土曜の午後、コンサートを終えて外に出ると風が強い。木枯らし一番であろうか襟元が寒い。絹のスカーフを首に巻けば軽くて暖かいだろうなとふと思った。でもスカーフは正方形なので適当に折りたたむのが面倒そうである。と、名前だけは知っているが実物をこれとはっきりとは見たことがないアスコット・タイなるものが頭に浮かび上がった。都合良く歩いている通りの先には大丸がある。紳士用品売り場に足を向けそこでアスコット・タイなるものにお目にかかった。
形は両端に水かきのあるカヤックの櫂に似ている。長く伸ばすと左右上下対称、ついでに裏表もなく融通無碍の使い方を暗示している。絹の手触りは柔らかくマフラーなどよりは遙かにコンパクトで手軽に首の回りに結べそうである。思いの外豊富に並べられている品物の中から店員さんが一本取りだしてくれた。色模様が私の好みと一致していたので即断即決それを購入した。
「結んでいかれますか」とその店員さんが聞く。結び方は知らないし側らの妻も「私、自慢じゃないけれど主人のネクタイをこれまで結んだことはありませんの」と変な自己主張をする。そこでお願いすると「私も主人のを結んだことはないんですよ」とベテランの店員さんが適当に調子を合わせながら手際よく私の首に結びつけてくれた。
外に出た。冷気の進入を妨げ体温の発散を抑えて実に快適である。帰宅してから結び方を練習してなんとかマスターできた。絹専用洗剤で簡単に洗うこともできるので気軽に首に直接巻ける。とりあえず二三本もあればいいだろう。外に出かけるのが楽しみになった。