えくぼ

ごいっしょにおしゃべりしましょう。

「冷めている聖夜~ころ柿の里~」

2012-12-22 14:01:48 | 歌う

  ★★★「冷めている聖夜~ころ柿の里~」★★★  松井多絵子

               ★★★

つれあいが我に逆らうときつねにその頤(おとがい)に左手があり

啄木がじっと見たのは左手か右手かあるいは冬の妻の手

湯沢駅一番線のホームにて再会する彼、ではない彼に

専攻は人体美学のこの人はわたしのからだの秋を知らない

百年に一度の不況を言いながらその手を見ている膝の上の手を

かつてあふるるほどの力のありし手は、あふるるほど光のありし手は

「わたしたち今も自意識過剰だわ」「猿だった頃に戻りたいなあ」

       ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

音のなき笛吹川にそいながら探していたり「ころ柿の里」

ころ柿の里のマップに犬小屋のごと信玄の恵林寺があり

しかしながらしかしながらというように歩いているかも肩を並べて

「柿はからだの中をきれいにするらしい」「あなたの心に柿の灯りを」

ひさかたの光かぼそき枯れ草の小道を歩く、街へ行こうか

今年との別れを知らせる唱なのだジングルベルを聴かねばならぬ

それ以上言わなくていい、これ以上言いたくはない清しこの夜

曲がり曲りてきし暗道をひき返す鉛の足を引きずりながら

くたびれた足がくたびれた靴をぬぎ冷えた廊下を踏むマイホーム

猫は耳をとがらせ我の嘘を聞き夫はタバコのけむりを放つ

 ※歌集『厚着の王さま』の「ころ柿の里」より 


「現代歌人百人一首~お国自慢」

2012-12-21 21:05:14 | 歌う

       ★「現代百人一首~お国自慢」① 2013年「短歌研究」1月号より

 3・11東日本大震災より一年あまり、ふるさとの大切さに身をもって気づかされた一年でした。そこで本年は日本全国から海外まで百プラス一名の歌人にお国自慢を詠っていただきました。新しい年をふるさとで迎えられる方も多いと思います。ことばや食べ物、自然などにふるさとのあたたかさや活力を感じていただけたらと思います。                               

❤ 秋漬けのキャベツほどよく酢をもちてイブの習ひのサルミつくれり  武藤佐枝子

  ※ 米、ひき肉等を酢キャベツやぶどうの葉で巻き込んで煮たものです。イブは精進料理の為、ひき肉は入れません。 ~ブルガリア・サルミ~

❤ 先人の遺せし想ひ漲りて「いllちゃりばlちょうでー」明るく行き交ふ  上原嘉善

  ※ 「出会えばみな兄弟」という遺訓が古来沖縄に伝わる。初対面でも親しく振る舞う慣習が島々を明るくしている。 ~沖縄県・先人の遺跡~

❤ 正月を祝わぬ国の元旦に食むカナダ産数の子昆布  鵜沢梢

  ※ カナダは大自然に恵まれている。海の自然も豊か。私の好きな数の子や数の子昆布も安く買えるのがいい。 ~カナダ・数の子昆布~

❤ 糸満のハーレー荒梅雨吹き飛ばししぶく潮の櫂の鮮やか  玉城洋子

  ※ 糸満の誇る二大行事のひとつ「糸満ハーレー」は旧暦5月4日の行われる海神祭。一名

    「四日の日」と呼ばれる。~沖縄県・糸満ハーレー~

❤ 千早振る照国神社の参拝の帰りに面を露店に買へり  上大迫實

  ※ 初詣や六月灯で知られている照国神社は、幕末の名君島津斉彬を祭ってある。斉彬は西郷や大久保らの人材の養成にも努めた。~鹿児島県・照国神社~


或るホームレス歌人を探る~その十六

2012-12-20 20:34:56 | 歌う

    「或るホームレス歌人を探る~その十六」  松井多絵子

2009年9月7日 永田選

 ● 瓢箪の鉢植ゑを売る店先に軽風立てば瓢箪揺れる  公田耕一

 永田は評に「瓢箪のリフレインがいかにも飄々とした趣。意味に縛られない作法がいい」と書いている。この一首以後、公田の作品は朝日歌壇に掲載されることなく九か月が過ぎている。

