[10月25日18:00.天候:雨 長野県北部山中 マリアの屋敷B1F・機械室]
マリア:「Restart!」
ガチャ!ガチャ!
ブゥゥゥン……!!
稲生:「あっ、また電気点いた。良かった良かった」
マリア:「全く。雨が降る度に停電して、再起動させられる身にもなってみろってんだ」
稲生:「まあまあ。それにしても、あの台風の時から随分と調子が悪くなりましたね」
マリア:「師匠曰く、『消耗品だからねぃ』だそうだ。今さら取って付けたような理由言いやがって……!」
稲生:「でもそれは本当のことなんでしょう?それはそれとして、だったら早いとこ新しいものと交換してもらいませんと……」
マリア:「さすがに師匠も、それは分かってると思うけどね」
2人の魔道士はそんなことを話しながら、地上階へ向かう階段を登った。
稲生:「……ックシュ!」
マリア:「大丈夫か?」
稲生:「ええ。急に冷えてきましたね」
マリア:「屋敷内は定温に保たれているはずなんだけど、さっきの停電で冷えたかな。そういえば、私も上着を脱ごうとは思わなかった」
マリアは相変わらず緑色のブレザーを着ていた。
シングルだと本当にJKに見えてしまうのでダブルを着ているが、それでも容姿が幼く見えるからか、コンビニなどで酒を買う時はパスポートを出すようにしている。
その為、イリーナからは、そろそろイリーナのような大人っぽいドレスを着用するように言われているが……。
稲生:「マリアさん、その服、とても似合いますもんね」
マリア:「勇太が気に入ってくれなきゃ、私はもっとぞろっとした服を着ていただろうね」
マリアは目を細めて答えた。
[同日18:30.天候:雨 マリアの屋敷1F・大食堂]
イリーナ:「ご苦労さん。多分もう今日は停電しないと思うから、あとはゆっくりしよう」
食堂に行くと既に夕食の用意はできあがっていた。
イリーナがナイフとフォークを手に取ると、それが食事開始の合図である。
稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。いただきます」
マリア:「昔は『天におられる私達の父よ』ってやってたんだけどな……」
イリーナ:「その『父』に助けてもらえなかったから、ここにいるんじゃない」
マリア:「まあ、そうですけど」
イリーナ:「それは私も同じ」
稲生:「仏様だったら、すぐそこにいらっしゃいますよ。御受誡します?」
マリア:「しない!」
イリーナ:「勇太君、あくまでも仏教だけが黙認されているというだけで、大っぴらに許されているわけじゃないんだからね?」
稲生:「はい、すいません」
マリア:「何で仏教だけ黙認されてるんです?」
イリーナ:「それは私達も詳しいことは知らないのよ。『魔女狩りの歴史が無いから』とか、『ダンテ先生がかつて仏教に興味を持たれていたから』とか、色々と噂されているけど……」
稲生:「もしかして、日蓮大聖人の御前にいらっしゃったことがあったとか?」
イリーナ:「それは無いわね。その日蓮さんは、インドとかには行ったの?」
稲生:「いえ、行ってないです。そもそも外国にすら行かれてないです」
イリーナ:「じゃあ、違うわ。今から800年くらい前の話でしょう?誰も、ダンテ先生が日本に行ったなんて知らないもの」
マリア:「師匠達ですら大師匠様のお姿を常に追われているわけじゃないんでしょう?実はこっそり日本に行ってたという可能性は?」
イリーナ:「それも無いわね。あの時はポーリン姉さんなどがダンテ先生の付き人みたいなことをしていたの。もし日本に行ってたら、すぐに分かるわ」
稲生:「さっき、インドが出て来ましたけど……」
イリーナ:「インドには行かれたみたいね。でも、そこで仏教に触れたとかいう話は聞いてないわ」
稲生:「その頃からインドってイギリスの植民地でした?」
イリーナ:「いや、そんなことないよ。その頃は独立した王国だったわ。もっともその時、ダンテ先生は似たような予言はされたみたいだけど」
稲生:「なるほど……」
イリーナ:「ま、いずれにせよ、今はダンテ先生の御好意で仏教徒でいられるんだから、感謝しなさいよ」
稲生:「も、もちろんですよ」
イリーナ:「ぶっちゃけ、ガウタマ・シッダールタよりもダンテ先生の方が……あうっ!」
マリア:「!?」
稲生:「どうしました?」
イリーナ:「腰にギアス(呪い)が……!」
マリア:「また腰痛ですか……」
イリーナ:「これはきっと、今の話をダンテ先生が聞かれてて……『これ以上は言うな』と……」
マリア:「はあ?」
稲生:(大師匠様と仏教、一体何の関係が……?)
