「姫蔓蕎麦・ひめつるそば」を見ると、祖父の膝に抱かれて食べた、甘い砂糖菓子の金平糖を思い出す。
太平洋戦争の末期の頃、まだ幼児だった虚庵居士は、母に手を引かれて祖父の家に時々遊びに行った。当時は総てがお国のため、戦地への供出等で、お菓子や飴等は殆んど手に入らない貴重品だったが、祖父と共に食べた金平糖が懐かしい。
いま思えば、信州諏訪で巨大な倉庫を構え、繭・生糸問屋を営んでいた祖父は、孫達のために工面して、金平糖を特別に手配していたに違いあるまい。
仏壇の前が祖父の定席だったが、後の茶箪笥の小引き出しから金平糖を手掴みで取り出し、幼児の手に余る程を下さった。 そんな懐かしい金平糖に、「姫蔓蕎麦」の花は形も大きさも、そして色合いもそっくりだ。
当時の祖父の年齢を遥かに超える虚庵居士だが、「姫蔓蕎麦」の花を観れば何時の間にか、金平糖を食べつつ涎を垂らす、幼児の気分になるから不思議だ。
懐かしき
幼児の頃の砂糖菓子の
金平糖を偲ぶかな
母に連れられ手を引かれ
遊びに行った祖父の家
膝にまたがり口にする
金平糖に よだれをたらしぬ
蔓草の細きうなじに玉花を
幾つか かかげる 姫蔓蕎麦かな
近く見れば粒々それぞれ小花かな
あまたの小花が珠をなすとは
それぞれの小花は未だ口つぼめ
一つ二つの 年始の綻び
何時の日に小花は咲くや珠をなして
その日を観まほし近くに寄り添い