12階に丸善が入っている。フロア面積のほぼ三分の二程度を占めており、残りは山野楽器、美術画廊に旅行案内所となっている。この丸善の一郭に足を踏み入れると去年オープンした丸善丸の内本店の設いを思い出した。雰囲気が似ているのである。文房具、鉄道模型、カメラ(といってもライカに特化)、アウトドアグッズ、洋品雑貨など丸善にお馴染みの商品が落ち着いた感じのする売り場に収まっている。
私は小品一点を求めるつもりであった。ROLODEXの補充カードである。最近は各種のデータをPC上に保存することが多くなった。たとえばIDとかパスワードなど、いちいち手で入力しなくてもコピー・ペーストで間違うことなく入力できるのが便利である。ところがデータ保存の仕方をよく考えておかないとPCにトラブルが生じたときに失われるおそれがある。従来通りカードに整理しておくといざというときに慌てずにすむ。未記入のカードが残り少なくなっていたのでこの機会に補充するつもりであった。ところが売り場を徹底的に探し回ったが陰も形も見あたらない。東京や京都の丸善では常備しているのに、である。店員にも確かめたが扱ってもおらずしかも取り寄せもしないという。丸善とあろうものがそれはないだろうと思った。
改めて売り場を見回すと確かに好事家グッズは展示されている。眺めるのは楽しいし、時には店員さんとグッズ談義に耽るのも贅沢な時間つぶしになるだろう。ところが好奇心旺盛なつもりである私の購買欲をそそる品物が見あたらない。かって何足が履きつぶしたマナスル靴はいまやClarksに取って変られたし、二本続け様に買った英国紳士向きの傘はまだ健在である。バーバリーの製品はロンドンで購入したので間に合っているし、ハリスツイードのジャケットはますます体に馴染んできたしと思ったら、洋服売り場が完全に姿を消してしまっているのに気がついた。
姿を消したといえば眼鏡売り場もそうである。昨年開店直後の丸善丸の内本店で無料につられて視力検査をしたのがきっかけで、ご祝儀という気持ちもあって眼鏡を一式誂えることにした。出来上がった品物は私の住む神戸に送ってくれることになった。丸善神戸支店の廃業後眼鏡売り場だけは別の場所で営業しており、結局そこで最後の仕上げをしてもらった。丸善の眼鏡売り場はかくほどに結構ファンがいるのではと思っているのに、その眼鏡売り場がないのである。もっとも11階に眼鏡売り場があったがそこでは丸善の文字が消えてSOGOとなっていた。服にせよ眼鏡にせよSOGOと重なる業種は遠慮することにでもなったのであろうか。
本の売り場の広さはそこそこのものであった。でも大規模書店に慣らされた私の目には手狭のように感じた。そして雑誌の占める割合が多いように見受けた。かと云って本の選別にキャラクターを出そうとしているのでもない。要するに平凡な本屋さんなのである。そしてたまたま日曜日の朝、丸の内本店に顔を出した時のことを思い出した。その日の朝刊の書評に取り上げられた本が早速新聞ごとのコーナーに展示されていたのである。さすが東京だと感じ入った。これに負けず大阪ならではのユニークなサービスで是非その存在感をアピールして欲しいものである。
少し冷めた目での印象記にになってしまったが、それは私の期待感が大きすぎたせいかもしれない。丸善の神戸店ははやばやと無くなりこのたび京都の河原町店も消えてしまう。関西で唯一残った心斎橋店になんとかして『商戦』を勝ち抜いて欲しいものである。