[2月12日10:00.天候:晴 東京都葛飾区小菅 東京拘置所]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は東京拘置所に収監されている高野君への面会に来た。
初公判まで、いよいよあと1ヶ月か。
高野:「どこまで真相に近づきましたか?」
と、アクリル板の向こう側にいる高野君が聞いて来た。
愛原:「白井伝三郎という名前に聞き覚えは無いか?」
高野:「ありますよ。日本版リサ・トレヴァーの開発者でしょう?……まあ、今はどうかは知りませんが、ただのロリコンですね」
愛原:「知ってたのか!」
高橋:「何で黙ってたんだ!?」
高野:「五十嵐の所に辿り着いたので、それで終わったかと思ったんです。でも、どうやら違ったみたいですね」
愛原:「五十嵐元社長は、お飾り的なものだったらしいな?」
高野:「営業マンが出世した、いわゆるサラリーマン社長ですから。アメリカの本社みたいに、創業者がそのまま社長をやっていたオーナー社長とは違います」
愛原:「研究部門に実権を取られてしまったと言っている」
高野:「会社にとても有能な部長がいて、どうしても社長でさえ首を切れない。それを部長も知っていて、増長したといったところでしょうか」
愛原:「それは分からんがね。で、どうなんだ?白井伝三郎のこと、何か知ってたら教えてくれよ?」
高野:「分かりました。白井伝三郎が東京中央学園上野高校の科学教師として働いていたことは御存知ですね?」
愛原:「知ってる」
高野:「斉藤社長がかつての教え子だったことも御存知ですね?」
愛原:「うーん、斉藤社長が現役高校生だった頃に白井が在籍していて、直接授業を受けたという話は聞かなかったな」
高野:「まあ、いいです。実はあの学園、同時期にもっと別の変わった教師がいたという話は聞いたことないですか?」
愛原:「ええっ?」
高野:「東京中央学園上野高校は、やたら怪奇現象が多発したという話は?」
愛原:「ぼんやり斉藤社長から聞いたような気がする」
高野:「恐らく、今は殆どそういった怪奇現象は無いと思いますよ」
愛原:「まあ、先だってとんでもない怪奇現象に巻き込まれたことはあるがな」
高野:「え?」
愛原:「いや、何でもない。で、どうして今は殆ど怪奇現象が無いって言えるんだ?」
高野:「その怪奇現象は白井と、もう1人の教師が仕掛けていたことですから。白井が実験体の確保の為に、学校の怪談を利用して生徒を実験台にしていたという話は私も聞いています。でも、他にもう1人、怪奇現象を意図的に引き起こしていた教師がいたんですよ」
愛原:「誰だ?」
高橋:「まさか、黒木ってヤツじゃないでしょうね?ほら、坂上センセーを旧校舎から追い出したってヤツ」
愛原:「ああ!」
高野:「あ、やっぱり御存知なんですね」
愛原:「名前だけはな。白井と違って、1度も会ってない。でも、その黒木って先生も日本アンブレラの一員なのか?」
高野:「どうも違うみたいですね。もちろん、私が所属していた“青いアンブレラ”のデータベースには入っていません。まあ、アンブレラには少なからず『協力者』もいましたから、多分その類だと思いますが……」
愛原:「どうして黒木って先生が白井と同様、『怪奇現象』を引き起こしたってことになるんだ?」
高野:「だから、白井に協力して実験体となる生徒を確保していたんでしょう。そこは教師という立場を悪用すれば、何とかなるかと」
愛原:「どうして黒木って先生が白井に協力していたんだ?」
高野:「そこまでは分かりません。データベースに無い以上、私達も噂話程度でしか知らないので」
愛原:「そうか……」
[同日11:00.天候:晴 同地区 東武鉄道小菅駅]
面会を終えた私達は、東京拘置所の最寄り駅に戻った。
そこで斉藤社長に電話してみた。
愛原:「あ、斉藤社長。愛原です。お疲れ様です。お忙しいところ、申し訳ありません」
斉藤:「いや、いいですよ。今日は何の御用ですか?」
愛原:「黒木先生のことについて調べたいのです。社長が現役高校生だった頃に、体育教師として在籍していた黒木先生です」