▲ なぜ、投稿しなくなったのか ※次回に詳しく書きます。

2010年6月現在、朝日歌壇に公田耕一は不在である。その理由を探る前に、彼の入選歌を集計してみよう。2008年12月から2009年9月まで。

   佐佐木幸綱選      九首

   高野公彦選      十七首

   永田和宏選      十一首

   馬場あき子選      三首

 合計四十首である。前年もっとも多く入選した美原凍子の三十首、郷隼人の二十八首よりはるかに多い。公田の場合は九か月である。さらに公田への応援歌はすでに十首も掲載され、朝日歌壇で最も注目されている時に、なぜ投稿を中止したのか、考えてみたい。

※この辺りを書いていたのは二年前の六月のはじめ。連休が終わり夏休み前の、旅行代金のもっとも安い時期。でも評論文の締め切りまであと三週間だ。私はイライラしていた。

 ❤ 友はみな旅をしている連休に夕餉のための瓜を乱切り

 ❤ ふきげんな我に焼かれて塩鮭のばら色の肌は土色となる

 ❤ アフリカの旅より帰りてきし友はわれより偉くゆたかに見える

        (歌集『厚着の王さま』より三首)   ~次は忍耐力テスト十七です~   


「現代歌人百人一首~お正月の味をうたう~」

2012-12-19 20:29:07 | 歌う

   ★ 「現代歌人百人一首~お正月の味をうたう」 短歌研究2012年1月号より

 お正月のお祝いには、みなさまはどのようなものを召し上がるのでしょうか。全国のお正月料理にはどんなものがあるのか。味付けや材料にはなにをつかわれるのか百名の歌人に詠っていただきました。守ってゆきたい伝統の味や、我が家の定番の味など、お正月ならではのご馳走の歌をお楽しみください。 ※99の名歌をさしおいて私の迷歌を取り上げる図々しさをお許し下さい。

 ❤ 老人の集うがに世田谷お煮しめの煮つまりてゆく年の瀬の夜  松井多絵子

材料は人参、牛蒡(ごぼう)昆布、蒟蒻(こんにゃく)。この正月料理は肌をきれいにすると言いながら「世田谷お煮しめ」と名づけたのは母。

※母の予想通り私は手抜き料理の達人になりました。あの世の母のため息が聞こえてきます。

❤ いつよりか厨のなかに見あたらぬ共に嫁ぎてきしすり鉢が

❤ 胡麻を炒りすり鉢でするそんなことしていたならば我がすり減る

❤手抜きして作る料理を食べながら母より長くこの世に居すわる

        以上は松井多絵子歌集『厚着の王さま』より、


「或るホームレス歌人を探る~その十五」

2012-12-18 20:38:25 | 歌う

    ★ 「或るホームレス歌人を探る~その十五」-響きあう投稿歌  松井多絵子

2009年7月27日 永田選

● 福島の桃に花咲きまろき実を結ぶ半年われにも半年  公田耕一

朝日歌壇に度々入選している美原凍子が夕張市から福島市へ転居した。住み慣れた土地を去らなければならない美原に公田は自身を重ね、この半年を思う。「まろき実を結ぶ半年われにも半年」のリフレインが叙情的だ。永田の評は「投稿開始後の半年を、美原凍子さんがしばしば歌う桃の消息に重ね振り返るか」

8月3日 佐佐木・高野選

● 野毛山を下れば汗の吹き出してドン・キホーテへ涼みに入る  公田耕一

 八月の街を歩いていると涼みたくなる。私もドン・キホーテなどへ入る。公田と同じことをしているのだ。高野によれば、野毛山は横浜の日ノ出町のそばにあるらしい。この日の歌壇欄で高野は「公田氏の生き方から励ましを感じる人の歌である」として次の歌も採っている。

❤ 生きていれば詠める ペンあれば書けることを教えてくれるホームレス公田氏  

                                  (飯塚市) 甲斐みどり

8月16日 馬場・高野選

● マクドナルドの無料コーヒー飲みながら方代さんの伝記読み継ぐ  公田耕一

 高野の評に「読んでいるのは田澤拓也著『無用の達人 山崎方代』か」とある。公田さんは山崎方代のような人か、いや違う。方代さんは自身を面白がる歌を度々詠んだ。

※ 次の「その十六」は公田さんから目が離せなくなります。いよいよ佳境へ。松井多絵子