?を汲み取っていただけたら幸いです。

 


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