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救急医療/集中治療 胃管が入らないときの注意事項

2012年04月08日 22時54分13秒 | 救急医療

胃管挿入では無理は禁物

〜胃管が入らないときの注意事項〜

名古屋大学大学院医学系研究科 救急・集中治療医学分野

教授 松田直之

 

【はじめに】 

 経鼻胃管の挿入により,重症患者さんにおいてもできるだけ早く早期経腸栄養を開始できます。これは,1)消化管免疫を維持できること(人工呼吸器関連肺炎阻止策),2)薬剤や炎症性分子などの脂溶性分子の胆汁排泄の正常化,3)消化管血流維持を主な目的としています。しかし,胃管を胃内に留置できないときがあります。例えば,喉元で跳ね返ってくる場合,鼻腔から40cm程度で先に進まない場合などです。心肺停止蘇生後の胃内の脱気と胃内圧減少を目的とした場合や,集中治療開始において,早く胃管を挿入したいのですが,胃管が挿入できない。胃管を挿入できない場合があるのです。しかし,それで良いのです。胃管挿入には,いくつかのリスクがありますので,十分に注意していただき,診断の上で丁寧に挿入することをお勧めしています。もちろん,緊急の場合でない限り,胃がんや食道がんなどの術後であるとか,胃管挿入のリスクとなる内容について情報を得ておくことも必要となります。

【胃管留置における3つの注意事項】

 経鼻胃管挿入における障害ポイントとして,3つの狭窄部位(1.頚部:食道入口部,2.大動脈弓部による狭窄の胸部中部食道部,3.横隔膜下の腹部食道部)に注意して対応して下さい。

1.食道入口部:食道入口部を胃管が通過できるとよいのですが,重症患者さんでは頭頸部にダメージがある場合や救急でよく言うところのAのトラブル(Airway)では要注意です。このトラブルとしては,反転してきて食道へ進まないだけではなく,声門を通過してしまい気管内に誤入してしまう危険性です。気管内挿入は,気管挿管していても注意が必要です。胃管が40cmレベルから進まない??この確認として挿入したチューブから呼吸音が聞こえてこないか,スーハースーハー,人工呼吸の吸気/呼気に合わせて,胃管からの空気が漏れでてくるくるかどうかを必ず確認するようにしましょう。

2.胸部中部食道部:胸部大動脈解離がある患者さんでは特に注意が必要です。ここに炎症や損傷を起こすことで,吐血,大動脈食道瘻などの合併に注意が必要となります。

3.横隔膜下の腹部食道部:高齢者,胃食道逆流症(Gastro Esophageal Reflux Disease:GERD),横隔膜裂肛ヘルニアなどで注意をしています。また,心肺蘇生後などでは下部食道に食物残渣が残存している場合などもあります。私の経験では,ここに鶏肉が詰まっており,胃管が40cmから進まない。腹部食道部のトラブルとして,胃管が40cm〜45cmから進まないことに注意します。

【診断の重要性:胃管を留意できない場合】

 救急医療や集中治療などの全身管理では,集中治療室入室前に胸部から骨盤までの単純CT像を評価しておくことをお勧めしています。例えば,ショックや心肺蘇生後の全身管理において,蘇生による障害の評価が必須となります。多発外傷では,集中治療管理前にかならず頭頸部および胸部〜骨盤までのCT評価を行います。ここで,食道および胃を確認します。胸部大動脈解離の否定,胸下部食道や腹部食道の狭窄や食物残渣の沈着などがないことをCTで評価します。私からのアドバイスとしては,胃管挿入が難しい場合は,「必ず理由がある」,「挿入できない原因を評価して下さい」ということとなります。

【胃管挿入方法】

1.食道入口部:気管挿管下で食道内へ入っていかない場合は,喉頭鏡を使用したり,マギール鉗子を用います。気管挿管チューブのカフ圧については人工呼吸管理における最大気道内圧レベルの適切なカフ圧とし,食道入口部通過後に胃管が進みにくいなどのことがないように注意します。

2.胸部中部食道部:食道がんなどがない場合は,胸部大動脈解離でも通過してしまうと思いますが,胸部大動脈解離の有無には十分に注意し,胃管留置が食道・大動脈瘻孔(吐血)の原因となる危険性を皆で共有し,ご家族を含めて審議しておくことになります。

3.下部食道に食物残渣が確認された場合:気管挿管下での全身管理での胃管挿入では,経鼻胃管を鼻腔から挿入し,気管内挿入でないこと(胃管呼吸のないことの確認)とし,胃管に20 mLの水を出したり入れたりして愛護的に洗う方法があります。とにかく,気管内挿入でないことに注意しますが,慎重に20 mL程度の水の出し入れで洗っていると,すっと胃内に挿入できる場合があります。

【おわりに】

 胃管を挿入できない場合には,原因がありますので,その原因がどのようなことであるのかを評価するようにして下さい。このため,胃管を挿入できない場合には,CTなどで胃と食道を確認するように私はしています。これは,もちろん救急医療や集中治療の超急性期管理のためとなります。看護師さんに胃管挿入をお願いすることも多いですので,途中で止まってしまって挿入できない場合には,遠慮なく医師を呼ぶことをお勧めしています。


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