イリーナ:「ア、アタシゃ先に休ませてもらうよ……。ごちそうさま……」
イリーナはヨロヨロと立ち上がると、魔法の杖を老人の杖代わりに突き、マリアのメイド人形達に支えられて席を立った。
マリア:「ただの持病でしょ」
マリアは素知らぬ顔でステーキを口に運んだ。
稲生:「でも、先生ほどの方なら腰痛くらい魔法で治せそうなものですが……」
マリア:「だから、その魔法も効かないくらい歳なのよ。あの体、耐用年数が迫っているっていうし」
稲生:「そんなもんですかねぇ?」
マリア:「そんなもんよ。魔力が弱かったら、とっくに老衰でくたばってる体だよ、あれは」
大魔道師の強い魔力で、まだ30代女性の見た目を保っているのだ。
美魔女どころの騒ぎではない。
マリアなど、契約悪魔ベルフェゴールの『特典』で、未だに契約当時の18歳のままだ。
稲生はまだ正式な契約はしていないのだが、既にそれが内定している悪魔から、何らかの『特典』は受けているもよう。
こうすることで、他の悪魔からの横取りを防いでいるのだという。
稲生:「なるほど」
マリア:「それより、今度の『ダンテ先生を囲む会』、日本で開催だからね?この国を拠点としている私達がホストになって、しかも日本人である勇太が率先して会場押さえとかしなくちゃいけないけど、大丈夫?」
稲生:「あ、はい。あの、『ダンテ先生を囲む会』は、俗称でしょう?多分、令和天皇即位に絡んだ動きではないかと……」
マリア:「まあまあ。それとも、『魔女達の舞踏会』にする?」
稲生:「そっちの方がカッコいいかもしれませんね。とにかく、高級ホテルとかは押さえておきますので……」
マリア:「頼むよ。こういうのが上手く行って、大師匠様の覚えがめでたかったら、勇太もマスターにしてもらえるから」
稲生:「魔法とかの実力を見られるんじゃないんですか?」
水晶球の向こうで、大師匠ダンテ・アリギエーリが苦笑していたことは言うまでもない。
マリア:「Restart!」
ガチャ!ガチャ!
ブゥゥゥン……!!
稲生:「あっ、また電気点いた。良かった良かった」
マリア:「全く。雨が降る度に停電して、再起動させられる身にもなってみろってんだ」
稲生:「まあまあ。それにしても、あの台風の時から随分と調子が悪くなりましたね」
マリア:「師匠曰く、『消耗品だからねぃ』だそうだ。今さら取って付けたような理由言いやがって……!」
稲生:「でもそれは本当のことなんでしょう?それはそれとして、だったら早いとこ新しいものと交換してもらいませんと……」
マリア:「さすがに師匠も、それは分かってると思うけどね」
2人の魔道士はそんなことを話しながら、地上階へ向かう階段を登った。
稲生:「……ックシュ!」
マリア:「大丈夫か?」
稲生:「ええ。急に冷えてきましたね」
マリア:「屋敷内は定温に保たれているはずなんだけど、さっきの停電で冷えたかな。そういえば、私も上着を脱ごうとは思わなかった」
マリアは相変わらず緑色のブレザーを着ていた。
シングルだと本当にJKに見えてしまうのでダブルを着ているが、それでも容姿が幼く見えるからか、コンビニなどで酒を買う時はパスポートを出すようにしている。
その為、イリーナからは、そろそろイリーナのような大人っぽいドレスを着用するように言われているが……。
稲生:「マリアさん、その服、とても似合いますもんね」
マリア:「勇太が気に入ってくれなきゃ、私はもっとぞろっとした服を着ていただろうね」
マリアは目を細めて答えた。
[同日18:30.天候:雨 マリアの屋敷1F・大食堂]
イリーナ:「ご苦労さん。多分もう今日は停電しないと思うから、あとはゆっくりしよう」
食堂に行くと既に夕食の用意はできあがっていた。
イリーナがナイフとフォークを手に取ると、それが食事開始の合図である。
稲生:「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。いただきます」
マリア:「昔は『天におられる私達の父よ』ってやってたんだけどな……」
イリーナ:「その『父』に助けてもらえなかったから、ここにいるんじゃない」
マリア:「まあ、そうですけど」
イリーナ:「それは私も同じ」
稲生:「仏様だったら、すぐそこにいらっしゃいますよ。御受誡します?」
マリア:「しない!」
