「うつろ庵」の三方を囲む珊瑚樹の生垣は、三月初めから春分を経て、新緑の時節を迎えた。生命力旺盛な珊瑚樹は、枝々が芽吹き、新芽の成長は日を追って目を瞠るばかりだ。
新緑の成長と共に、昨年来の葉は黄色に色付いて、落葉の季節を迎える。
春の嵐が吹き荒れると、落ち葉が舞い散って、ご近所にご迷惑をお掛けしかねない。そこで、虚庵居士は箒と塵取りを手に、風に舞う落ち葉を追いかけ回す、滑稽な爺振りを演ずることになる。
そんな無様なことは願い下げにしたいものだ。新芽の先端を指先で千切り、徒長止めの剪定をしつつ、色付いた落葉前の葉を摘み取るのが、このところの日課になった。そんな根気のいる手入れの結果が、ご覧の様な新緑の珊瑚樹である。
生垣に向かって手入れをしていると、「新緑がお見事ですね」と道行く人々から声を掛けられるが、珊瑚樹が手の掛る生垣だとは、何方もご存知あるまい。
今年も秋口には珊瑚の房実が沢山生って、目を愉しませてくれることだろう。
珊瑚樹は若葉わか葉に陽をうけて
無垢清浄に輝き笑むかな
逞しき命の息吹きに目を瞠る
珊瑚樹なるかな萌える若芽は
日を措かず背丈を伸ばす新芽かな
滴る緑葉はいと柔らかにして
成長を誇る珊瑚樹ほどほどに
芽先を欠いて徒長を抑えぬ
密な枝を疎抜きにけり生垣に
息抜きさせれば寛ぐ気配ぞ