ミンドロカラスアゲハ(Papilio hermeli Nuyda, 1992)はワシントン条約附属書Ⅰの規制対象種であるルソンカラスアゲハ(Papilio chikae Igarashi, 1965)に近似の別種として記載されたとても美しいアゲハチョウです。フィリピン・ミンドロ島固有種で北部のハルコン山(標高2587m)と中央部のバコ山(標高2488m)の高所に分布していて、2月から9月(最盛期は6月)まで優美な姿を観ることができます。上の画像はミンドロ島・カラパンからのハルコン山(中央・奥に山頂が観える)の姿です。
ハルコン山の標本を展翅していてオスの右表・後翅を彩る斑紋が少しおかしいことに気付きました。その部分がメスの斑紋にそっくりなのです。これはオス・メスの形質が混じった性モザイク個体だと判断しました。では交尾器はどうなっているのだろうと興味がわきました。解剖して調べると交尾器にも両性の構造が見出されました。おおざっぱに言えば背方がオス、腹方がメスですが、いずれも不完全な器官であり、子孫を残す可能性は無かったと思われます。解剖前の性モザイク個体の腹部末端の画像を下に掲げます。オスの形質を示すスーパーウンクスと呼ばれる器官(画像上部)が外部からも観察できます。
研究論文は日本蝶類科学学会の「Butterfly Science 6号」に掲載されています。ブログ用に簡略化したものが下の画像です。