イリーナ:「勇太君、あくまでも仏教だけが黙認されているというだけで、大っぴらに許されているわけじゃないんだからね?」
稲生:「はい、すいません」
マリア:「何で仏教だけ黙認されてるんです?」
イリーナ:「それは私達も詳しいことは知らないのよ。『魔女狩りの歴史が無いから』とか、『ダンテ先生がかつて仏教に興味を持たれていたから』とか、色々と噂されているけど……」
稲生:「もしかして、日蓮大聖人の御前にいらっしゃったことがあったとか?」
イリーナ:「それは無いわね。その日蓮さんは、インドとかには行ったの?」
稲生:「いえ、行ってないです。そもそも外国にすら行かれてないです」
イリーナ:「じゃあ、違うわ。今から800年くらい前の話でしょう?誰も、ダンテ先生が日本に行ったなんて知らないもの」
マリア:「師匠達ですら大師匠様のお姿を常に追われているわけじゃないんでしょう?実はこっそり日本に行ってたという可能性は?」
イリーナ:「それも無いわね。あの時はポーリン姉さんなどがダンテ先生の付き人みたいなことをしていたの。もし日本に行ってたら、すぐに分かるわ」
稲生:「さっき、インドが出て来ましたけど……」
イリーナ:「インドには行かれたみたいね。でも、そこで仏教に触れたとかいう話は聞いてないわ」
稲生:「その頃からインドってイギリスの植民地でした?」
イリーナ:「いや、そんなことないよ。その頃は独立した王国だったわ。もっともその時、ダンテ先生は似たような予言はされたみたいだけど」
稲生:「なるほど……」
イリーナ:「ま、いずれにせよ、今はダンテ先生の御好意で仏教徒でいられるんだから、感謝しなさいよ」
稲生:「も、もちろんですよ」
イリーナ:「ぶっちゃけ、ガウタマ・シッダールタよりもダンテ先生の方が……あうっ!」
マリア:「!?」
稲生:「どうしました?」
イリーナ:「腰にギアス(呪い)が……!」
マリア:「また腰痛ですか……」
イリーナ:「これはきっと、今の話をダンテ先生が聞かれてて……『これ以上は言うな』と……」
マリア:「はあ?」
稲生:(大師匠様と仏教、一体何の関係が……?)
イリーナ:「ア、アタシゃ先に休ませてもらうよ……。ごちそうさま……」
イリーナはヨロヨロと立ち上がると、魔法の杖を老人の杖代わりに突き、マリアのメイド人形達に支えられて席を立った。
マリア:「ただの持病でしょ」
マリアは素知らぬ顔でステーキを口に運んだ。
稲生:「でも、先生ほどの方なら腰痛くらい魔法で治せそうなものですが……」
マリア:「だから、その魔法も効かないくらい歳なのよ。あの体、耐用年数が迫っているっていうし」
稲生:「そんなもんですかねぇ?」
マリア:「そんなもんよ。魔力が弱かったら、とっくに老衰でくたばってる体だよ、あれは」
大魔道師の強い魔力で、まだ30代女性の見た目を保っているのだ。
美魔女どころの騒ぎではない。
マリアなど、契約悪魔ベルフェゴールの『特典』で、未だに契約当時の18歳のままだ。
稲生はまだ正式な契約はしていないのだが、既にそれが内定している悪魔から、何らかの『特典』は受けているもよう。
こうすることで、他の悪魔からの横取りを防いでいるのだという。
稲生:「なるほど」
マリア:「それより、今度の『ダンテ先生を囲む会』、日本で開催だからね?この国を拠点としている私達がホストになって、しかも日本人である勇太が率先して会場押さえとかしなくちゃいけないけど、大丈夫?」
稲生:「あ、はい。あの、『ダンテ先生を囲む会』は、俗称でしょう?多分、令和天皇即位に絡んだ動きではないかと……」
マリア:「まあまあ。それとも、『魔女達の舞踏会』にする?」
稲生:「そっちの方がカッコいいかもしれませんね。とにかく、高級ホテルとかは押さえておきますので……」
マリア:「頼むよ。こういうのが上手く行って、大師匠様の覚えがめでたかったら、勇太もマスターにしてもらえるから」
稲生:「魔法とかの実力を見られるんじゃないんですか?」
水晶球の向こうで、大師匠ダンテ・アリギエーリが苦笑していたことは言うまでもない。
天候も良好。
あの苦労は何だったのかと思うくらいだ。
どうやら私はしばらく独り信心で良いらしい。
通常ならここから登山バスに乗り換えるところだが、渋滞という魔の妨害を避ける為、富士駅から身延線に乗ることにする。
西富士宮駅から田舎道でも通れば渋滞など無縁だろう。