「季節風」新年号に、書評など、『しゅるしゅるぱん』関連の記事が3つ。
まずは、作家の岸史子さんが、『しゅるしゅるぱん』の書評を書いてくださいました。
非常に深く読み込んでくださって、感激しました。全部を載せたいところなのですが、後半部分だけ。
あの時、あっちの道を歩いていたら、と空想することは誰しもあるだろう。今と違う人生を歩く自分は、夢を実現させて輝いているかもしれない。つかの間の夢想は、自分を解放してくれる。しかし、こっちの道を歩いたからこそ見つけた小さくて不格好で不安定な幸せもある。それは手探りで絶えず確認しなければするりと逃げてしまう。そうできるのは自分だけなのだ。
物語の最後、奇跡が起こる。読者はしゅるしゅるぱんの想いが通じたことに心から安堵するだろう。長い歳月にわたって、彼がどれ程かあさんに見てもらって、声を聞いてほしかったか、心の叫びを知っているから…。
恐らく解人も成長するにつれ、しゅるしゅるぱんのことを忘れていくのだろう。道子やきらがそうであったように。しかし、それでいいのだ。なぜなら、しゅるしゅるぱんは妙と太一の果たし得なかった物語なのだから。妙がこっちの道を歩んだからこそ道子が生まれ、彬が生まれ、解人につながる。
転校先で、リレーの選手に選ばれたものの、バトンの練習がうまくいかない解人は、リレー仲間の宗太郎とも友だちになれそうでなかなかなれない。解人の葛藤や悩み、そして乗り越える力も含めて、誰もが向き合う日常である。こんな日常を私たちが送るのも、この世に生を受けることができたからに他ならない。一人ひとりのご先祖様が「こっちの道」を選んだ奇跡の積み重ねが、今の日常につながるのだ。ボディーブローのようにじわじわと効く物語を久しぶりに読んだ。
ありがとうございます。
岸史子さんの作品としては、『緑のトンネルをぬけて』(岩崎書店)があります。
次に、作家であり児童文学評論家でもある、土山優さんが、「季節風・子どもの本の2015年をふりかえって」の中で、「
面白かった。民話風な世界観のなかに、公界的な要素も入って、その発想のユニークさを堪能した」という書き出しで、取り上げてくださっています。正直言って、作者である私は、「公界」というものを理解できていません。土山さんは、面妖の妻の存在に注目してくださっているようです。それは、作者にとっては嬉しいことなのですよ。つまり、自分自身は実はちっぽけで、作品を統べているわけではなく、作者の無意識というものも根底にはあるわけで、読者が独自に読んでくれるという巾のある作品であり得るほうが好ましい。
面妖と妻の部分は、本になった部分以外にも、ずいぶん書きました。(二人の出会い。朱瑠にもどってからのやりとり。面妖が先に死んで、そのお葬式のところも。その上でカット)そこを感じてくださったことに感謝です。
そうそう、カットしたものには、太一の少年時代の部分もあります。家庭教師でもあった担任から受けたもろもろの中には、その教師が駆け落ちをしたというエピソードもあり、読み返したくなりました。(まだどこかにとっているはず)そんなことを思い出させてくださる、土山さんの文章でした。
土山さん、フェイスブックに『しゅるしゅるぱん』のレビューも書いてくださっていて、私がやっていないため、個人的に送っていただいていました。それを貼り付けさせていただきます。
『しゅるしゅるぱん』を手にした日、南部岩手のどこぞ、空想がはばたく彼の地の物語を、興味津々、読んだ。
私の亡父は、南部二戸の禅宗曹洞宗寺院の長男だった。でも僧を嫌いテクノクラートになった。そのテクノクラートは人の心はテレビではない、 己の思いは言語で説明せよと常々主張していたが、一方、講談のように、南部の物語を語った。そんな日々を思い出しつつ読んだ作品だった。
南部には、大昔から、いわば現世のやり取りを超越する世界観が存在した。例えば、『小○』に『野心あらためず』。例えば『吉里吉里人』。例 えば『銀河鉄道』。
なんとまぁ、壮大で明朗で イキイキとしたドラマチックな物語ばかりであろうか。東北人の生命力を感じるではないか。
そして、『しゅるしゅるぱん』である。いいね、この湿っぽくない語り口。で、その『しゅるしゅるぱん』、好奇心がつのった箇所があった。
それは、太一さ ん。彼はなんで妙さんとの約束をはたせなんだか。あの純愛が実らなかった理由が気になりながら、読み進んでいくと、太一さんが選んだ、そのお 方が、芸者さんと知って、腑に落ちた。私的には吉原の遊女がベストだけど、児童文学のカテゴリーですからね。それはない。
日常世俗ではないところで生きてる人には、見えてしまうものがあるのですよ。日本では、かの古来から。
土山優さんの作品は、『海のむこう』(新日本出版社)。小泉るみ子さんの絵による絵本です。
そして、「新しい風」として、私の文章も載せてくださっています。亡き後藤さんとのやりとりを書かせていただきました。これに関しては、「よかった」という感想を数人からいただいています。← うれしい。
そして、(またかい)私も書評委員会のひとりとして、梨木香歩さんの『岸辺のヤービ』(福音館書店)の書評「愛しきクリーチャーの世界」を書かせていただいています。
長々となってしまいました。読んでくださってありがとうございます。