夢の人

心はいつまでも子供のまま。生活感無き こだわり人は、今日も夢を追いかけて多忙です。

影か光か

2016-09-28 17:12:00 | Weblog
 「いや、時期尚早でしょう!」
 杉井の大きめの声に圧されたかのように、坪庭のコオロギが鳴き止む。
 前年の夏に藪浦と話し込んだ同じ料亭で、杉井は官房長官の秋田と対峙していた。

 
 藪浦を副知事に任命したのは杉井自らであり、それは副首都計画を担当推進させる為でもある。 市長たちは元より、副首都計画という神輿の担ぎ手は手伝いにしても多いに越したことはない。
 外交問題である “例の話”を与党の “総大将”が発表する際に一定の理解を示すことによって、杉井の党は与党に対して僅かな恩を売っていた。 懸念された “あの党”の干渉はどうにか回避され、杉井は藪浦と共に胸を撫で下ろしたものだ。

 いま、彼の目の前には “総大将”の女房役、すなわち秋田官房長官が座しており、差しで話し始めてかれこれ小一時間が経つ。 この料亭での会食を望んだ秋田は “総大将”本人が臨席すれば周囲が煩くなるばかりだから自分だけが来たと言っていた。
「もちろん、とうにカメラが居たしねぇ。 杉井さんと違って私しゃ、SPくっついてきて当然になってるから困るよ」
 高い背をひょろりと丸めて肘掛け付き座椅子に腰を下ろしてから、口調は至極柔らかいままだ。
 スラリとした体型をした老執事のような秋田と、ラグビー選手かと見紛う肩幅の上に日焼け顔が乗った杉井。 片や下戸、片や酒好き。 誰がどう考えても正反対な男が顔を突き合わせている。

 北野と杉井は現在でも密かに連携をしていた。 ただ、北野が政界を退いた立ち位置を全く崩さないので、杉井は素知らぬ顔で動かねばならない。 副首都計画を進めるにおいて、現在のところ北野は回りくどい手法で援護射撃をしているに過ぎなかった。

「ずっと悠々となさるお積もりなんだろうかねぇ、北野君は。 お二人がタッグを組んでいたら最強でしょ」
 こんな軽口を言う為に官房長官がわざわざ会うわけがないと、杉井はあまり喋らずに当たり障りの無い相槌を打つ。
 独り語りのように秋田の世間話めいた話が続く。
「情報の利用方法を解らない人が多いなぁ」
「識者ぶる人間ほど深くを知らず、目が行き届かぬ場合があると……おお、これは私も自省しなくては、ははは」
 決して耳障りではなく、長老が人を集めて言い聞かせているかのように話す。
「ええと、万博誘致に関しての協力は了解しているからね」
 この話についてはさすがに譲れないと杉井は姿勢を正して
「よろしくお願いします」
 と素直な返事をする。

 
 そして小一時間、政情に関する簡単なやりとりを交わしたのち、唐突に顎を上げて秋田が放った言に、庭で鳴くコオロギが静かになる声で杉井が首を振ったのだった。
「いや、時期尚早でしょう! どこから出たハナシで? まさか、秋田さんご自身ですか」
「と、考えてもらって構わん。 北野君に伝えておくれ。 あー、慌てなくていいからね」

 調整、準備、新党、入閣、民間登用、獅子身中の虫、政策実現による相互の利益等々。
 幾つもの事項が天井をぐるぐると舞っていた。


 ∽∽この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません∽∽

コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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ヤッパ (yanyan)
2016-10-04 00:51:46
面白いです。
ってか、やっと新刊がでた‼︎って感じ。
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気まぐれでスミマセン (りえ)
2016-10-08 18:47:04
yanyanさん、こんばんは!

コメント有難うございます。
気まぐれに書いたり書かなかったりです。
ここで書くのは至極いい加減なシロモノなんで期待しないで下さいね(失礼?)
もうバレバレな内容になってきました~
但し、あくまでもどこかの党を支持しているわけではないので誤解ありませんよう……
返信する

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