4月1日のasahi.comは《宇和島徳洲会病院(愛媛県宇和島市)の万波(まんなみ)誠・泌尿器科部長(66)らによる「病気腎」移植について、日本移植学会、日本泌尿器科学会、日本透析医学会、日本臨床腎移植学会の関係4学会は31日、「医学的に妥当性がない」として、全面否定する声明を発表した。》と報じた。
学会による病気腎移植禁止の方針を万波誠医師も受け入れるとのことなので、これで一件落着のように見えるが、ここで大きな問題がクローズアップされた、と私は思う。それは腎臓摘出を受けた患者の蒙った不利益について、それがどのように評価され補償されるかという問題である。
病気腎移植問題に関して、私は当初から万波誠医師のチャレンジング精神を評価する一方、状況が不透明であった病気腎摘出の妥当性を可能な限り調査して、現時点で一定の評価が下されるべきことを一貫して主張してきた。現時点で病気腎移植問題のぜひはこの一点にかかっていると私は見たからである。関心を持たれる方は以下の記事をご覧頂きたい。
万波誠医師のチャレンジとヘルシンキ宣言
万波誠医師のその後は?
病気腎移植問題とピロリ菌
万波誠医師をテレビで拝見して
病気腎移植問題のこれから
万波誠医師の米移植学会での症例報告中止のなぞ
上記の関係4学会は、腎臓摘出の妥当性に関して次のような否定的結論を出した。
《万波医師らによる腎臓の摘出が医学的に妥当だったかどうかを、疾患ごとに検討。良性疾患のうち、ネフローゼについては、「十分な医療を受けていたという確証が得られない」▽尿管狭窄(きょうさく)、腎動脈瘤(りゅう)などについては「腎臓を温存する治療が第一選択で、摘出が医学的選択肢になるのは例外」▽ 感染症などその他の障害については「抗生物質などの投与で治癒に努めるべきだ」とした。一方、がんについては「摘出、部分切除など種々の選択肢がある」とした。》(asahi.com、2007年4月1日(日)01:28)
個々のケースについて、腎臓摘出を行った医師側の意見も同時に知りたいところであるが、これは今後の状況の展開次第で明らかになっていくことであろう。いずれにせよ病気腎移植問題で、腎臓摘出の妥当性が現時点で否定されたということは、腎臓摘出を受けた患者の利益が損なわれたことを断定したことになり、その意味することは大きい。
ヘルシンキ宣言のA(序言)-3には《世界医師会のジュネーブ宣言は、「私の患者の健康を私の第一の関心事とする」ことを医師に義務づけ、また医の倫理の国際綱領は、「医師は患者の身体的及び精神的な状態を弱める影響をもつ可能性のある医療に際しては、患者の利益のためにのみ行動すべきである」と宣言している。》と述べられている。専門家集団が病気腎の摘出が妥当ではなかった、と断じたことは、腎摘出を受けた患者の利益が著しく損なわれたと主張するのに等しい。
医学的な摘出妥当性の判断に加えて、私が重視したいのは、摘出した腎臓を移植に使用する可能性について、患者(場合によれば近親者)の同意が得られていたかどうかということである。輸血についても同意書が求められる時代である。個々の症例で患者が『移植利用』に同意したのかどうか、今回の調査でどの程度まで状況が明らかになったのだろう。もし『移植利用』の可能性が患者に知らされていなかったとすると、それだけでも患者の知る権利が侵されたことになる。
これまでそれなりに納得していた腎摘出患者に、今回の学会声明は「あなた方は不適切な医療を受けていた」と公に通告したようなものだ。それを承知の上で学会側は今回の声明発表に踏み切ったのであろうが、患者側が不適切医療で不利益を蒙ったことを裁判に持ち込むことがあれば、患者側に立って擁護することになるのだろうか。ここしばらくの動きを注目したい。
これまで報じられてきた42件の病気腎移植は医療上、また社会的にも大きな問題を投げかけた。しかし残された検証可能な『データ』は、データそのものとして極めて貴重なものである。腎摘出患者の利益擁護の観点から事細かく検証を継続し、その過程で病気腎摘出の基準設定などを検討することが、新しい医療への突破口にもつながることは十分に考えられる。
学会による病気腎移植禁止の方針を万波誠医師も受け入れるとのことなので、これで一件落着のように見えるが、ここで大きな問題がクローズアップされた、と私は思う。それは腎臓摘出を受けた患者の蒙った不利益について、それがどのように評価され補償されるかという問題である。
病気腎移植問題に関して、私は当初から万波誠医師のチャレンジング精神を評価する一方、状況が不透明であった病気腎摘出の妥当性を可能な限り調査して、現時点で一定の評価が下されるべきことを一貫して主張してきた。現時点で病気腎移植問題のぜひはこの一点にかかっていると私は見たからである。関心を持たれる方は以下の記事をご覧頂きたい。
万波誠医師のチャレンジとヘルシンキ宣言
万波誠医師のその後は?
