日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

一般読者の視点を意識しない文学賞選考委員なんて 追記あり

2010-07-27 23:20:13 | Weblog
このたびの直木賞、芥川賞の受賞作品を読んで、それぞれの読後感を中島京子著「小さなおうち」が与える静かな感動赤染晶子著「乙女の密告」は私には合わなかったで述べたところ、Google検索で早くも次のように出ていることが分かった。Amazonや出版社のページより上位に出てくるとは、どういう仕組みでそうなるのか摩訶不思議である。人目に触れるチャンスがそれだけ多いことになるのだろうが、そう思うと芥川賞の受賞作品は「私には合わなかった」と、取りようによっては否定的な表現になっているので、何となく申し訳ないような気がする。しかし一方では、芥川賞の選考にいちゃもんをつけているようなものだから、何が気に入らなくてそうなのか、少しだけ補足しようと思う。。



MSN産経ニュースで、もう少し詳しい選評の出ているのにその後気がついた。そこには赤染さんの作品について次のように述べられている。

『乙女の密告』は、『アンネ・フランクを密告したのは誰か』という、歴史的にも大きな問題を小説の中に取り入れつつ、個人のアイデンティティーを主題にするという小説の作り方が非常に巧妙。自分は自分であるということはどういうことかという文学的な問題や、忘れた後にもう一回思いだすとはどういうことかといったユニークな問題に着目し、アンネの日記という題材に生かし切って小説に書いたところが評価された。

いずれはもっと詳しい内容が文藝春秋誌に掲載されるだろうが、それを待っていると頭は他所の方に向いてしまいそうだから、拙速をかえりみず今の時点でこれにコメントを付けることで私の思いを披瀝する。

私が解せないのはその選評に、読者の存在を決して忘れていないと思わせる顧慮が見当たらないことなのである。ここで言う読者とはわれわれのような一般の読者、すなわちその作品を買ってまで読もうとする読者のことで、選考委員や献本を読む人は含まれていない。もし選考委員に一般読者がどう受け取るであろうかという顧慮がひとかけらでもあれば、選考委員同士の間では通じるかも知れない仲間内の言葉や概念を、一般読者にも分かって貰おうとする姿勢が自然と出てくることだろうと私は思う。ところがそれがどうも見当たらないのである。

改めて上の選評を眺めてみる。『乙女の密告』は、『アンネ・フランクを密告したのは誰か』という、歴史的にも大きな問題を小説の中に取り入れつつ、個人のアイデンティティーを主題にするという小説の作り方が非常に巧妙。の部分、もちろん新聞記者の手を経ての引用であるから選考委員の言葉そのものではないにせよ、歴史的にも大きな問題を小説の中に取り入れつつ、個人のアイデンティティーを主題にするという小説の作り方が非常に巧妙とはこれいかに? と問い返さざるを得ない。なぜなら私はすでに著者が「アンネの身に起きたこと」と「大学の教室の中で乙女と呼ばれる生徒たちの間の出来事」の辻褄合わせに一生懸命のところだけが目についたという私の感じたことをすでにブログに書いており、小説の作り方が非常に巧妙とは真っ向からぶつかっているのである。そこで選考委員に求められるのは小説の作り方が非常に巧妙を一般読者に分かりやすく具体例を引きながら説明することである。その姿勢が果たしてあるのだろうか。

自分は自分であるということはどういうことかという文学的な問題や、忘れた後にもう一回思いだすとはどういうことかといったユニークな問題に着目のところにしてもそうである。文学的な問題とは言葉をかえれば選考委員だけにしか通じない問題であろう。一般読者が求めるのは文学的な問題に矮小化されない人間の存在についての問いである。そういう意味で文学的な問題ユニークな問題も、選考委員の仲間内という狭い世界での一つの視点に過ぎず、一般読者の存在がその世界から完全に排除されている。

一般読者の視点を欠いたというか、意識しないお山の大将的な選考委員が選ぶ文学作品が、一般読者に広く支持されることは到底期待出来ない。ひょっとしたら芥川賞はもはや消え去るべき運命にあるのだろうか。その点、直木賞は残るような気がする。

追記(7月28日朝)
この記事に次のようなコメントを頂いた。

このコメントは公開されなくて結構です)
瑣末なことかもしれないので恐縮ですが、タイトルは「小さなおうち」ではなくて「小さいおうち」です。Googleで上位に出たのも「小さな・・・」で検索なさったせいかと。
(もしかすると著者はバージニア・リー・バートン「ちいさいおうち」にならったのかなと想像したりしております)

ドキッとした。確かにとんでもない間違いを犯していた。中島京子さんの受賞作のタイトルを私は最初から「小さなおうち」としていたのである。正しくは「小さいおうち」であるからGoogle検索でトップに出てくるのはご指摘の通り当然のことである。ご指摘を心から感謝するとともに、まさに自作自演の狂騒劇でお騒がせしたことを反省してお詫びする。ちなみに今『中島京子著「小さいおうち」』で検索すると私の記事がそれでも約74900件中15位に出ていた。やっぱり摩訶不思議である。

実を申し上げると、現在の記事の主題である赤染晶子著「乙女の密告」も、著者の名前を赤染子としていったんアップロードしたが、この間違いは直ぐに気がついて訂正したのである。「うっかり?ミス」ご用心!を肝に銘じることにする。なおこちらの現時点での検索結果は約35200件中の第2位で、現在の記事の趣旨に影響を与えるものではないことをあらためてお断りする。







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