「うつろ庵の芍薬」が咲いて、仄かな香りが虚庵夫妻をしびれさせてくれる。
年金生活の誠に慎ましやかな暮らしだが、花の香りを愉しめるのは、何とも優雅な
日常だと悦に入るじじ・ばばだ。芍薬の香りに華やかさはないが、どちらかと云えば控えめで慎ましやかだ。
香りの文明はヨーロッパなどで華やかに育まれたが、我が国でも平安貴族などの日常生活では、衣に香を焚きしめ、人の顔を見ずとも衣の仄かな香りを聞き分けて、「あれ、あのお方が・・・」などと優雅な香りの世界があったようだ。
現代社会では、女性が香水を愉しむのもその名残かもしれないが、花の香りは香水などの人工の香りと違って、こころを癒してくれる素晴らしい効果もあるようだ。
数日前に「うつろ庵の紅ばら」の満開を写真でご紹介した。この薔薇は香りが素晴らしいので、散り敷いた花びらを拾い集め、篭に入れて紅ばらの下に吊るし、道行く人々に「薔薇の香のお裾分け」として、香りを愉しんで頂いている。
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「うつろ庵の芍薬」は昨年、一株だけに突然変異が発生して、白花がごく淡いピンクの花に替った。今年はどうかと注目していたら昨年に引き続き、ごく淡いピンクの花を咲かせた。
三十年程前になるが、会社の同僚がわざわざ株を土産に下さって以来、毎年見事な花を咲かせて愉しませて頂いている。頂戴した時のご説明では、「芍薬は同じ場所での連作を嫌います。出来る限り異なった場所への植え替えを、お勧めします」とのご指導であった。 二・三年はご指導に従ったが、植え替えが次第に面倒になって、その後は同じ場所に放置したままだが、昨年の突然変異は或いは場所替えを怠ったことへの、芍薬の抗議だったかもしれない。抗議に顔を染めた芍薬も、これまた素敵なので、来年もこの場所に居続けて貰う積りだ。
芍薬の花の香りを聞かなむと
わぎもこ朝のご挨拶かな
春雨の雫をしとど湛えしか
こうべを垂れる芍薬かなしも
あらかじめ天気予報に気をとどめ
雨傘添えぬを詫びるじじかな
芍薬の花色替わるは抗議ならめ
連作嫌うとご指導ありしに
はしきやし抗議に顔染む芍薬の
花色うるわし来る年も観む