斉藤:「黒木先生ですか。確かに怒らせると怖い先生でしたが、それ以外は爽やかな体育教師って感じでしたよ。昭和の学園ドラマの中から出て来たような先生でしたね。ま、私が現役だった頃は、確かにまだ昭和の香りが色濃く残る平成一ケタ時代でしたから」
愛原:「その黒木先生ですが、どうも白井と協力関係にあったようなんです。特にほら、旧校舎の取り壊しに白井と同様、強く反対したとか……」
斉藤:「はいはい」
愛原:「御本人は今、どのくらいの年齢なんでしょう?」
斉藤:「私が現役の時で30代半ばくらいでしたから、まあ、今なら60代半ばってところですね。白井より少し年上ってところでしょうか」
愛原:「なるほど。社長の御存知の範囲でいいので、黒木先生のこと、教えて頂けませんか?」
斉藤:「いいですよ。こうして改めて振り返ってみると、色々と思い出すこともあるので」
愛原:「そうですか」
斉藤:「明日、我が家に来ませんか?そこでゆっくりとお話ししましょう」
愛原:「ありがとうございます」
斉藤:「いえいえ。白井を追い詰める為なら、協力は惜しみませんよ」
斉藤社長は余程白井を憎く思っているようだな。
まあ、当然か。
高校生時代は危うく白井に捕まって実験体にさせられそうだったというし、その後も同じ製薬業に携わる者として、非人道的な人体実験や人体改造を激しく嫌悪しているのだから。
なのでリサを人間に戻す計画にも、協力を申し出て下さっているのである。
〔まもなく1番線に、上り電車が参ります。……〕
愛原:「あ、申し訳ありません。今から電車に乗りますので……はい。……はい。ありがとうございます。それでは明日、よろしくお願い致します」
私は電話を切った。
高橋:「先生?」
愛原:「黒木先生について、まずは斉藤社長からお話を聞けることになった。明日、斉藤社長の御宅へ向かうぞ」
高橋:「はい」
私達は地下鉄日比谷線に直通する電車に乗り込んだ。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今日は東京拘置所に収監されている高野君への面会に来た。
初公判まで、いよいよあと1ヶ月か。
高野:「どこまで真相に近づきましたか?」
と、アクリル板の向こう側にいる高野君が聞いて来た。
愛原:「白井伝三郎という名前に聞き覚えは無いか?」
高野:「ありますよ。日本版リサ・トレヴァーの開発者でしょう?……まあ、今はどうかは知りませんが、ただのロリコンですね」
愛原:「知ってたのか!」
高橋:「何で黙ってたんだ!?」
高野:「五十嵐の所に辿り着いたので、それで終わったかと思ったんです。でも、どうやら違ったみたいですね」
愛原:「五十嵐元社長は、お飾り的なものだったらしいな?」
高野:「営業マンが出世した、いわゆるサラリーマン社長ですから。アメリカの本社みたいに、創業者がそのまま社長をやっていたオーナー社長とは違います」
愛原:「研究部門に実権を取られてしまったと言っている」
高野:「会社にとても有能な部長がいて、どうしても社長でさえ首を切れない。それを部長も知っていて、増長したといったところでしょうか」
愛原:「それは分からんがね。で、どうなんだ?白井伝三郎のこと、何か知ってたら教えてくれよ?」
高野:「分かりました。白井伝三郎が東京中央学園上野高校の科学教師として働いていたことは御存知ですね?」
愛原:「知ってる」
高野:「斉藤社長がかつての教え子だったことも御存知ですね?」
愛原:「うーん、斉藤社長が現役高校生だった頃に白井が在籍していて、直接授業を受けたという話は聞かなかったな」
高野:「まあ、いいです。実はあの学園、同時期にもっと別の変わった教師がいたという話は聞いたことないですか?」
愛原:「ええっ?」
高野:「東京中央学園上野高校は、やたら怪奇現象が多発したという話は?」
愛原:「ぼんやり斉藤社長から聞いたような気がする」
高野:「恐らく、今は殆どそういった怪奇現象は無いと思いますよ」
