日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

「大本営発表」と防衛省発表

2008-03-03 20:59:33 | Weblog
前の戦争中、大本営発表というものが国民に戦況を伝えた。今のNHKの前身、日本放送協会のアナウンサー(戦時中の名称は記憶にない)が報道を読み上げたり、また陸海軍の報道部長が直接放送した。なぜか大本営海軍部報道部長平出大佐という名前は今でも私の記憶に残っている。最初は戦捷ニュースが多かったが、やがては「玉砕」も報じられるようになった。そして、これは戦後の検証で明らかになったことではあるが、いつのまにか実際の戦況とは全く異なる報道が横行するようになった。

米軍に押されっぱなしで気勢の上がらなくなった戦争末期で、私たちが喝采したのは台湾沖航空戦の大戦果であった。昭和19(1944)年10月に台湾方面に来襲した米機動艦隊を迎え撃ったわが海軍が次のような大戦果を挙げたと大本営が発表したのである。

①我が方の収めたる戦果綜合次の如し
 轟撃沈 航空母艦11隻、戦艦2隻、巡洋艦3隻、巡洋艦もしくは駆逐艦1隻
 撃破 航空母艦8隻、戦艦2隻、巡洋艦4隻、巡洋艦もしくは駆逐艦1隻、艦種不詳13隻
 撃墜 112機(基地における撃墜を含めず)
②我が方の損害
 飛行機未帰還312機

この通りだと米海軍機動部隊はまさに壊滅状態であった。しかし実際は空母1隻小破、重巡キャンベラと軽巡ヒューストンを大破させたに過ぎなかったという。ここまで壮大な嘘をつかれると、その創造意欲をほめてあげたいくらいになる。戦後の検証でこのような大虚構が明らかになってから、「大本営発表」は《“内容を全く信用できない虚飾的・詐欺的な公式発表”の代名詞ともなっている》(ウィキペディア)のである。

今回のイージス艦「あたご」と漁船清徳丸の衝突事故は、このような本物の戦闘とくらべるべくもないが、自衛隊にとっては「有事」であったに違いない。かっての「大本営発表」に代わるものとして、せっかく映像が流れるご時世になったのだから、制服姿のピリッとした報道官にニュースの時間にお出ましを願いたかったのに、出てくるのは冴えない文官ばかりで残念であった。今回初めてテレビでお目にかかった防衛事務次官はまことに軽い人物との印象を最初から植え付けられたのはこれまた残念だった。ただ「大本営発表」に代わるものとして防衛省・自衛隊のホームページの「お知らせ」はまあまあだったと思う。リアルタイムで報道を追ったわけではないが、『海上自衛隊護衛艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事案について』の第一報が平成20年2月19日に現れてから続報があい続き、最低限必要な情報はそれなりに伝えていると感じた。「大本営発表」よりはるかにまともである。

清徳丸と衝突した「あたご」のなすべきこと、これは素人目にも一目瞭然で、まず即刻遭難者の救助にあたらねばならない。一方、「あたご」の艦底に爆薬類が仕掛けられていないかどうかを被害状況と併せて点検する。そして事故発生時の定められた「手続き」に従い、海上保安庁と海上自衛隊に状況報告をする。早ければ早いほどよい。指揮を執るのはもちろん「あたご」艦長である。このように緊急事態への対応が最優先事項であることは言うまでもない。海上自衛隊と海上保安庁が事故原因解明に向けてそれぞれの立場で調査を行うのはそれ以降のことになる。事故原因の公表などはかなり先の事になるだろう。

一方防衛大臣と防衛事務次官の記者会見の概要もホームページに掲載されている。報道メディアの記者との質疑応答も含まれるが、防衛省の事後の事務処理の不手際などを記者がこと細かく問いただしているのが私には目障りだった。そんなことはどうでもいいことである。実際の戦争で砲弾が一発でも艦橋に飛び込んできたら、大臣への報告が何分遅れたとか、言っている場合でないことぐらいすぐに分かるではないか。読み通す暇のある方には記者の脳天気ぶりを見るのに便利な質疑応答集である。

脳天気と言えば衆議院予算委員会での衝突事故に関する質疑応答がそうであった。衆議院予算委員会は国の予算案を審議をする場のはずである。ところがその委員会で防衛省が発表した「漁船発見時間は事故発生2分前」だとか「清徳丸の発見は衝突の12分前だった」の矛盾点の追求や時間の前後関係や、防衛省が「あたご」乗組員から事情聴取した時間とかそのやり方、さらには海上保安庁との連携のまずさなどについて質疑応答が繰り返された。予算委員会では慣例として予算の執行を伴う国政の重要事項について審議が行われてきているが、事故発生2分前とか12分前とか、またその情報がどう流れたのかを問いただすことが、どうして予算案審議に結びつくのか。「風が吹けば桶屋が儲かる」程度の話にすぎないではないか。特に今の通常国会では目前に迫った来年度の予算案成立の最後の追い込み時期に入っていたと言うのに・・・。このような枝葉末節のことに貴重な時間を使って、予算案の審議時間がまだ不十分であると強弁する国会議員の顔を私はしっかりと見届けたつもりである。

それにしても締まらない海上自衛隊である。軍国少年の頃に歌った「♪海の男の艦隊勤務 月月火水木金金」の代わりに、戦後の替え歌、「♪ルンペン生活なかなかつらい ケツケツカイカイのみしらみ」なんて歌がつい口から飛び出た。


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