観葉植物の代表格の「葉蘭に、花が咲いた」と書けば、馬鹿にされそうだが、実のところ虚庵居士も「葉蘭の花?」を目の当たりにして、目を疑った。
葉蘭は、生花に添えて活けたり、寿司の飾り、弁当の仕切などにも使われるが、昨今はそれもビニール製に取って代わられつつあるのが現状だ。
「うつろ庵」の庭にも、二群の葉蘭が植えてあって、虚庵夫人は時々料理の盛り付けなどに活用しているが、群落はいつの間にか勢いづいて葉の密度が増し、群が拡張する。そこで、時には強引に古手の葉を持って、根元から引抜いて、数を減らすことになる。
そんな強引な疎抜き作業をしていたら、在ろうことか葉蘭の株の傍に花の様な塊が付いたまま、引抜かれてきた。花だとは信じ難く、暫らくはためつ眇めつして、「ニラメッコ」の虚庵居士であった。
塊の姿を見れば、無骨ではあるが花らしい。色も紅がさしているところから、「花かしら?」と思われた。生ごみと一括して捨てるつもりだったので、塊りをナイフで半分に切ってみた。周辺の八角のトンガリは、どうやら花弁らしい。中央の紅色の部分は、蕊かと思われた。
葉蘭は地下茎が活発に働いて、次々と繁茂するので、花が咲くのは繁殖のためとも思われない。長い茎とその延長上の幅広い葉が茂るその根元で、「葉蘭の花?」はどんな思いで咲くのだろうか。葉蘭に覆われ殆ど陽も射さぬ日陰で、地表すれすれ、或いは落ち葉などに覆われて咲く「葉蘭の花?」に、虚庵居士は心を奪われた。
生い茂るひろ葉ひろ葉の葉蘭なれど
只にひろ葉は哀しからずや
気が付けば葉蘭の群れのいや増せば
そよ風抜けまし おろ抜援けむ
古き葉を手に取り腰を構えてぞ
葉蘭を引けば 根株も抜けぬ
株際に花らしきもの在るを見て
目を疑うは葉蘭の花かも
八角はツノか花弁か紅に
色付く塊り葉蘭の花らし
広き葉と落葉も覆ひ陽もささぬ
根元に咲くとは 葉蘭の花ぞも
何ゆえに斯くも厳しく花咲くや
葉蘭の花の心を思ほゆ