牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

奄美牛の話のついでに

2008-07-31 20:22:32 | 肥育


写真の牛たちは、奄美牛である。
彼らの約80%は、統計上、上物になることになる。
奄美牛が全体の73%を占めているため、南西諸島以外の鹿児島産は、僅か6%のため、それらの能力を判断しかねている。
産地が異なっても、導入する素牛のレベルは、中の下~中のランクのものを競り落としてくる。
このレベルでは、奄美産は実に捨てがたい成績を有している。
それ以外では、上ランクのものなら、問題ないであろうが、セリ価格に閉口する。
どちらを選択するかが、経営の明暗を左右する。

そのくらい、奄美牛の肥育素牛としての能力は、他に負けない程度に安定していると言えよう。
本来、黒毛和種であれば、産地間差などは差ほど無いはずである。
大多数の主産地では、同レベルの改良が進んでいると解釈している。

長期間、同一産地から素牛を導入すれば、その産地の素牛独特の肥育法を経験的に会得しているとも判断している。

子牛生産者は今頑張り時

2008-07-30 23:58:58 | 素牛


子牛のセリ価格が下がって来つつある。
それでも市場平均は40万円前後である。
様々な生産費を差し引いても、まだマイナスにはならない相場である。
これまでが、高騰し過ぎた。
平均60万円という市場もあった。
子牛生産者には、笑いが止まらなかったはずである。
その一方で、現在肥育が仕上がり出荷中の牛は、55万~60万円の素牛価格であり、枝肉価格が105万円しないと赤字である。
枝肉重量500kgで単価が2,100円でないと元を取れない。
厳しい状況である。

肥育関係者は、素牛価格が願わくば今のままで推移して貰いたいと思っているはずである。
エネルギーや飼料穀物等の高騰は、当分上げ止まりは無い模様である。

子牛生産者に今考えて貰いたいことは、ここで生産意欲を高揚して頂きたい。
子牛が安価であれば、繁殖雌牛の更新や増頭には、ラッキーチャンスなのである。
前述したことがあるが、子牛価格が高騰時に、新規就農で和牛繁殖を選択したという若者がいた。
単純に30頭を導入すれば、現在なら約500万円が軽減されることになる。
現在多頭化を実現している生産者たちは、この様な相場の低迷期を上手く利用して実現したと聞く。

我が国の牛肉産業の担い手である繁殖経営者が増加することを切望するものである。


切磋琢磨

2008-07-30 00:38:49 | 雑感


奄美牛ブランド化を話題にしたが、そのエリアは、奄美本島、喜界島、徳之島、沖永良部、与論の各島からなり、年間約14,000頭の和牛子牛が生産されているそうである。
これらの島々は、互いに切磋琢磨し和牛の改良や増頭に凌ぎを削ってきたという。
彼らが常に意識しているのは、子牛市場での平均セリ価格でトップになることのようである。
06年10月のことであるが、徳之島で200頭近い繁殖雌牛を飼育している農家を尋ねたことがある。
その時、各島の話題となったが、畜主は「やっと与論や沖永良部に勝つことが出来たんですよ!」とさも念願が叶ったとばかりの喜びようであったことを記憶している。
何で勝ったかというと、その年の9月セリの平均セリ価格のことであった。
これらの島では、交配用種雄牛の供用の仕方に、多少の違いがある。
また、雌牛群の系統も、鹿児島産だけでなく、島毎に宮崎産の系統の割合が高い場合があったりである。
これらの取り組みをして切磋琢磨という状況が垣間見られる。

牛肉のブランド化は全国で約100箇所商標化されているという。
子牛については、前述したが、但馬牛ブランド以外は、奄美牛ブランドくらいであろうか。
全国各地の主な和牛産地には、全国和牛登録協会が認定した和牛改良組合が479箇所有り、系統保存や改良に様々な活動が実施されているようである。
この改良組合の存在と個々の独自の活動が、子牛のブランド化を必要としていないのかも知れない。
地域特有の系統保存などの規定と品質の保証などが守られるのであれば、ブランド化することにより、交配精液の選定、出荷月齢と出荷体重、子牛育成技術の統一性などが遵守されて、生産子牛への品質と信頼性が保たれて、生産者も目標とされる指針に沿って子牛生産のために邁進できるはずである。
それらの目標なしでは、漠然とした子牛生産に留まり、挙げ句の果て減少傾向となるは必至である。
自らのブランドなら、それを死守するため、さらに切磋琢磨するは我々人類の常套手段である。

子牛ブランドを作ろう

2008-07-28 17:53:28 | 素牛

先日、神戸ビーフブランドのことを記述した。
このブランドは、兵庫県の但馬牛を死守するという伝統が生かされ、生産地でも但馬牛ブランドの子牛が子牛市場に出ているくらいである。
ブランドに、県や関係者の改良目標の確固たる指針が生かされている。
神戸ブランドを支えているのは、兵庫県内の肥育関係者が取り組む肥育技術の確立があってブランド化は推進されている。

