杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

最初の一歩と継続

2008-09-12 18:38:39 | 社会・経済

 この3日間で何文字打ったんだろう・・・数えるのも恐ろしくなるぐらい原稿書きに没頭しました。またまた首が回らなくなりつつ、どこか心地よい疲れ。仕上げた2本の原稿は、いずれもインタビューや対談の書き起こしですが、内容が琴線に触れるものばかりだったからです。

 

 

 

 

 偉業を成し得た人の生の言葉を、間近に聞いて、それをいち早く文字にできる幸せ。自分で書きながら瞬時に読者になって、その人の一代記を読破するような感覚です。ライターという仕事に就けた幸運をしみじみ感じます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1本目の原稿は、北陸のとある繊維会社社長の1時間半にわたるインタビューテープの書き起こしです。文字にして12千字ほど。先月、『吟醸王国しずおか』の撮影で、能登半島に行って来たばかりなので、能登という言葉に親近感を覚えました。その社長さんの、「北陸の人間は粘り強いんだ」という台詞も、波瀬正吉さんと奥さんの姿に重なってきます。恥ずかしながら、能登が繊維産業のメッカだってこと、このテープを聞いて初めて知りました。考えてみれば加賀友禅のお膝元ですよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 かつて地域を支える基幹産業だった繊維業も、海外からの安価な繊維に圧され、斜陽となり、後継者も激減。この社長さんは、織機の部品改良に力を注ぎ、糸を巻きつけるときに摩耗する部分に特殊なコーティングをして部品交換の頻度を飛躍的に減らすなど、地道な改革を推し進めました。

 

 

 

 

  

 

 コーティング技術の開発で知り合った大手電機メーカーと人脈を築き、やがて、極細糸のような金属線を編み込む技術が、そのメーカーの宇宙衛星機器の開発というビッグプロジェクトに採用。さらに軽くて高機能のスポーツウエア生地の開発にも成功。本業の白生地は、イタリアにも商圏を広げるなど、斜陽産業といわれた業界で次々に画期的な事業を成功させました。

 

 

 

 

 この社長さんの、一番印象に残った言葉です。

 

 

「最初の一歩を踏み出すまでの距離はとてつもなく長いが、やってみて、成功か失敗かがわかるまではとても短い。思い切ってやってみて、失敗しても、その経験を引き出しに置いておけば、その積み重ねが次の成功につながる。成功はつねにすぐ側にある。最初の一歩を踏み出さない人は、距離が遠いから何もできないし、引き出しにも何もたまらない」

 

 

  

 

 私も40代半ばにして、映画づくりという夢に挑戦するとき、最初の一歩を踏み出すまで、途方もない苦労を経験しました。撮影に入るまで、時間にしたら、わずか7ヶ月ですが、何年にも感じられるほど長かった。でも、先日のパイロット版上映会で感想をもらい、ある程度の手応えを得るまでの8ヶ月は、実に短く感じました。厳しい意見も、ちゃんと引出しに入った。

 一歩を踏み出した者だけが得るものがある!と心から思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2本目の原稿は、県広報誌MYしずおかの知事対談。昨日(11日)、東京のホテルニューオータニまで行って、石川知事と、静岡国際オペラコンクール第1回最高位受賞の大岩千穂さんの対談を取材しました。

 

 

 大岩さんは、10代の悩み多き頃、第9のコンサートで素晴らしいソプラノと出会い、「もらった感動はお返ししなきゃ」と即座に歌手になることを決断。声楽家修業は楽ではなく、「プロになれても、なり続けることは難しい」ことを何度も実感させられたそうですが、

 

 

 

 

  

 「続けているからこそ、感動を返せることができる。自分がそうだったように、喉が渇いている人・何かを欲している人に必ず届く。1000人2000人の観客のうち、一人でもそういう人がいれば本望。とにかく続けることが大切」

 

 

 と万感の表情で語っていました。芸術文化の世界でプロとして生き続けることの難しさを、何人かのアーティストとの出会いを通してそれなりに理解しているつもりなので、この言葉はジーンときました。

  

 

 

  自分は、アーティストと呼べるほど創造性のある活動はしていませんが、せめて、自分が書くもの、撮るものが、心の乾いた人に何かを届けられたら、と、心から思います。

 この2本の原稿からもらった感動も、ちゃんとお返ししなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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