「虚庵居士のお遊び」

和歌・エッセー・フォート 心のときめきを

「かつ知るらしき」

2006-03-16 00:08:33 | 和歌

 「うつろ庵」の薔薇が芽吹いた。

 この薔薇の花は、余り大輪ではないが、気品のある色合いと、何よりもその香りが高貴で、虚庵氏自慢の薔薇である。今年も新芽が萌えて、あの滾るバラの花の予感で、トキメク思いがする。

 何れバラの花が咲いたら、特殊テクニックを駆使して、読者の皆様へ香りつきの写真と和歌のブログをお届けしたい。新芽は、己の出自を弁えているかのような風情で、春の朝日を受け止めていた。

  




 
             薔薇の芽は葉先に花色窺がわせ

             誇る仕草か葉柄を反らせて



             萌いずる薔薇の新芽は咲く花の

             唐紅(からくれない)を かつ知るらしき



             百千(ももち)咲く唐紅のバラに焦がれ

             芽吹く初葉もいとおしかりけり






「華やぎ溢るる」

2006-03-15 20:12:27 | 和歌

 「うつろ庵」の隣のお宅の、杏が綻んだ。

 その内に、ブログに掲載してご紹介しようと、モタモタしていたら、一日二日のうちに、満開となった。杏は、梅の花とよく似ていて、虚庵氏には見分けが付かないが、梅に比べて花付が密のようだ。蕾の付き方を見ても、かなり団子になっているので、花が咲いた状態では、「華やかさ」がある。

 地続きのお隣の庭に咲く杏であるが、借景として愉しませて頂いている。
「うつろ庵」の敷地の植木は、剪定など何かと手間が掛かるが、「借景は、手が掛からない気楽なもの」などと、無粋な屁理屈をいいつつ、愉しませてもらっている虚庵氏である。

  




 
             梅につぎ杏の蕾もふくらめば

             間近なるらしのどかな春日も


  





             やがて咲くと

             待ち居るいとまの昨日今日
          
             杏の梢は華やぎにけり

  






             杏花 嫁ぐ娘の心とや

             華やぎ溢るる枝先なるかな







「枝えだの 先の蕾は」

2006-03-14 05:54:15 | 和歌

 お隣の白木蓮が咲き始めた。

 春一番の嵐に吹かれて、蕾を包んでいた毛衣が、「うつろ庵」の庭先にも舞い込んできて、
木蓮の「花時の知らせ」を受けて心待ちにしていた。 蕾の包みは羽毛に覆われているので、虚庵居士は「毛衣」と呼んでいるが、その昔、歌人達は冬の枕言葉に「けごろも」という言葉を使っていた。ひょっとすると単なる想像ではあるが、木蓮の「毛衣」を詠んだものかもしれない。

 不思議なことに白木蓮の蕾は、どれもこれも先を少し北側へ曲げて、太陽を背にしている。
植物は、一般的には陽ざしを求める特性があるが、白木蓮の蕾はこれと反対だ。小学生の理科のお勉強で、向日性・背日性という実験をしたことが思い出される。シャーシーに入れた大豆の芽は陽に向かい、根は日陰に向かった。
白木蓮の蕾も、何かの理由があるに違いあるまい。

 




 
             木蓮の八十(やそ)花つぼみ奇(くすし)くも

             陽を背に受けて律儀にお辞儀す



             春の陽を白木蓮は背に受けて

             日向ぼこりを楽しむならめ



             枝えだの先の蕾はけごろもを

             脱ぎ捨てていざ弥生に咲くらし



             咲き初むる白木蓮の花びらを

             嵐な吹きそ柔肌傷めな







「はしきやし雪割草は」

2006-03-13 00:00:06 | 和歌




 
             はしきやし雪割草は訪ね来し

             我を迎えていま咲かむとす








             乙女らは顔寄せあいて語らうや

             はじける笑みの声も聞こえて




             頬染めて夢中で語らふこの娘らは

             ひと恋い初むる年頃なるらし



             それぞれにかんばせ傾け語らえば

             乙女のうなじに産毛ひかりぬ








「酒甕の 深き思いは」

2006-03-12 00:45:02 | 和歌

 「うつろ庵」には「蘇芳梅」の根元に、中国産の酒甕を据えてある。

 無粋な話で恐縮だが、夏に雨水が溜まってボウフラが湧いたので、思い余って逆さにした。ズボラナ虚庵氏は其の侭うちすててあったが、今朝見れば、昨夜の雨が僅かに凹んだ甕の底に溜まって、舞い散った蘇芳色の梅の花びらが浮いていた。

