丘陵の住宅街の坂道を登り切ると、自然がそのまま残された細い山道に繋がる。丘陵とは云えここの急峻な傾斜が、宅地造成を妨げているのであろう。散歩道としては恰好な山道なので、虚庵夫妻は時々このルートの散歩を愉しんでいる。
巨木が生い茂る鬱蒼とした森の中に、其処だけぽっかりと木漏れ日が射しこんだかの様に、「丸葉空木」の白い花が咲いていた。
もとより白い花が「丸葉空木」だとは知る由もないが、昨年の丁度いまごろ、同じ場所でこの白い花に出会って、花図鑑のお世話になった。
その花図鑑は、この花木の識別ポイントを極めて明快に指摘していて、もの覚えの悪い虚庵居士であるが、それを鮮明に思い出した。
曰く、「花穂のつけ根に対生する葉は、基部がハート形で柄がない」との解説であった。
それを思い出して、花穂と葉の付き方を見たら、こんな状態であった。
丸葉空木は陽当りが佳い場所を好むようだが、ここの様な鬱蒼
とした森の中では、珍しい存在に違いない。しかしながら、巨木の葉に覆われた薄暗い森の中で、白い丸葉空木の花に出会うと、思わず「ほっとする」のは何故だろうか。
うち続く家並みの坂道登り来て
丸葉空木に逢いに来しかも
こぞ観てし森の白花いとしくば
今年は如何にと尋ね來しかな
鬱蒼と巨木茂れる森中に
白妙の花はじじばば迎えぬ
ひととせを経にし互いのあれやこれ
無言に確かめ安堵するかも
薄暗き森の白花尋ね来て
安らぎ得るかな丸葉空木に