病気腎移植問題とピロリ菌
万波誠医師をテレビで拝見して
病気腎移植問題のこれから
万波誠医師の米移植学会での症例報告中止のなぞ
上記の関係4学会は、腎臓摘出の妥当性に関して次のような否定的結論を出した。
《万波医師らによる腎臓の摘出が医学的に妥当だったかどうかを、疾患ごとに検討。良性疾患のうち、ネフローゼについては、「十分な医療を受けていたという確証が得られない」▽尿管狭窄(きょうさく)、腎動脈瘤(りゅう)などについては「腎臓を温存する治療が第一選択で、摘出が医学的選択肢になるのは例外」▽ 感染症などその他の障害については「抗生物質などの投与で治癒に努めるべきだ」とした。一方、がんについては「摘出、部分切除など種々の選択肢がある」とした。》(asahi.com、2007年4月1日(日)01:28)
個々のケースについて、腎臓摘出を行った医師側の意見も同時に知りたいところであるが、これは今後の状況の展開次第で明らかになっていくことであろう。いずれにせよ病気腎移植問題で、腎臓摘出の妥当性が現時点で否定されたということは、腎臓摘出を受けた患者の利益が損なわれたことを断定したことになり、その意味することは大きい。
ヘルシンキ宣言のA(序言)-3には《世界医師会のジュネーブ宣言は、「私の患者の健康を私の第一の関心事とする」ことを医師に義務づけ、また医の倫理の国際綱領は、「医師は患者の身体的及び精神的な状態を弱める影響をもつ可能性のある医療に際しては、患者の利益のためにのみ行動すべきである」と宣言している。》と述べられている。専門家集団が病気腎の摘出が妥当ではなかった、と断じたことは、腎摘出を受けた患者の利益が著しく損なわれたと主張するのに等しい。
医学的な摘出妥当性の判断に加えて、私が重視したいのは、摘出した腎臓を移植に使用する可能性について、患者(場合によれば近親者)の同意が得られていたかどうかということである。輸血についても同意書が求められる時代である。個々の症例で患者が『移植利用』に同意したのかどうか、今回の調査でどの程度まで状況が明らかになったのだろう。もし『移植利用』の可能性が患者に知らされていなかったとすると、それだけでも患者の知る権利が侵されたことになる。
これまでそれなりに納得していた腎摘出患者に、今回の学会声明は「あなた方は不適切な医療を受けていた」と公に通告したようなものだ。それを承知の上で学会側は今回の声明発表に踏み切ったのであろうが、患者側が不適切医療で不利益を蒙ったことを裁判に持ち込むことがあれば、患者側に立って擁護することになるのだろうか。ここしばらくの動きを注目したい。
これまで報じられてきた42件の病気腎移植は医療上、また社会的にも大きな問題を投げかけた。しかし残された検証可能な『データ』は、データそのものとして極めて貴重なものである。腎摘出患者の利益擁護の観点から事細かく検証を継続し、その過程で病気腎摘出の基準設定などを検討することが、新しい医療への突破口にもつながることは十分に考えられる。