 甕と、梅の花びらと、雨の溜まり水。
青空も加わって織り成す、えも言われぬコラボレーションのプレゼントを賜った。






 
             梅が花に恋焦がれきて酒甕は

             散りゆく花びらせめてひと日を



             酒甕の深き思いは散る梅を

             せめて留めむ雨水を湛えて



             酔いどれの飲みつくしたる酒甕の

             みやびの心根 あるじに代わるや






「想いを告げなむ」

2006-03-11 20:27:59 | 和歌

 夕暮れ近くに、清楚で気品に満ちた、一輪の白椿に出合った。

 少しだけ俯き加減な姿は、控えめで理知的なものを窺わせていた。 虚庵氏は、こころ此処に在らずの態で、たちまちこの椿の花に吸い寄せられていった。

  





 
             夕ぐれに浮かぶ椿は白妙の

             花やや俯けて もの思ふかも



             一輪の椿は花芯を内に秘めて

             想いを告げなむ人まちをらめ



             白妙の椿に寄り添い佇めば

             はじらふ気配か 夕日に顔染め




          「雪月花」さまの文「散華」に導かれ 訪ね行きて詠める


             ちるはなのいとおしければひろいつつ

             たどりきたればみだおはします






「ゆたに咲きませ」

2006-03-10 01:25:48 | 和歌
 
 



 
             こぞの種のこぼれて咲くや菜の花は

             草々の間に首をもたげて



             菜の花の畑一面に咲くもよし

             ただ一株も「黄花」を誇りぬ



             独り咲く菜の花慕いて舞い来る

             蝶もありなむ ゆたに咲きませ



             菜の花を見やれば逝きにし かかさまと

             相見し昔を憶ほゆるかも









「芙蓉カタバミ」

2006-03-09 07:15:37 | 和歌
 




 
             啓蟄のあくる朝日を身に浴びて

             芙蓉カタバミ息ひそめ咲く



  





             きぞの夜のそぼ降る雨を受け止めて

             水玉一粒 光るカタバミ









「夢幻に遊ばむ」

2006-03-08 00:31:22 | 和歌

 数日前の夕暮れ、散歩をしていたら、かすかな沈丁花らしい香りが漂った。

 道端で、花の手入れをなさっていた白髪のご夫人にそれとなく告げたら、ご自宅の玄関前に咲く沈丁花の白花を指さして、今朝から咲き始めたという。誘われるままに近くに立てば、房莟のあちこちに、それぞれ一・二輪の花を付けて、初々しく咲き始めていた。
  
  その後、あちこちの沈丁花が、芳しく咲き誇っていることに気がついた。花の姿は見えずとも、あの芳香で沈丁花が咲いていることが窺える。そういえば、昨日はもう啓蟄だった。






 
             春の宵かすかな香りを辿り来れば

             白き初花 沈丁花咲く


  





             漂へる芳しき香にそれとしる

             春のおぼろの沈丁花かな

 

             沈丁花の咲き初む小枝をわぎもこの

             髪に飾りて夢幻に遊ばむ
  







「梅花はももち」

2006-03-07 00:20:51 | 和歌

 「うつろ庵」の白梅は夙に散り敷いた。一足遅く咲いた蘇芳梅は、今日の春一番の風に花びらを舞い散らせて、虚庵居士の心はそぞろ落ち着かない。

  



 
             枝毎に梅花はももち咲き登り

             蘇芳の春の心栄えかな



             散りてのち切りたる小枝を剣とて

             子らと遊びしこぞの春かも




 



             群れ咲くも梢に咲くも同じ木の

             蘇芳の梅花に変りはなけれど



             おち方の 息子と娘に届けばや

             鄙の庵に誇る梅かも






「もろ肌 脱ぎたる」

2006-03-06 00:06:01 | 和歌

 年末には、年明け早々に開花するかと思われた薔薇も、今年の寒さで、やっと莟がほころび始めた。

 まだまだ余寒の厳しい日もあろうに・・・。大輪の薔薇は咲き急げば、花びらが凍傷に痛めつけられることも予想される。急がずに居てくれれば良いがと、祈る気持ちであるが、薔薇の気配では待ちきれない素振りである。青年も薔薇も、若者は先を急ぎたがるようだ。


