「からすのえんどう・烏野豌豆」が、可憐な表情で野原に咲いていた。
この野草は、チョットした空き地があればたちまち根付いて、春から夏まで小さな花を咲かせて、目を愉しませてくれる優れものだ。花はごく小さく目立たないから、余程の好き者でないと目にもかけまいが、野で無心に遊ぶ子供たちには、恰好な遊び相手だった。蔓草で冠を作ったり、小さな花は子供にはお似合いのお飾りだ。
別名「矢筈豌豆・やはずえんどう」とも呼ぶが、やがて実を結べば、実莢がまた子供たちの遊び相手になるのをご存知の向きは、意外と少ないようだ。 子供たちは莢を指で割って種を取り除き、実莢を口に含んで吹き鳴らして遊ぶのだ。それぞれの土地によって呼び名は異なるだろうが、子供たちは実莢を「シイビビ」と呼んでいた。
「ピー」或いは「ビービー」と鳴るかすかな音が、懐かしく耳に残っている。
野を行けばシイビビの花懐かしき
蔓草編みて頭に冠りぬ
蔓草の花を摘み取り乙女らの
胸を飾りぬ遠き昔に
シイビビの実莢を鳴らしたあの頃の
あの友かの朋如何あらまし
野に咲けるシイビビの花に誘われ
爺は還りぬ遠き昔に