虚庵夫妻の散歩コースは、住宅街のほゞ中ほどの遊歩道と、海岸の椰子並木の プロムナードを組み合わせるコースが多いが、時には気分転換に旧市街の路地裏散歩をも愉しんでいるこの頃だ。過日は路地裏散歩を辿る途上で、隣町の線路脇の小道に紛れ込んだ。
線路端の住居は電車の騒音がサゾヤと、他人事ながら心配だ。静かな日常生活や睡眠が妨げられるのは虚庵居士には堪え難いが、住民は意外と慣れっこになっていて、気にせずにお暮しなのだろうか。
そんな在らぬことを考えながら歩いていたら、線路の柵に掛けた数々の花小鉢が目に入って、住民の逞しさに愕いた。
コンクリート製の細い柱と横桟を組み合わせた柵には、針金を巧みに使って様々な花小鉢が飾られていた。孟宗竹を半割にしたお手製の花鉢もあって、線路の柵を使った花壇には、住み人の思いが凝縮されていた。
狭い路地は簡素な玄関に直接つらなり、花小鉢の向こうは線路だ。
住居の至近距離を猛烈な勢いで電車が走れば、騒音も然ることながら振動もかなりであろう。未だ明けやらぬ早朝から深夜まで、毎日の上下の電車本数は相当なものであろう。達磨大師の修行をも遥かに超える修行を、生涯に亘って続けて居られるからこそ、堪えられるのであろうか。「住めば都」との諺があるが、お住まいのご家族の忍耐強さには感服だ。
玄関前の線路柵の花小鉢に、総てを超越した住み人の思いが偲ばれた。
歩み来れば隣の街の路地裏の
線路の脇の小道を辿りぬ
線路際の住居に暮らす人々は
如何に堪えるや電車の騒音を
あれこれと思いをめぐらし線路端の
小道を辿れば柵には小鉢ぞ
コンクリートの簡素な柵に吊るしたる
花の小鉢に愕かれぬる
住み人は狭き小路に思い凝らし
線路の柵に花鉢吊るしぬ
騒音と振動に耐える毎日は
花の小鉢が総ての救いか