一方、平茂勝号が肉量肉質兼備の種雄牛であると華々しく登場したことで、全国的に同様の種雄牛を導入しなければと言う機運があり、今や何処の産地でもその様になった。
功を奏したところと、これからマイナスの影響を受ける地域もあるかも知れない。

ある府県では、7~8年前まで、その大部分は但馬系の繁殖雌牛であった。
ところが現在では、飼養頭数が激減し、その半数は九州系の雌牛に変わりつつある。
従来のその地域特有の特徴を持った牛群は壊滅してしまった。
係る行政では、交配用の種雄牛を繋養し精液を提供しているが、交配する毎に肥育素牛としての能力は、改善されるどころか次第に低下の傾向にあり、それが故に、飼養頭数が減少している一面がある。
農家に増頭など畜産振興を促しながら、その実態は、地域の産業の実態把握が成されないまま、農家まかせの取り組みの結果、生産農家に対してマイナス効果をもたらしている。
この背景に、購買者に但馬牛の肥育技術が浸透されず、子牛の肥育結果だけから、子牛が不人気となり、農家は、目先の平茂勝効果を期待して九州産へと触手しだした。
今や、ブランドどころではない。
複雑な血統の混在となった現状で、これからどのような振興対策を取るのであろうか。
今後の策としては、九州各県の取り組みを取り入れざるを得ない状況であるが、その地盤の狭さが、気がかりでならない。
このことは、兵庫県のように、確たる指針がなかったと言う他無いのである。

ことは、子牛生産各県が抱える問題であって、対岸の火事ではない。
行政やJA関係者、改良団体等が直面する課題である。
生産に汗水流している生産者諸氏は、自らの経営に直面している問題である。
行政などに全てをまかせることなく、自ら肥育サイドの統計や現状を正確に把握することが肝要である。

全国和牛登録協会が発行する「和牛」誌245号に「奄美牛ブランド化」が紹介されており、興味深く拝聴した。





一人で80頭(2)

2008-07-26 19:14:06 | 雌牛


写真の子牛たちは、未だ角も短い。
この子牛たちは肥育素牛として昨日話題にした牧場から導入した。
平均6.5ヵ月令である。だから6ヵ月令というのもいる。
数年前までは、大変厄介な素牛であった。
生時体重が小さいため、その育成がなかなかうまくいかなかった。
うまくいかない子牛を引き取っていたため、かなりの牛が問題牛として、患畜舎を経験した。
もちろん、欠損牛ばかりであった。
これまでの1年間、これらの子牛たちの肥育成績には、目を見張るほどの成果が見られるようになった。
これまで、鹿児島県産を年間約350頭導入しているが、これらの肥育成績は、ダントツに好成績を残してきた。
この鹿児島県産に肩を並べるところまでになった。
好転した理由は、もちろん母牛が鹿児島産に変わったこともあるが、最大の理由は、粗飼料の利用性が格段に高くなったことである。
要するに、子牛が健康状態で導入できるようになり、粗飼料を良く食い込んでくれることで、牛たちの潜在能力を遺憾なく発揮する体調をものに出来るようになった。
子牛を6~7ヵ月で導入する理由は、一人で80頭を管理しているので、労力軽減のために、早めに引き取っているが、これが今では功を奏すようになった。
導入後は、約3ヶ月間は粗飼料飽食で平均日量4kg弱食い込ませている。
これまで、平均600kg位で出荷していたが、今のやり方になってからは、約23~24ヵ月肥育して枝肉重量平均500kgを獲得できるようになった。
中でも、雌はA-5率が高くなった。
当方では、可能な限り日齢が若い子牛を導入すべきと考えている。
子牛生産者が粗飼料を飽食させる飼い方をしてくれれば、現行の9ヵ月令で問題なく良質の素牛となることは火を見るより明らかなのだが。

一人で80頭

2008-07-25 20:27:07 | 雌牛


前述したかも知れないが、繁殖雌牛を一人で80頭管理している話である。
雪深い地方で、国営農場の一角に畜舎を建て、但馬系雌牛を主体に繁殖を始めたのは、15年ほど前のことであった。
40歳男性一人で80頭を管理している。
人工授精の技術が高く、病畜以外はほぼ全頭受胎させている。
一人では、草地を管理するには、かなりのオーパワークになるため、飼料は全て購入に頼っている。
給与作業や授乳作業、人工授精、発情確認作業、分娩のための移動や除糞作業、観察や治療、ワクチン接種、子牛登記や登録申請とその実施作業、大鋸屑や稲わら調達、厩肥の堆肥調整作業や販売と配達、飼料の注文と受領確認、作業機械の始業や終業時の点検整備、精液の注文や受領、その他事務作業等数え上げたらキリがなく、一人ではきりきり舞いの毎日である。
この様な経営状態で、但馬系を管理するのは至難の業であった。
生時の子牛が小さく、20kgを切るのも珍しくない。
そのために、子牛の下痢や肺炎に泣かされていたものである。
そこで、母牛群を数年掛けて、鹿児島産に全頭入れ替えた。
そのことで、生時体重が大きく、育ち易くなった。
下痢や肺炎もワクチンを接種することもあり、かなり改善した。
(つづく)

