えくぼ

ごいっしょにおしゃべりしましょう。

あるきだす言葉たち10月29日

2013-10-30 14:43:40 | 歌う

        「あるきだす言葉たち・10月29日」

 宮本佳世乃さんの「あかるさに」は、わたしには「とびあがる言葉たち」である。

✿十月のひかりの橋を渡りけり

 明日で10月は終わってしまうのに、私はまだ「10月のひかりの橋」を渡っていない。渡れば
「アカシアの森」が黄金の葉をひろげ、私を包みこんでくれそうな句である。

✿秋の川扉ちらちら開きをり

 川のさざ波を扉に見立てたのだろうか。透きとおるガラスの扉に。

✿顔じゆうが金木犀の森となり

 金木犀は密集した葉に覆われて、小さな花は目立たない。しかし香りは切ないほど甘く木に引き寄せられて離れられない、宮本佳世乃さんは。

✿水澄んでいくつもの音入れ替はる

 澄んでいるのは池の水か。水面の雲が、木々が揺れるとき様々な音が聞こえる、秋の音か。

✿透明な傘をすべつてゆく秋よ

 ビニールの透明な傘は短歌にもよく詠まれるが、「傘を秋がすべる」とは大胆な表現だ。

 宮本佳代乃さんは1974年東京生まれ。「炎環」「豆の木」所属。句集『鳥飛ぶ仕組み』

10月30日 日の沈む頃となりました。ひかりの橋を渡るのは明日に。 松井多絵子


世界№1の報道写真

2013-10-29 14:02:25 | 歌う

             「世界№1の報道写真」

 ❤秋はもう去ろうとしている早朝のモミジの指もふるえていたり (松井多絵子)

 ふるえる指でめくった朝日朝刊2頁上段の ひと がきりっとした目で私を見ている。「アナタは呑気ね。短歌なんか作っていて」 この ひと に載るのは女でも女ではない。逞しい男のような女である。林典子さんだってそうだ。本格的な写真をはじめて4年で世界最大規模の報道写真の祭典「ビザ・プール・リマージュ」の最高賞を受賞、日本人で初めてである。しかも、まだ29歳。

 ある日突然誘拐され、見知らぬ男性と結婚させられる。中央アジアのキルギスで起きている「誘拐結婚」の現実を林さんは撮影したのである。被写体のほとんどが10~20代の同世代の女性。レイプ後に結婚させられ、3日後に自殺した女性もいる。「私が彼女だったら」と考えながら撮っているそうだ。だから林典子さんの写真は人の心を捉えるのだろう。

 キルギスでは4か月間、村々を回り、誘拐を企てる男性に接触。現場を撮影後、「事実を伝えたい」と被害女性から許可を得て作品化した。「ニュースにならない、普通の人々の苦悩を伝えたい」林典子さん、くれぐれも男性には気を付けてね。見知らぬ男と結婚しないように。

 10月29日 未婚の女よ、知ってる男だって結婚はくれぐれも用心してね。  松井多絵子 


朝日歌壇10月28日

2013-10-28 14:30:07 | 歌う

           ☀「朝日歌壇10月28日」☀

 秋が深まるほど淋しさも深まる。寒さは心も寒くする。今週は一人暮らしの老人の歌二首を。

<永田和宏選・第二席>
{評} 萩のこぼれ花を掃き寄せる時、不意に一人であることの寂しさを実感する。

✿階段にこぼれし萩の花掃きてひとりのわれのひと日のはじまり (香取市) 鎌形 てる

※ 細い枝に房状に咲く萩は秋の七草。赤紫も白い萩も小さな花。風が吹けば散りやすいい花だ
   その「こぼれ花」を掃き寄せる朝、「ひとり」からはじまる鎌形さんの今日の淋しさ秋の寂しさ。

<馬場あき子・第二席>
{評} 媼のくらしもどこか懐かしい。

✿一人だが亀三匹と暮らしいて意志の疎通もありという媼  (門真市) 山下 和子

※ 亀は堅い甲羅に覆われていて頭、尾、足しか見せない生きものだ。亀たち3匹と暮らす
   老女はそれなりに楽しいのだろう。その老女から「意志の疎通」という言葉を聞いた山下さん
   は戸惑ったのではないか。もうじき落葉し、一人暮らしのさみしさが身に染みる頃となる。

10月28日 「日本は四季があるからいい」と言う方はまだ若いですね。 松井多絵子


小島ゆかりの月

2013-10-27 14:54:00 | 歌う

           ☽小島ゆかりの月☽

 月はわたしたちを詩的な気分にする。とりわけ秋の月は哀愁があり目にも心にも沁みる。現代短歌文庫『小島ゆかり歌集』には魅力的な「月」の歌が多く収められている。その中から私の好きな「月」の歌を4首採りあげてみたい。

✿ 月ひと夜ふた夜満ちつつ厨房にむりッむりッとたまねぎ芽吹く

※ 月と玉ねぎの共通点は球形か。静かな月と芽ぶく玉ねぎのとりあわせ。ただそれけ
   でも歌になる。~むりッむりッ~というオノマトペが気が利いていて、オシャレな歌だ。

✿ わかりきつたることがわからぬわが頭上古代鏡のような月出づ

※ 博物館にある古代の鏡はガラスではなく今の鏡のようにはっきりとは映らない。茫々とした
   月を「古代鏡」に見立てた、この一言でこの歌は成功しているとおもう。

✿ 帰り来てドアを開ければ月光が盗人のやうに部屋に来てをり

※ 帰宅して部屋に灯をともす前の月明かりの部屋、月光が盗人のやうな、とは独特ですね。

✿ ポストまで遠回りする月のよる切手のなかの駱駝と歩む

※ 月を見ながら私もつい遠回りしますが、下句が冴えていますね。切手が大きくひろがり
   シルクロードの月夜の砂漠に読者を引き込んでしまう。  

 10月27日  今夜は小島ゆかりさんの月を見ますよ。ベランダから。 松井多絵子 


山を背負う女

2013-10-26 13:53:36 | 歌う

           「山を背負う女」 ~今田恵さん頑張って~

 ☁ あえぎつつ木の根を踏みつつ登るとき子羊雲に見られていたり (松井多絵子)

 10月25日朝日朝刊{ ひと }を読みながら、この人は山を背負っていると思った。いま28歳の今田恵さんが、はじめて「穂高山荘」に来たのは父に背負われて4歳の時。 標高2996mに立つ山荘は今年90周年を迎えた。山の案内人だった祖父が縦走中に嵐に遭い、尾根に避難小屋を作ろうとしたのが山荘のルーツ。恵さんは早大卒業後、26歳で父(70)から継いだ三代目である。

 この山荘はもともと風力や太陽光を利用する発電を導入していた。無料の無線LANも完備、ふとんは発熱素材、女性専用の部屋も用意している。山道の整備のほか、時には猛吹雪の中、救助に向かうか決断を迫られる。大学の同級生だった夫は「山を背負っていく自覚を持っている」と妻をサポートしている。この8月に長女が生まれた。「オメデトウゴザイマス」。山に鍛えられてますます逞しい一家になってください。「ここに山があるから登る」なんて甘いことを云う詩人はたわやすく遭難しますね。今田恵さん。わたしは山はもう無理。「丘のぼり」です。

 ☁ のぼりゆく最後の一人となりしあの黒姫山のコスモスの道
                         10月26日  松井多絵子 、