星のひとかけ

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Winterreise『冬の旅』:第八章「かえりみ」Rückblick

2018-12-17 | 文学にまつわるあれこれ(詩人の海)


ボストリッジさんは この第8曲の解説にはたったの2ページしか費やしていません。。 この曲の演奏と音階と歌い手の関係、、 そしてほんの少しの解釈をくわえているのみです。

、、 あ、たったひとつ「振り返る」文学、 について言及していますが…

 ***

この章の題は「かえりみ」となっていますが、 CDでは「回想」となっています。 「かえりみ」「回想」、、 ともに過去の出来事を自ら思い起こして感慨に浸る… というイメージがありますけれど、 ここでの楽曲は そのイメージとはだいぶ異なり、 なんとも目まぐるしい演奏です。 そして ものすごい早口の歌唱です、、 
このような「かえりみ」とは…?

、、ボストリッジさんもほんの少しだけ触れていますが、 この第8曲は 前の「流れの上で」の続き、、 合わせて考える必要があるのでしょう。。

前の曲で旅人は 氷を石で叩いて《愛の記録》を一心に削っていました。 第8曲で始まる目まぐるしいピアノはその余韻なのでは…? 前回書いたように 堅く凍りついた川面の表面を石で削って 名前と年月日を彫って 碑銘を残すようにその記念を囲む輪を刻む、、 その作業は簡単なものではないでしょう、、 それを夢中でやり終えた男の身体は火照ったように熱くなっている、、 それが第一連の歌に繋がっているのですね、おそらく。。

この「かえりみ」は 実際に男が後ろを振り返るとか、 ひとやすみしながら思い出にふける、 という実際の行動はなにも伴っていない、、 石で氷を刻み終えて 立ち上がろうとした瞬間にでも不意に男を襲った 眩暈のような、、 走馬燈のような、、 火花が散るような一瞬の脳内の出来事なのだと思います。

だから この一瞬の「かえりみ」は 音楽的にも混乱しているし、 男の回想も町を出た今夜(昨夜?)の出来事から逆行して無秩序(のよう)に 街、 カラス、 ひばりとナイチンゲール、 菩提樹、 せせらぎ、 娘… と 記憶は瞬時に駆け抜けます。




、、 どうやら男は だいぶ疲れているようです、、 疲労とともに 精神的にも なんだか混沌の影が見え始めてきたようです…

でも 男は回顧して思いに浸っていようとはせず、 この場所で休もうともしていません。。 凍えた川の上、、 休める場所でもありません、、 先を急がねば……


「冬の旅」というタイトルのこの一連の歌、、
ここまでは常に 去ってきた娘の家、娘の町、ともに過ごした夏、、の記憶が男につきまとってきました。 この凍りついた川は、 その最終地点というか境界線、、 町と娘をこの男に結びつけていたものとの境界線になっているのではないかしら… と思っています。。 まだ先をちゃんと読んだり聴いたりしていないけれど。。

、、 旅人は この川を越えて、、 ほんとうに 本当の意味での 独りの「冬の旅人」になるのかもしれません。

 ***


、、 今年もあとわずか二週間。


「年」 というたった一日の違い、 たった一秒を越える、 というだけの《境界線》が、 なぜこんなにも人の意識にさまざまな想いを呼び起こさせるのでしょう、、。

、、 ボストリッジさんのこの御本、、 どこを区切りにして年越しをしようか… ちょっと迷っています。。 今日の章までにしようか、、 もう少し先まで脚を進めようか、、


いずれにしても 一年のうちで何故かもっとも濃密に感じられるこの二週間。。


… たいせつに ……