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救急医療 手指衛生レベルを高めるための工夫 〜直接観察法〜

2022年09月01日 08時11分19秒 | 救急医療

手指衛生レベルを高めるための実践的工夫

~手指衛生:「直接観察法」の活用の薦め~

 

名古屋大学医学系研究科 

救急・集中治療医学分野

松田直之

 

はじめに

 救急初療室(Emergency Room:ER)や集中治療室(Intensive Care Unit:ICU)における診療では,「感染防御策」が,感染症による2nd アタックや院内感染防御としてとても大切です。通常の診療時から,適切に手指衛生を意識して活動する習慣を大切にしています。救急科専門医,集中治療専門医,そしてスタッフの皆さんには,手指衛生の適切な指導を行うようにします。ERやICUでは,普段から適切に手指衛生を行なう教育が必要です。

 手指衛生におけるキィ・ワードとしては,まず,世界保健機関(World Health Organization:WHO)の「5 moments:5つの瞬間」があります。この「5 moments:5つの瞬間」を知識として知るだけではなく,実施できる環境を目標とすることが期待されます。

 「5 moments:5つの瞬間」では,手指衛生ができているかの評価者として「直接観察法」を体得し,ERやICU内で定期的に「直接観察法」を実施し,評価者となることをお薦めします。心肺蘇生,外傷診療,心筋梗塞診療,敗血症診療,さまざまな救急・集中治療診療と同様に,手指衛生のタイミングと実技を観察し,評価してあげ,ポジティブかつ適切にフィードバックされて下さい。

 

WHOの提唱する手指衛生の5 moments(5つの瞬間)

 WHOは,2005 年にグローバル患者安全チャレンジ(Global Patient Safety Challenge)を開始し,その一貫として2009 年に「手指衛生の 5 つの瞬間」を導入しています。2009 年に5月に,「SAVE LIVES ーClean Your Hands」を公表しました。

 手指衛生は,適切な方法で行う「医療技術」です。つまり,テクニックです。まず,擦式アルコール手指消毒の適切な方法として,① 手のひら,② 指間,③ 手背,④ 母指,そして手掌はタコを含めてなど,アルコール手指消毒は感染防御のための重要な「医療技術」でした。⑤ 手首を私は含めていますが,WHO自体は手首は重視していないようです。その一方で,擦式アルコール手指消毒を行う瞬間の教育,手指消毒のタイミングに対する「確認&いいね&フィードバック教育」が,とても大切と考えられています。WHOの提唱する手指衛生の5 moments(5つの瞬間),ここをしっかりできているかどうかを,救急初療,集中治療管理の中でも確認し,評価し,より良くなるためのポジティブフィードバックとして参りましょう。 

 手指衛生の5 moments(5つの瞬間)は,私たちが「患者ゾーン」と呼ぶ,1)患者さん,2)患者さんのベッド・テーブル・周辺・物品,3)カーテン,4)移動場所において実施されます。お手洗いやリハビリ等で移動するスペースも患者ゾーンとなります。ERやICUにおいて,医療従事者の皆が「患者ゾーン」を理解していることが大切です。ICUの個室以外ではベッド入り口に70 cm幅ブルーラインを設置する工夫を私は以前に提案しました。また,床の色調替えなどは施設内での工夫となります。患者ゾーンの把握と区分けという意味として,「ゾーニング」の理解も大切となります。

※ 5 momentsは「にまえ・さんご(2つの前・3つの後)」(と私は覚えています)

 □ 1の瞬間:患者さんに接する「前」

 □ 2の瞬間:清潔/無菌操作の「前」

 □ 3の瞬間:体液暴露リスクの「後」

 □ 4の瞬間:患者さんに触れた「後」

 □ 5の瞬間:患者さんの周囲環境に触れた「後」

 

手指衛生の5 moments(5つの瞬間)の診療教育

 実際の診療において定期的に,手指衛生の5 moments(5つの瞬間)ができているかどうかを観察し,評価してあげる「直接観察」,「直接評価」を実施できるとよいです。「直接観察」のチェックシートの例(図1/図2),「直接観察」の時系列記載用チェックシートの例(図3)などをご参照下さい。ERやICUのベッドサイドにおいて,このような「評価シート」を用いて接触感染予防の適正診療をクロスモニタリングします。手指衛生のタイミングの遵守のために,重要な教育になります。

 ERやICUでは,1人の評価者は,理想は2名の診療者の評価までとしますが,最大で3名の診療者の評価までとします。評価表(図2など)の□(四角)にチェックを入れ,手指衛生の未実施においては手袋を着用したままでの診療であれば◯(丸)にチェックします。

 1~5までの瞬間の評価において,1&4,1&2&5などのように,2重,3重,4重の複数のチェックとなる場合があります。その上で,4&5の重複評価はありません。4&5については患者さんに触れる際には患者さんに先に触れたことを優先し,そこで約束事として患者さんに接触した後の「4の瞬間」のみの評価とします。

 評価者の役割は,評価される診療者が,5 moments(5つの瞬間)を意識しているかどうかを評価することと,ポジティブにフィードバックすること,次の診療にプラスに生かされることを目標とします。

 

ERおよびICUにおける手指衛生のタイミングの5本ノック

□ 患者さんに接する直前に手指消毒をする。

□ 患者診療で体液暴露リスクがある場合は手袋を着用する。

□ 患者さんに触れた直後に手指消毒をする。

□ カーテンを閉めた後に手指消毒をする。

※ カーテンは周囲環境に含まれます。一生懸命仕事をしている時に,「カーテンをジャーとしめる」ことを慎みましょう。カーテンは丁寧にゆっくりと閉め,その後に「5の瞬間」として,手指消毒することに注意しましょう。加速度を付けてカーテンを閉めることは,患者さん,ご家族,他の医療従事者に不快な印象を与える場合がありますので,すべて「所作」に注意して診療する訓練をしましょう。一方で,カーテンを閉める前に手指衛生をし,患者さんの診療に当たるのは不適切です。5 moments(5つの瞬間)の規則では,カーテンを閉めた後に手指消毒をすることになります。

※ 患者周囲環境に触れる前の手指衛生は不要です。

□ 2名を連続で診療する場合は,1人目の患者さんへの接触前後で手指衛生し,2人目の患者さんの診察前にカーテンを触れたなどの環境接触の危険があれば手指衛生します。

 

おわりに

 ERは院外からの多剤耐性菌や新興感染症を持ち込むリスクのある部門です。そして,ICUは院内外の重症患者さんの診療部門として,院内外の薬剤耐性菌が持ち込まれ,また医療従事者を介して院内へ播種させる可能性のある部門です。この感染予防策として,手指衛生の徹底がとても大切です。WHOは,手指衛生の多角的戦略として,「5 compornants:5つの要素」と「 5 morments:5つの瞬間」を掲げています。本稿では,「 5 morments:5つの瞬間」を充実させるためのERとICUにおける工夫について解説しました。病原微生物の伝播阻止として,「5 compornants:5つの要素」という医療技術の安定を考えましょう。

※ 日本環境感染学会と日本集中治療医学会はWHOの指導下で,このような指導者養成コースをTrain the Trainers in Hand Gygiene(TTTコース)として開催しています。TTTコース,ご参加につきましても,ご検討下さい。

  図(参照) 

図1.手指衛生 直接観察 評価フォーム(ER/ICU)

 

図2.手指衛生 直接観察 評価フォーム(記入例)

 

図3.手指衛生 直接観察 連続評価フォーム

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