えくぼ

ごいっしょにおしゃべりしましょう。

「佐藤佐太郎賞」のこと

2016-10-31 09:34:33 | 歌う

            「佐藤佐太郎賞」のこと

 パソコンに向かっている私の傍らにひと群れの紫陽花、ことしの初夏に庭に咲いた紫陽花が咲き続けている。散ることなく色褪せてゆく紫陽花を切り取り、室内の籠に入れたままの花がドライフラワーになっている。老女の紫陽花もそれなりに華やぎがある。

 ✿ あぢさゐの藍のつゆけき花ありぬぬばたまの夜あかねさす昼  佐藤佐太郎

 私の大好きな歌である。佐太郎のこの歌は紫陽花をさらに魅力あふれる花にする。ぬばたまの、あかねさす などの枕詞が紫陽花を陰影のある愉しい花にする。現代短歌新聞11月に「第三回佐藤佐太郎賞は大辻隆弘氏」が報じられている。秋葉四郎、大島史洋、小島ゆかり、永田和宏の選考委員により✿大辻隆弘著『近代短歌の範型』が決定した。

 大辻隆弘は1960年三重県生まれ。現在「未来」選者。受賞作は第三評論集。大辻氏についてはすでによく知られているので、とりあえず授賞式についてお知らせしたい。

 ✿ 「第3回佐藤佐太郎短歌賞」ならびに ✿ 「第4回現代短歌社賞」は
平成28年11月29日 (火) 午後6時~8時 中野サンプラザ13階 「コスモルーム」
会費:一般 8000円 学生 4000円※授賞式終了後の懇親会費も含む
申込方法: 氏名、住所、電話番号、所属結社名を書き添えハガキ、FAX。e-mail
〶 113-0033 文京区本郷1丁目35-26 現代短歌社 授賞式係
                               ㊟ 11月18日必着
お問い合わせ 現代短歌社 03-5804-7100 担当 :土屋

             ~   ~   ~   ~                                   

     佐太郎は次のような秋の名歌を私たちに遺してくれた。

 ✿ 秋分の日の電車にて床にさす光とともに運ばれてゆく  佐藤佐太郎

 

                      10月尽日 あかねさす昼  松井多絵子 

 


ある女子高校生のことば

2016-10-30 09:23:50 | 歌う

               ある女子高校生のことば

 折々のことば10月28日の✿ある女子高生のことば が切実になる。私が応援していた「広島」の逆転慘敗、昨夜は8回表で「日本ハム」が6点勝ち越した時にテレビを消した。

✿ 誰かの支えになろうとしているこの人が、一番支えを必要としていると思いました。
                                         ある女子高生のことば

 このひとことに鷲田清一は次のように書いている。

  患者さんの話を丁寧に聴き、「希望と現実の開きを、苦しみとしてキャッチ」し患者さんの支えとなるものを傍らでともに育んでゆくのが緩和ケアだと、医師の小澤竹俊さんは言う。が、ついに最後まで支えを見つけられない時は、足がすくみ、動けなくなる。ある高校で講演したあと、生徒の感想文の中のこのことばにふれ、涙があふれたという。朝日1月30日付の記事から。

 ♦ はだか木の根方に立ちいてはだか木を支え続ける根っこがいとしい 松井多絵子

 紅葉が見ごろになってきた。わたしは紅葉の名所に近づくと赤ワインのボトルを開けるような気分になる。11月の10日ごろ弥彦山へ行く予定だ。12月の上旬まで各地の紅葉を存分に楽しみたい。でも紅葉が散り、木々が裸になってゆくときは何とも淋しく辛くなる。葉を失いながらも木々は生きている。北風の中に立ち尽くしながらも生きている。冬になれば私は「はだか木」が愛しくなり北風が疎ましくなる。はだか木を護ってあげたくなるのは老化してゆく私を護もりたいからかもしれない。長い間優勝できない野球の「広島」に今年はぜひ優勝させたいと応援してきたのは、私への応援かもしれない。

         10月最後の日曜、朝から晴天  松井多絵子 

 


堀田季何歌集『惑亂』

2016-10-29 09:12:44 | 歌う

               堀田季何歌集『惑亂』

 歌人クラブ東京ブロックで表彰された3人の歌集、今日は堀田季何の歌集『惑亂』をご紹介したい。『惑亂』とは難しい題名である。特に『亂』という漢字は私たちに馴染みがない。著者は英語で小、中、高、大学の教育を受けている、海外で中学生の頃から日本語で短歌を書いていたそうである。登校日より通院日の方が多かったほど病弱だった。『惑亂』から20首抄出して表彰式で中原兼彦かこの難しい歌集を丁寧に解説した。

 堀田季何のプロフィール

 1975年12月21日生まれ、現在は品川区在住 短歌、俳句、翻訳、評論などが専門。短歌は春日井建に師事、中部短歌同人 2015年 第一歌集『惑乱』を書肆侃侃房より発刊
386首の中から20首を中原兼彦が抄出、その中から私の好きな7首を選んでみた。

