えくぼ

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歌とミニエッセイ

2012-12-03 14:02:37 | 歌う

❤亡き妹の誕生日が近づいてきました。癌のために世を去らねばならなかった妹の無念、わたしも無念です。 松井多絵子第二歌集『厚着の王さま』より二十首抄出します。             

         ★ いもうと 二十首抄    松井多絵子

病室の前にてわれは立ちすくむ、扉のむこうに癌のいもうと

点滴に細き腕(かいな)を任せいて何も話さぬいもうと、われも

眠いわと小声にて言いいもうとは瞼をとじる、眠ってほしい

なぜ癌になったのですかと妹の主治医に問えば「さあ、ねえ」と応える

自殺する癌細胞もあるらしい逞しく生きる癌細胞も

終戦の年に生まれたいもうとはいま癌細胞と戦っている

いもうとよ癌細胞を削除せよ、笑えばいいのだ笑えばいいのだ

子宮とはこんな形のものなのか茄ひとつが俎板の上

海へむく手術室にていもうとは子宮を失い笑顔を失う

癌はまだ体に残るいもうとの「快気祝」の干菓子は紅梅

死が迫る、緩和ケアーを言う医師の口調はやんわりのんびりしている

病室はスカイブルーに塗られいて窓のむこうの空は汚い

われのみが話していたり話さねば空気がさらに重くなりそう

たちまちに地上に降りきて十階の緩和ケアー病棟仰ぐ

この秋の旅の予定の記されぬ手帳の空白、白がふるえる

すでに遠くへゆきてしまいしいもうとの亡骸に会う真昼なりけり

苦しまず逝きしとう嘘あたたかく我はうなずき供花にふれる

死はふかき眠りか生はごく浅きねむりか、窓にひろがる夕日

あと幾度ここにきて骨を拾うのか火葬を待つこの四十分は

病む日々のいもうとのメールを収めたるケータイはいま枕辺にあり