「茅・チガヤ」の穂が夕陽に輝いて、椰子並木の中央分離帯で、風に靡いていた。
危険をも顧みず、分離帯でカメラを構える虚庵居士を案じて、虚庵夫人は早く戻ってと声を掛け続けていた。
野に自生する「茅・チガヤ」は、花穂が咲いた直後は茶色を帯びた色で冴えないが、やがて蕊が風で飛ばされると銀色の穂に変わり、沢山の穂が陽に輝く姿は見事なものだ。
銀色の花穂は光沢があって艶やかだが、やがて穂が枯れ始めると次第に穂が肥って、毛綿状に膨れる。 更に日時が経ては、穂綿は
風に舞って、種子を遠くまで飛ばすことになろう。
写真の穂は、そんな変化の途中段階で、逆光で写せば「茅・チガヤ」の美しさが際だつのだが、虚庵居士のカメラの力量が及ばず、残念だ。
数日後に山の手に散歩したら、野原に「茅・チガヤ」の群落が見つかった。排気ガスの影響もない環境で、爽やかな緑に穂波が揺れていて、思わずシャッターをきった。
漢字の一文字「茅」で「チガヤ」と読ませるのは、若干無理があるように思っていた。「茅」の読みとしては、「チ」或いは「カヤ」が無難なところだろう。そんな思いを抱いていたら、ものの本に「チガヤは群がって生えることから、千のカヤの意味といわれる」との記述を見つけて、なるほどと納得した。
椰子並木とチガヤの対比が面白く
分離帯にてカメラを構えぬ
身を案じ早く戻れと声かける
妹子と爺の散歩なるかな
銀色の花穂は膨らみ緑野に
浮き立つ如くゆるる穂波ぞ
白妙の綿毛はやがて種子抱き
風に舞ふ日を夢に見るらむ