本と生きる女優のミムラ
♠ 本という本が背をむけ立ちならぶ振りむかないで、そのままでいて 松井多絵子
朝刊をひらけば本の広告がわっと迫ってくる。スーパーへ行きながらつい書店に入ってしまう。私の街には書店は2店になってしまった。書店に入ると私は森のなかにいるような気分になる。書棚の本は木々のようだ。並木のように立ち並ぶ。それを手に取ったら買いたくなる。我が家には私に読まれるのを待ちわびている本がどっさりあるのに、、。
何年も前から本が売れないと騒がれているのに、自宅とは別にマンションの一室を書庫にしている若い女性がいる。昨日の☀リレーおぴにおん <本と生きる>は俳優・ミムラ。
1984年生まれ。2003年にデビューし、ドラマや映画で活躍。最新作は、10月公開の映画 「カノン」 著書に「文集」ほか。
ミムラは9年前から借りているマンションの一室で、多いときはは漫画や絵本も含めて月200冊も読む。本棚に並んだ背表紙を眺めるのも好き。自宅ではブックカートを使って、好きな本を数十冊並べて寝室、居間に移動する。本は気軽に入れ替えて新陣代謝する。
イタリア在住の作家、内田洋子や向田邦子全集はミムラのお守り。5年前、向田の役をテレビで演じたとき「人生のピースが圧倒的に足りないと感じた。本を読むことで、さまざまな感情のかけらみたいなものが自分の中に溜まっていく。役者って、一つの言葉にどれだけグラデーションを持てるかが問われるようなところがありますから。
いつか役者をやめることがあっても、本を読まなくなることはない。私にとっては寡黙な友であり、雄弁な師でもあります。顔写真のミムラは微笑している。まるでモナリザのように。
♠ 古書店の奥処に立ちているひとよ、振り向くなかれ暫し父なれ
9月30日 松井多絵子