                 『惑亂』より七首

      熱ありて白河夜船を漕ぎゆけば沈没前の朝(あした)のひかり

      扉ひらき山手線は品川の空気吐きすて田町を吸へり

      繪のなかの桃うまさうに見ゆるなり繪の前の桃くさりはじめて

      絶望はゆっくり来るの。神様が少しよそ見をしてゐるすきに

      潰されし蟻の隊列さかしまに辿りてゆけば智慧の樹のもと

      いささかの余情をもちて珈琲の黎(くろ)きは碗の縁をよごせり

      「わからない」 は答にあらず 我が国のデータは五割答にあらず

                 ~    ~    ~   

  歌集名の『惑亂』は著者が漢字にこだわっているらしく、掲出の歌のなかにも私たちがほとんど使わない古い漢字がいくつもある。絵は『繪』 黒は『黎』など作者のこだわりが現れている。「絵」よりも「繪」のほうが奥行があり、珈琲は「黒」よりも「黎」のほうが香りがいい。日本を離れて育ち、日本の古い文化への郷愁なのか、「繪のなかの桃」はとてもおいしそうだ。端正な表現は春日井建の作品をおもわせる。堀田の歌を読みながら、私は日本の言葉についての知識が乏しく、無神経なように思われてきた。

   堀田季何さま 日本で暮らしながら私は異邦人のような気がしています。 

                   10月29日  松井多絵子             

 


松尾祥子歌集『月と海』

2016-10-28 09:32:24 | 歌う

              松尾祥子歌集『月と海』 

 10月27日、歌人クラブ東京ブロックで「優良歌集」として表彰された3人の歌集について今日は『月と海』をご紹介したい。著者の松尾祥子は歌誌「コスモス」に所属している。河野裕子、栗木京子なども嘗ては「コスモス」の歌人、小島ゆかりは現在も「コスモス」で活躍している。この花が咲き始めると「秋になったなあ」とおもう。同時に咲いている秋バラのように華やかではないが、眺めていると気持ちのよい花である。

 歌集『月と海』は松尾祥子の52歳から55歳までの作品を収めている。女盛りの終わる
その時期に松尾は父君を見送り、夫君も見送っている。母上も歌を詠まれ、母は病む夫を、彼女も病む夫をそれぞれ詠む。父を失う辛さと夫を失う辛さが同じ時期に襲う、この世は怖い。表彰式で短歌結社「宇宙風」の押切寛子が『月と海』から20首抄出し解説した。そのなかから、私の好きな7首をとりあげてみる。

                『月と海』より七首

      五歳にも二十歳にもなりこのごろの父は自在に時間を行き来す

      夫のため押す保護者印その夜の夢にいちりん紅梅咲きぬ

      「大丈夫」 夫に言ひつつ自らに言ひ聞かせをり雨やまぬ午後 

      病院へ帰る夫の背ゆらゆらすゆつくりゆつくりゆつくり生きよ

      水仙に椿に君はやどりゐて君をらぬことまた思ひだす

      人はみなだれかの遺族 春分の朝をしづかに白百合ひらく

      月と海よびあひながらおんおんと水みちてくる稲佐の浜に 

 

   松尾祥子さま  私はときどき空が海に見えます。月は海に漂うような、

                  10月28日  松井多絵子

            、。


歌人クラブ東京ブロック大会

2016-10-27 09:23:24 | 歌う

            歌人クラブ東京ブロック大会

 昨日、中野サンプラザで歌人クラブ東京ブロック大会があった。恒例の「優良歌集」の表彰と講演、今年の優良歌集は ✿『霜葉』 著者・水谷文子 ✿『月と海』 著者・松尾祥子
✿『惑亂』 著者・堀田季何 ◆講演「歌ことばの現在」 講師 今野寿美  まず表彰された3人の歌集についてお伝えしたい。今日は 水谷文子歌集『霜葉』について。

 水谷文子は40年の都立高校教師生活を退いた節目として第二歌集を刊行した。ときおり批評精神をのぞかせながら端正な言葉を用いて題材を広げている。角川学芸出版『霜葉』から今井千草(短歌人編集委員)が20首を抄出し会場で解説した。その中から私の好きな7首を抄出する。

             水谷文子『霜葉』より七首

    バスケットボールとどろき肉体の飛び交ふごとく奔る若きら

    きのふのしごとけふのしごとの間に聴く泰山木のはな濡らす雨 

    霜葉はまこと花より紅ければ五十代すゑ愉しくをあらむ

    雪囲ひ済めばすつぽり冬となりじかんの無限にあつた冬の子

    いるかのジャンプ派手に褒めあげ失敗は見ぬふりをせよ 訓練士言ふ

    寡黙なる人こそよけれ的確に批評さるるは地獄にか似る

    新学期のわれはきつぱり宣言す「古典のノートは縦書きにして!」 

 作品のなかに元気な「水谷先生」が見え隠れして愉しい。自分の歌を的確に批評されると私も恐ろしくなる。水谷先生は「かりん」に所属。歌会での新鋭歌人の批評は厳しいであろう。若い人たちはほとんど横書き、せめて古典のノートは縦書きにと願う水谷先生、スミマセン。私も近頃は横書きが多くて。水谷文子には面識がないが杉並区在住、あるいは街で度々すれ違っていたかもしれない。秋田県出身とのこと。雪の歌に情感がこもっている。「時間の無限にあつた冬の子」の頃から彼女は歌人だったのであろう。

   次回は松尾祥子歌集『月と海』について書きます。 10月27日 松井多絵子