・・・ あるきだす遠野真 ・・・
昨29日朝日の あるきだす言葉たち は今年の短歌研究新人賞を受賞した✿遠野真
彼は1990生まれ、千葉大学在学中である。「未来短歌会」に所属。先日、服部真里子歌集批評会で彼と初めて少しオシャベリをした。大柄な青年でときどき広島の投手・マエケンみたいに見えた。✿「強さと優しさの再定義」8首から気になる5首をとりあげてみる。
♦ 苦しんだ人だけが行く地獄だよそこでもっかい苦しむんだよ
※ 彼はまだ若いからこんな歌を作れるのだ。老人のわたしは「地獄」なんて言葉は怖くて使えない。この世で苦しんだ人は天国へ行けると安心していたのに。ヒドイわ、遠野君。
「もっかい」は木灰ではなく大阪弁の「もう一回」なのだろうか。
♦ 保冷剤握って夜へ飛び出していこうよ(誰に笑いかけたい?)
※ 保冷剤は消臭剤にもなるそうだ。夜の気ままな外出、さほど親しくない彼女をケータイで呼び出すのだろうか。そして彼女に保冷剤をさし上げる。嫌われますよ、彼女に。
♦ 満ち欠けをたいらかにするあかときを心待ちして人が滅びる
※ 夜の明けるころは満月も半月もあいまいなかたちになっている。ここまではしっとりした表現だ、下句が意表をつく。「心待ちして人は滅びる」 若い人には死は遠いのだ。、
♦ 手だ。とても柔らかくって小さくて誰の時間も延ばせないせない手だ。
※ 1連のなかで私はこの歌が一番好きだ。誰の時間も延ばせない手だ。なるほどである。魅力あふれる下句だ。手は詩歌に欠かせないモチーフなのである。
♦ 気負うなよお前が棄ててきたものはお前に飼われてたわけじゃない(ちゃんと見ろ)
※ 私が思っているほど他人は私のことなど気にしていないことは淋しい。遠野くんはすでに大人だなあと思う。でも、(ちゃんと見ろ) は蛇足のような気がするが、、。
9月尽日 松井多絵子