「木瓜」の花が、小正月に咲いていた。
子供の頃、信州の田舎に育った虚庵居士だが、小正月は雪と氷に閉ざされていたので、「木瓜」の花を観るなど及びもつかなかったが、小正月の様々な行事が想い出された。毎日を忙しなく暮らす生活からは、その殆どが消え失せてしまったが、古来からの風習が懐かしい。
正月の床の間に飾られていた「お供え餅」は、鏡開きの日に割って、「小豆粥」に 入れて食べたあの味も忘れられない。
男の子達にとっては、の家々を回って正月の松飾やしめ縄を集めるのが楽しみだった。集めたお飾りを大きな松の木の枝に吊り下げ、根元に積み上げて一気に燃やす「どんど焼き」の炎は、いまも眼に焼き付いている。
お書初めの半紙をその炎に投げ込んで、燃えながら舞い上がるのを観て歓声を挙げた。燃えて高く舞い上がれば、お習字は上手になるとの言い伝えを信じて、子供達は次々とお書初めの半紙を投げ入れたものだった。
信州の田舎ではかって養蚕が盛んだったので、米粉で作った紅白の繭玉を柳の枝先に挿して、正月飾りにしていたが、小正月の「どんど焼き」の火にかざして、焼いて食べたのも懐かしい。寒気に堪えて咲く「木瓜」の花を観つつ、子供の頃の雪と氷の小正月に、思いを馳せる虚庵居士であった。
指先の痺れる寒さに揉み手する
木瓜の花咲く小正月かな
信州の子供の頃の小正月を
想い出すかな木瓜と語れば
いと固き鏡餅かな打ち砕き
小豆の粥の鍋に入れにし
子等集い松の飾りを集め歩き
「どんど焼き」をば 一気に燃やしぬ
紅白の繭玉餅を火にかざし
顏 火照らせる「どんど焼き」かな
書初めの半紙を炎に投げ入れて
燃えつつ高く舞ふを念じぬ
雪の舞ふ小正月こそ恋いしけれ
幼き頃を木瓜と偲びぬ