  
 




             人ならず薔薇の莟の背中から

             凛と立つさま訓えをうけにし



             もろ肌を脱ぎたる薔薇はいなせかな

             萼そり返す姿凛々しき



             凍てつける冬日に耐えつつ待ちかねて

             はや萼脱ぐや今朝の陽ざしに



             朝な夕ないまだ凍てつく日もあれば

             見まくほしけど薔薇な急ぎそ








「クリスマスローズ」

2006-03-05 00:46:32 | 和歌

 「うつろ庵」の庭の、数少ない洋種の花の一つだ。

 過日、ワインレッドの「クリスマスローズ」を紹介したが、ネーミングがいまひとつ気になって、少しだけ調べてみた。イエス・キリスト生誕の知らせに、お祝いに捧げる物がないと困り果ていた少女に、天使が舞い降りてこの花を咲かせてくれたという言い伝え。はたまた、イエス・キリストの十字架の足もとに、嘆き悲しむ少女、その周りに咲いたクリスマスローズ。
この花は、イエス・キリストとの深いつながりがあるようだ。寒い冬にも耐えて年末から晩春にかけて花を付け、人々に愛されてきた。そしてまた交雑種を作り易いこともあって、数えきれないほどの花の種類があるという。

 項垂れて咲くのは、深い悲しみのゆえか・・・。



  
 




             白無垢の花は誰がため祈れるや

             夜明けの前に薄化粧して 



             ひとびとの托す想いの深ければ

             こうべを垂れて祈るきみかな










「しずくを湛えて」 その二

2006-03-04 00:52:40 | 和歌

 鎌倉・稲村ガ崎のお宅には、見事な枝垂れ梅も咲き始めていた。

 薄紅梅の可愛らしい莟と花びらが、しずくに瑞々しく輝いて、あたかも雛の節句に合わせたかのような風情であった。梅の名前を伺い損ねたので、帰宅してから調べたら、「藤波枝垂」だと知れた。


 




             あかときに枝垂れて咲くや降る雨に

             やそ玉しずく湛えてうるわし




             若き日の梅咲く苑に佳き人と

             相観しトキメキ よも忘れめや










「しずくを湛えて」

2006-03-03 00:05:06 | 和歌

 白梅 「緑萼(りょくがく)」に出合った。

 鎌倉講演会の後で、食事をしながら話が弾み、稲村ガ崎にお住まいのご夫妻に誘われて、氷雨のそぼ降る寒い午後であったが、一緒にお宅にお邪魔した。小高い山を背負った閑静な邸宅の庭には、種類の異なる数々の梅が咲いていた。寒さも忘れて、暫し観梅を愉しんだ。

 咲き始めて程ない「緑萼」の、気品に満ちた気配が何とも清々しかった。


  
 




             氷雨ふる稲村ガ崎に訪なへば

             しずくを湛えて「緑萼」迎えぬ



             梅あまた競える苑に佇めば

             ひと際清しき 緑萼なるかも



             梅が香をせめてきかむと近づけば

             さ枝にふるるやしずく零れぬ






「憂いを落として」

2006-03-02 00:13:03 | 和歌

 「クリスマスローズ」が、俯いてヒッソリト咲いていた。

 暑さの夏は、木陰に入れてやるのが「クリスマスローズ」をいたわるコツらしい。そのまま冬の暖かな陽射しの下へ出し忘れていたら、木斛の枝の下で項垂れて咲いていた。この花を見るつど思い出すのは、先生に叱られてローカに項垂れて立たされた子供の頃のことだ。どんな「おいた」をしたのかは忘れたが、K君と並んで立つイガクリ頭の自分の姿が見えて来るのも、不思議なことだ。

  

 




             植木鉢を高く掲げてかんばせに

             挨拶すれば花芯はひかりぬ




             かんばせを伏せて咲くかな項垂れて

             深き悲しみ花は堪えて




  

 



             Wine redの 大きな花びら俯けて

             なにに堪えるや Xmas Roseは



             秘めたるは前世の深き想いならめ

             睫毛の影に憂いを落として