世の中には元気なお年寄りがいるものである。齢73歳にして、まだ産業として目途の立っていない野生のエゾシカを獲って、肉や皮を加工し、さらにはそれら製品を販売するという6次産業化を目指して会社を起ち上げようと奮闘する方の話を聴いた。
札幌をはじめ北海道内に発令されている「熱中症警戒アラート」のために、私が代表を務める「めだかの学校」も臨時休校を余儀なくされる羽目となった。というのも、本来であれば本日の午後、「歩いて巡ろう!札幌の公園」の第5弾として「西岡公園」を巡る予定となっていた。この企画も、今回だけは公園管理事務所が市民向けに行っている「おさんぽガイド」に相乗りする形で行うことにしていたのだが、管理事務所から「熱中症対策の意味もあり、今回は中止したい」という連絡があり、止むを得ず「めだかの学校」としても中止せざるを得なくなったということなのだ。北海道内を襲う熱波恐るべし!といったところだ。
さて、本題に戻ろう。毎週水曜日に受講している「中央区高齢者講座」の第9弾は「エゾシカのお話~エゾシカ6次産業化の勧め~」と題して、音威子府村在住で、N PO法人エゾシカネットに所属する秋山實氏を講師に招いて開講された。
※ 講演中の秋山氏です。とても若々しくエネルギッシュな方でした。
実は私は3年前に一度秋山氏のお話を伺ったことがあった。秋山氏は数奇な生き方をされてきた方のようだ。数奇と言っても別に怪しい生き方をしてきたということではない。東京電力に勤められたり、インターネット関連の事業を起こしたり、東北大学で博士号を取得したりと興味関心が多岐にわたる方のようである。そうした中で秋山氏がたまたま北海道で一か月ほど山登りなどを楽しんだ際に、北海道においてエゾシカが異常繁殖していることを知り、この問題を何とかしようと2016年、一念発起して音威子府村に移住したということなのだ。
それから猟銃免許を取得し、エゾシカ肉を加工する免許(管理栄養士)を取得するために名寄市立大学に4年間通い免許も取得したという。そして野生のシカ肉を流通に乗せるためには一刻も早く処理するための食肉処理場が音威子府周辺には無いことから、自ら私営の食肉処理場を手造りで建ててしまったという。いやいや、恐るべきエネルギーである。
その間の生活の糧は音威子府に「カフェ咲来」を開店して生計を立てているという。
※ 秋山氏が開発したシフォンケーキが人気のカフェ咲来だそうです。右は秋山氏です。
秋山氏のお話によると、いよいよエゾシカの6次産業化を目指して講演の翌日にも「咲来合同会社」の設立申請を提出するということだった。
秋山氏は講演中に何度も「政治家を紹介してほしい」、「政治を動かしたい」といった趣旨のことを話されていた。詳しくは承知しないが、秋山氏が考える6次産業化を推し進めるにはまだまだいろいろな隘路があるということのようだ。秋山氏の事業が軌道に乗ることを期待したい。そのことが増えすぎる道内のエゾシカ対策にもなることなのだから…。
それにしても私は秋山氏のエネルギッシュな生き方には驚いてしまった。齢73歳である。外見も若々しいが、その考え方、行動力はまるで若々しい起業家のようである。
講演後の質疑応答時に私は思わず質問してしまった。「事業は息子さんが引き継いでくれるのですね」と…。すると「いや、息子の意志は分からない。私は100歳まで生きるのだからまだ17年もあります」とまだまだ前向きだった。なお、息子さんは近くの自治体で地域起こし協力隊の一人として活躍し、狩猟免許も取得済みだという。きっと父親の素晴らしい生き方から大きな影響を受けていると思われる。きっと、彼が秋山氏の意志を継いでくれるであろう。
いやいや、私には秋山氏のような生き方はともてできないが、とんでもない刺激をいただいたことだけは確かである。もしこの後、生き方に躓いたときは、この日伺ったお話を反芻し私自身に勇気を注入したいと思った。