報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「市街地へ向かう」

2022-10-26 15:23:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[8月12日15:45.天候:晴 宮城県仙台市青葉区作並 仙台市営バス作並温泉元湯停留所→市営バスS840系統車内]

 現場監督に教えられた通りの道を行くと、迷わず作並温泉の温泉街に辿り着くことができた。
 そして、大きな旅館を名乗るホテルの向かい側に、仙台駅前行きのバス停があった。
 バス停のポールは2つ立っており、1つは山形県のバス会社が運行する特急バスの停留所。
 もう1つは、このバス停を起終点とする仙台市営バスの停留所だった。
 尚、市営バスの方は『作並温泉元湯』という名前であり、山交バス(山梨交通ではなく、山形交通)は『作並温泉』を名乗る。
 時刻表を見ると、どちらもあまり本数は多くない。
 市営バスにあっては、1時間に1本という状態だ。
 だが、市営バスの方は、少し待っていれば乗れるようである。
 もっとも、バス停に先客はいなかった。
 上り線の方には酒屋が建っており、この時間はまだ営業していた。

 高橋:「先生、ちょっと一服します」

 高橋はそう言って、タバコを取り出しながら喫煙所に向かった。
 酒屋ながらタバコも売っており、店先に吸い殻入れもある。

 愛原:「俺は何か買って来る」
 高橋:「酒っスか?」
 愛原:「なワケあるか!……昼抜きだったから、少し食べ物買ってくるよ。酒屋だから、つまみとか何か売ってるだろ」
 高橋:「さすがですね」
 愛原:「リサはどうする?」

 リサは自分の人間だった頃の記憶を断片的に思い出したショックで、嘔吐したくらいだ。
 食欲は……。

 リサ:「……食べる」

 リサのお腹がグウグウ鳴っているのが分かった。
 時間が経って、少しは落ち着いたのかもしれない。
 私は店内に入った。
 コンビニではないので、少し気は引けたが、リサはトイレも借りた。
 こういう時、リサの方がコミュ力が高かったりする。
 さすがに酒は買えないが、水やら麦茶やらを購入した。
 買った後で一気にガブ飲みしてしまったのは、それほどまでに喉が渇いていたということだ。
 それはリサも同じだった。
 高橋にあっては飲み物の他、タバコも買い足している。

 愛原:「バスが来るまでの間、ちょっと善場主任に連絡しよう」

 私はスマホを取り出すと、それで善場主任に連絡した。
 さすがに温泉街まで来れば、電波もバリバリ入っている。
 報告が長くなると思い、私は重要点だけをまず話した。
 やっぱり今回の探索で最重要点だったのは、日本アンブレラの秘密研究施設だろう。
 そして、そこに捕らわれていた少女達。
 カプセルの中に入れられ、液体に浸されているので、生きているかどうかは分からない。
 今現在の段階で警察が捜査中の、行方不明の少女達は間違いなくあの中にいると思われる。
 そんなことを話しているうちに、バスがやってきた。
 市街地まで片道1時間以上掛けて走る路線バスだが、車種は全国的に見られるごく普通の大型ノンステップバスである。

 高橋:「先生、先に乗って席確保してますんで」

 1時間に1本のローカル線ながら、交通系ICカードが使える。
 中扉から乗った高橋とリサは、手持ちのICカードを当てて、後ろの席に向かった。
 この時点で、ここから乗る乗客は私達の他に2~3人ほど。
 地元民と思われる老婆と、温泉客と思われる壮年男女の2人連れくらい。

 善場:「バスが出るのですか?それでは、続きはまた後ほどでお願いします」
 愛原:「申し訳ありません」
 善場:「いいえ。これはお手柄なんてものではありません。表彰ものです。すぐにBSAAに出動してもらいます。所長達も、どうかお気を付けて」
 愛原:「はい。失礼します」

〔「16時ちょうど発、仙台駅前行き、発車致します」〕

 愛原:「待って待って待って」

 私は電話を切ると、急いでバスに乗り込んだ。
 もちろん、カードをタッチすることは忘れない。

〔発車致します。ご注意ください〕

 私が乗り込んだのを気に、中扉は電車のようなドアチャイムを鳴らして閉まった。

 高橋:「先生、こっちへ」
 愛原:「ああ」

 私は1番後ろの席に誘導された。
 進行方向左側の窓側にはリサが座り、私がその隣に座って、高橋に挟まれるような形だ。
 バスはダイヤ通りに起点のバス停を発車した。

〔ピン♪ポン♪パーン♪ いつも、市営バスをご利用くださいまして、ありがとうございます。このバスはS840系統、作並駅前、市営バス白沢車庫前、愛子駅前経由、仙台駅前行きです。次は作並温泉仲町、作並温泉仲町でございます〕

 バスの中は冷房が効いて涼しい。
 リサは酒屋で買ったつまみのビーフジャーキーや、サラミジャーキーを食べている。
 私も、アタリメを購入した。
 ところがこのアタリメ、何だか味がしない。
 ……まさか、私もついにコロナに感染!?
 ……なわけがない。
 Tウィルスに抗体を持つ者は、新型コロナウィルスにも抗体があるのだとアンブレラの資料に書いてあった。
 何しろ、同じ生物兵器繋がり、材料が同じという陰謀論が……ゲフンゲフン。
 要は私も思いの外、汗をかき過ぎて、体内の塩分が不足していたのだ。
 それで体が塩分を欲しがって、アタリメに含まれている塩分、つまりしょっぱさを感じにくくしてしまったのだろう。
 麦茶にもミネラルは含まれているが、これよりもスポーツドリンクの方が良かったか。

 高橋:「先生、駅に行って、荷物取って来ないと、ですよね?」
 愛原:「それもそうだな。これだったら、JRじゃなくて、地下鉄のコインロッカーに入れておけば良かったな」
 高橋:「そうなんですか?」
 愛原:「俺の記憶が正しかったら、このバス、終点の仙台駅前は、青葉通の地下鉄乗り場の前に止まると思うんだ。だから、そこからJRの駅まで行かないといけないという思いをするならな……」
 高橋:「あー、なるほど」
 愛原:「もっとも、ホテルに行くなら、ちょうど道のりなんで、けして無駄足というわけではない」
 高橋:「さすがですね」

 この2人が宿泊するホテルは、仙台駅東口を出た所にある。

 愛原:「宿泊代と食事代は俺が出すから、まあ、ゆっくりしていてくれ」
 高橋:「あざっす」
 リサ:「先生、今日の夕飯、一緒じゃないの?」
 愛原:「悪いが、今夜は集まって来た親戚達と夕食会があるんだ。それに出なきゃいけないんでね」
 リサ:「えー……」
 愛原:「東口にも食べる所とかあるから、高橋、リサに好きな物食わせてやってくれ」
 高橋:「了解っス。どうせこいつが食べるの、肉一択でしょうけどね」

 高橋はリサが持っているビーフジャーキーの袋を指さして言った。

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