日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

神戸地方裁判所 キメラの怪 東京中央郵便局も?

2009-03-10 10:08:15 | Weblog
前の土曜日、三宮に出かけたついでに元町通りを一丁目から六丁目まで歩いてから、神戸地方裁判所の前まで足を伸ばした。この建物の写真を撮るためである。土曜日で門が閉まっており、中に入ることは出来なかったが、外観をカメラに納めることができた。



この建物がいつ出来上がったのかは思い出せないが、始めて目にした時は、「これ、何?」と思ったものである。今回あらためてまじまじと眺めたが、煉瓦造りの古い洋館にガラス張りの四角い箱を継ぎ足したように見える。しかし古い洋館がそれだけの重量を支えるように出来ていたとは考えにくいので、実体は新しいビルの腰の下に古い洋館の外壁を張り付けたようなものではなかろうかと想像した。その接合部を横から眺めてそのような印象をもったのである。実際はどうなのか、いつかは建物の中に入って、出来ることなら探訪をしてみたい。



この建物を見て「これ、何?」と思った時に、実は「キメラ」を連想した。《キメラとはギリシャ神話にでてきるライオンの頭、羊の胴、へびの尾をもった怪物のことである。》(岩波生物学辞典から)。要するに私には化け物建築に映ったのである。

どのような意図でこの建物が造られたのだろう。おそらく手狭になった裁判所を新たに建て替えようとしたところ、煉瓦造りにそれなりの価値を認めた人たちがそれを残すようにと運動を起こし、建て替え派と保存派の妥協の産物としてこのキメラが生まれたのではなかろうか。歴史的経緯は調べればはっきりすのだろうが、私にそこまでの熱意がないから、想像でお茶を濁しているのである。

鳩山邦夫総務相が横やりをいれた東京中央郵便局の再開発で、《日本郵政の計画では今夏着工し、現行の局舎を一部保存しながら郵便局やテナントが入る地上38階の高層ビルを11年度に完成させる。》(毎日新聞 2009年2月27日 0時52分)となるらしい。新しい部分が神戸地方裁判所よりも遙かに高くなるから、おそらくガリバーが下駄履きで気をつけをしているような感じに出来上がるのだろう。このような写真を撮ってきたのは、こんな変ちくりんなものになりますよ、とお目にかけたかったからである。

なぜこのような中途半端な建物を建てるのだろう。古い建物が重要文化財級の価値をもっており、ぜひそれを保存したいというのであれば、原型を保つのが少なくとも第一条件になるのではないのか。それで私が思い浮かべるのは、オットー・ワーグナーの代表的建築と言われるウィーン郵便貯金局である。前世紀の初頭に造られて、その後、改修は行われたもののウイーンを代表する建物として観光スポットになっている。私もかなり以前に足を踏み入れてウイーンの歴史を感じた覚えがある。今でも現役なのではなかろうか。もちろん基本的には原型を保ったものでキメラなんかではない。というより、外国の建築家にキメラのような発想が起こるとは私には思えない。ひどい戦災を被ったベルリンにせよドレスデンにせよ、瓦礫の中から煉瓦を一つ一つ掘り出し、それで元の建物を復元するという気の遠くなるような作業に没頭したかの人たちを私は思い浮かべるからである。

実はこの項を夕べ書き始めて中断し、今朝、書き続けようと思ったら、asahi.comの次の記事が目についた。

《東京中央郵便局、保存部分拡大へ 文化財登録めざす
 日本郵政は9日、東京中央郵便局の再開発計画を見直す方針を固めた。登録有形文化財としての登録をめざし、局舎の保存部分を拡大する方向で文化庁と協議する。大半を取り壊す現状の再開発案では、建物の文化的価値を理由に保存を求めている鳩山総務相らの理解が得られないと判断した。》(2009年3月10日3時1分)

なかなか結構なことではある。しかしすでに建物の一部を壊してしまった段階でこのようなことを蒸し返すとは時期を逸している。もしこれが地上38階建て高さ200メートルのJPタワー(仮称)への建て替えを完全に放棄して、現在の建物の補強保存をはかるというのであれば文化財保護の趣旨が素直に生かされることになるが、タワーの建設を諦めたとは報道されていないので、出来上がるのはキメラで、ただ古い部分をより多く使うことで終わりなのであろう。そんなものにどういう価値があるのだろう。それなら1/50ぐらいの完璧な模型を残した方が遙かにましである。

鳩山総務相の口出しも悪くはないが、キメラを容認するようでは審美眼も疑わしいし、また文化財保護の精神が根底にあるとは思えない。それではただの目立ちたがり屋と変わりがない。「鳩山御殿」がキメラに変貌させられることを想像すれば、現実離れとは言われるだろうが、タワー計画を中止して、東京中央郵便局の現状を保ちながらの保存計画という発想が自然と出てくるのではなかろうか。そこまでコミットするのであれば、さすが鳩山さん、ノブレス・オブリージュを実行する方として私も大いに持ち上げるのにやぶさかではない。


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