日々是好日

身辺雑記です。今昔あれこれ思い出の記も。ご用とお急ぎでない方はどうぞ・・・。

Ken Follettの"WHITEOUT" あら探しも少し

2006-03-30 17:39:53 | 読書

前の週末を中心に"WHITEOUT"を一気に読み上げた。息もつかせず、といったところ、もうスリルの連続だから途中で止めるわけにはいかないのである。

クリスマスイブ深夜の1時から物語が始まり、クリスマスを挟んで翌ボクシングデーの午後7時までのほぼ54時間の間の出来事がペーパーバック460ページのなかで展開する。1時間の出来事が平均8.5ページに納まっているわけだから描写が極めて細かく実に生き生きとしている。目論んだことが素直に運んでくれないからそれだけ描写に時間がかかるともいえる。そして文字通りのホワイトクリスマス、舞台となるスコットランドのこの地方ではまれに見る大雪で全てが雪の白に覆われてしまうなかで物語が進行する。

感染すると生存率が0%という毒性の強烈なウイルスに対する抗ウイルス剤の開発を行っている製薬会社で二つの事件が相継いで起こる。最初の事件はウイルスを感染させた実験動物を密かに持ち出した研究員が自宅で変死したこと。実験動物に噛まれてウイルスに感染し死亡したらしい。研究所のセキュリティ・スタッフが発見する。ところがこの事件がマスメディアに洩れてしまい下手すると会社の存亡にかかわってくる恐れがある。

物語の主人公Toniはセキュリティを担当するチャーミングな独身女性。監視カメラの記録を精査して実験動物が盗まれた経緯を手際よく明らかにする。そして二度とこのような不祥事が起こらないように監視体制を直ちに改めて判明した全ての事実をマスメディアに公表する。何事も隠さずに率直に経緯を公表したことが評価されて、会社の存亡にかかわるた危機をひとまず乗り越えることが出来た。

"We told the truth, and they(massmedia) believed us."と試練を乗り越えた彼女が誇らしげある。最近の『ガセネタメール事件』でミソをつけた民主党と永田議員の手際の悪さとは対照的である。

ところが第一の事件が解決したのも束の間、強化された監視システムをかいくぐって猛毒ウイルスが盗まれる。ウイルス奪取の手引きをしたのはこの会社のオーナーで最高責任者の不肖の息子のKitである。

実は研究所のセキュリティ・システムを主に作り上げたのがコンピュータを専門とするKitであった。ところが彼はギャンブル狂いでその負けがつもり返済のために会社の物品を持ち出していた。奪取事件の起こる9ヶ月前、この会社に雇用されたばかりのToniがその不正を突き止めてオーナー社長にその息子を解雇させていたのである。ギャンブルの負けを父親が一度は肩代わりしたがその後もKitはますますギャンブルにはまりこみ再び多額の借金を抱え込む。しかし父親は二度と甘い顔を見せなかった。二進も三進もいかなくなっていたKitに多額の報酬を餌に猛毒ウイルスを持ち出す誘いがかかったのである。セキュリティーシステムを熟知しているKitにとって、その網をかいくぐるのはいたって容易なこと、三人のギャングと一緒に猛毒ウイルスを盗み出した。

依頼者はテロリストらしい。その依頼者をKitが想像する箇所でJapanese fanatics, Muslim fundamentalists, an IRA splinter group, suicidal Palestinians,・・・、と日本人が最初に出てくるので一瞬ニタッとしたが自慢出来ることでないのが残念である。 

盗み出したウイルスと引き替えに依頼主から大金を受け取る手はずになっているものの、大雪のために車による移動もままならず、研究所に近い父親の家に入り込むがそこにはKitの姉妹とその家族がクリスマスを祝うために集まっている。そこでいろいろなハプニングがあり物語が進んで行く。巻末の一年後のクリスマスの光景で大団円で読み終えるのが勿体なく感じた。

それはいいのだが、そしてわざわざあら探しをしたわけでもないのだが、何故か今回はプロットに不自然な箇所がいくつかあるのが気になった。一番問題と思うことを一つ指摘するが、それでは本を読むに当たって興が削がれると思われる方はここから先へ進まないでいただきたい。

ウイルスを保存している場所はBSL4(Biohazard Security Level 4)で、出入りが最も厳しく制限されている。出入り口ではICカードをまず挿入口に入れてその上自分の指紋をスキャナーで読み取らせる。ICカードに収められている本人の指紋データとスキャナーのデータが一致して始めて入室できるのである。その内容を熟知しているKitが秘かに持ち出した父親のICカードを改変するのであるが何故改変が可能だったのか。犯罪行為で会社をくびになったKitの作り上げたセキュリティシステムが、解雇後9ヶ月も経っているのにそのまま使われていたからである。この状況設定はどう考えても頂けない。

ついでにもう一つ、著者が文系出身であることに由来しているのか登場人物の猛毒ウイルスの取り扱いも極めて粗雑で私には荒唐無稽に思われるシーンもあった。その点Harvard Medical Schoolを出ているMiahel Crichtonの記述の科学的正確さとは対照的である。

と、つい知ったかぶりを書いてしまったが、この作品はKen Follettの魅力そのもの、平易な英語なので大学生なら十分醍醐味を味わえるはずだ。