愛原:「まあ、先だってとんでもない怪奇現象に巻き込まれたことはあるがな」
高野:「え?」
愛原:「いや、何でもない。で、どうして今は殆ど怪奇現象が無いって言えるんだ?」
高野:「その怪奇現象は白井と、もう1人の教師が仕掛けていたことですから。白井が実験体の確保の為に、学校の怪談を利用して生徒を実験台にしていたという話は私も聞いています。でも、他にもう1人、怪奇現象を意図的に引き起こしていた教師がいたんですよ」
愛原:「誰だ?」
高橋:「まさか、黒木ってヤツじゃないでしょうね?ほら、坂上センセーを旧校舎から追い出したってヤツ」
愛原:「ああ!」
高野:「あ、やっぱり御存知なんですね」
愛原:「名前だけはな。白井と違って、1度も会ってない。でも、その黒木って先生も日本アンブレラの一員なのか?」
高野:「どうも違うみたいですね。もちろん、私が所属していた“青いアンブレラ”のデータベースには入っていません。まあ、アンブレラには少なからず『協力者』もいましたから、多分その類だと思いますが……」
愛原:「どうして黒木って先生が白井と同様、『怪奇現象』を引き起こしたってことになるんだ?」
高野:「だから、白井に協力して実験体となる生徒を確保していたんでしょう。そこは教師という立場を悪用すれば、何とかなるかと」
愛原:「どうして黒木って先生が白井に協力していたんだ?」
高野:「そこまでは分かりません。データベースに無い以上、私達も噂話程度でしか知らないので」
愛原:「そうか……」
[同日11:00.天候:晴 同地区 東武鉄道小菅駅]
面会を終えた私達は、東京拘置所の最寄り駅に戻った。
そこで斉藤社長に電話してみた。
愛原:「あ、斉藤社長。愛原です。お疲れ様です。お忙しいところ、申し訳ありません」
斉藤:「いや、いいですよ。今日は何の御用ですか?」
愛原:「黒木先生のことについて調べたいのです。社長が現役高校生だった頃に、体育教師として在籍していた黒木先生です」
斉藤:「黒木先生ですか。確かに怒らせると怖い先生でしたが、それ以外は爽やかな体育教師って感じでしたよ。昭和の学園ドラマの中から出て来たような先生でしたね。ま、私が現役だった頃は、確かにまだ昭和の香りが色濃く残る平成一ケタ時代でしたから」
愛原:「その黒木先生ですが、どうも白井と協力関係にあったようなんです。特にほら、旧校舎の取り壊しに白井と同様、強く反対したとか……」
斉藤:「はいはい」
愛原:「御本人は今、どのくらいの年齢なんでしょう?」
斉藤:「私が現役の時で30代半ばくらいでしたから、まあ、今なら60代半ばってところですね。白井より少し年上ってところでしょうか」
愛原:「なるほど。社長の御存知の範囲でいいので、黒木先生のこと、教えて頂けませんか?」
斉藤:「いいですよ。こうして改めて振り返ってみると、色々と思い出すこともあるので」
愛原:「そうですか」
斉藤:「明日、我が家に来ませんか?そこでゆっくりとお話ししましょう」
愛原:「ありがとうございます」
斉藤:「いえいえ。白井を追い詰める為なら、協力は惜しみませんよ」
斉藤社長は余程白井を憎く思っているようだな。
まあ、当然か。
高校生時代は危うく白井に捕まって実験体にさせられそうだったというし、その後も同じ製薬業に携わる者として、非人道的な人体実験や人体改造を激しく嫌悪しているのだから。
なのでリサを人間に戻す計画にも、協力を申し出て下さっているのである。
〔まもなく1番線に、上り電車が参ります。……〕
愛原:「あ、申し訳ありません。今から電車に乗りますので……はい。……はい。ありがとうございます。それでは明日、よろしくお願い致します」
私は電話を切った。
高橋:「先生?」
愛原:「黒木先生について、まずは斉藤社長からお話を聞けることになった。明日、斉藤社長の御宅へ向かうぞ」
高橋:「はい」
私達は地下鉄日比谷線に直通する電車に乗り込んだ。
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