★ 「朝日歌壇あれこれ⑧」~幻だったかホームレス-歌人~
公田耕一を知ったのは4年前の12月8日の朝日歌壇である。
❤(柔らかい時計)を持ちて炊き出しのカレーの列に二時間並ぶ (ホームレス)公田耕一
ダリの絵の時計を効果的に詠み込んでいる。かなり歌歴のある人のような気がする
私は公田耕一から目が離せなくなってしまった。 2月16日、3月9日の入選歌に彼の情報。
❤哀しきは寿町といふ地名長者町さへ隣りにはあり
❤胸を病み医療保護受けドヤ街の柩のやうな一室に居る
その後、彼の病が回復した投稿歌が載るようになり私は横浜のドヤ街へ。昼すぎの長者町で
「ドヤ街はどの辺りですか?」と初老の女性に聞くと、「わたしも行ってみたいわ」と同行してくだ
さった。ホームレスは市の提供でドヤ街の古いビルの中で夜は過ごすらしいとのこと。そのビル
への路そして階段に約20人のホームレスがいた。寝ころんだり、座ったり、なぜか皆が離れ離れだれも話をしていない。近づく私を無視している。午後のひかりを浴びて無表情、無気力に
見えた。この中には公田耕一はいないと思った。そしてホームレス歌人は幻に思えた。が、とき
どき街で痩せた男の後ろ姿を見ていると、実在の人のような気もする。 松井多絵子