牛の耳標番号

2008-07-24 20:56:05 | 牛の耳








牛の耳標は、単なる管理番号であったり、受付順で決まる個体識別番号である。
写真のように、判りやすい番号や、ラッキーナンバーなどは、管理する者には、思い入れが芽生えるケースがままある。
例えば、757番が過去のある共進会で優勝した番号であれば、次に同じ番号の牛が導入されれば、さらに期待感が募る。
10桁番号でも、下の5桁が14129であったら、一番良い肉だーと勝手に語呂合わせして期待する。
本来は、全ての番号に愛着を持っているはずである。
覚えやすい番号も確かにある。
良く治療を必要とする牛の番号も畜主には記憶に残りやすい。
意外と、757ではないが、2~3年置きに同じ番号が、A-5になるケースはある。
これらの番号は、管理上では、名前に匹敵する大事な個体番号である。
10桁番号が、77777とか88888と言うのにはお目に掛かったことはない。
ラッキーナンバーとしていつかお目に掛かりたいものだ。

猛暑続き

2008-07-23 22:46:57 | 肥育


今年は空梅雨でいつの間にか梅雨も上がったみたいだとの気象庁。
今日は室内でも36℃で、昼から夕方まで、牛たちの呼吸は全速力なみの勢いであった。
今夏は、若干肝機能が低下した牛が、熱中症に罹り、獣医師からは、もう無理かも知れない、であったが、バケツで数杯全身に水をぶっかけたら、落ち着いて、現在は元気で食欲も回復した。
こんなに猛暑になれば、仕上げに入っている牛は、どの牛も熱中症が気がかりだ。
畜舎の廻りは、開けっ放しで、畜産用換気扇がフル回転中である。
真昼の猛暑とは裏腹に深夜になれば、20℃代に下がるので、それが一縷の望みである。
山にわき出る水を頼みとしているが、日に日に水量が減りつつある。
一雨の来ることを雨乞いで待たねばならないのかと真剣に考えているところである。
牛たちは、暑さのために、音を立てて飲んでいる。

再び除角の話

2008-07-22 23:16:10 | 牛の角


写真のように角に損傷を負うことがままある。
肥育する上では、角に損傷を負っても差ほどの影響はないが、損傷が起きない手だてを考慮することが、せめてもの牛たちへの思いやりであろう。
広い運動場付きの畜舎で導入牛を飼い慣らししている際、枕木で拵えた牧柵の僅かな取っ手で写真のように角のサヤが抜けてしまったらしい。
どうやら、牧柵を修理するのに、番線を巻き付けて固定した時に直径2cm位の環があって、その環の中に角が填り、サヤが抜けたと判断している。
鼻環を掛けるのも同様で、人がこれくらい大丈夫と判断しても、牛たちは、さも器用に引っかける。
この様なことが起きることは、畜主や管理する者が手の届かないところまで、気を回していないことになる。

話は、除角のことである。 
あるセンターの所長は、除角することで、体幅が出て、ロース芯が大きくなると断言されたが、筆者は半信半疑であった。
何故と考えた時、取って付けたような理屈しか思いつかなかったからだ。
除角することで、競合が無くなり、飼料摂取量が群単位では、平均化するため、それまで摂取量が平均以下であった牛が、摂取量を伸ばすため、それらの体幅が張るのは頷ける。
もう一つは、除角で強弱が無くなり競合も無く成ることから、牛全体が、恐怖感から解放され、そのことから、摂取量が伸びるという成果も否定は出来ない。

しかし、ある事例がある。
ある大学の牧場は、牛の除角のパイオニアであり、生後10日前後にガスを熱源にして除角している。
そして肥育して800kg程度で出荷しているが、背丈は高いが、体幅とロース芯は差ほど目立つ成績ではない。
一方、筆者らのは、全く除角無しで肥育しているが、大学のそれより、結構体幅があり、ロース芯も比較すれば大きい。
それは、歩留基準値の値から2.5%位の差がある。
筆者はあくまでも除角を、牛たちのために反対し続ける。


但馬牛のこと(4)

2008-07-21 17:32:20 | 牛肉


今、但馬牛の人気が高いようだ。
一説には、例の吉兆さんが九州産、中でも黒毛和種の本場的鹿児島産牛肉を但馬牛と偽装したから、但馬牛はより美味しいのであろうと勘違い(?)しているためだと言い、また一説には、飛騨牛の偽装で、そのおはちが神戸に向いているという説である。
兵庫ブランドには、神戸ビーフと但馬牛のブランドがあると聞く。
この二つのブランド条件は、何れも素牛が兵庫県産、つまり但馬牛でなければならないことが謳われている。その他、枝肉重量や出荷先市場の制限もあると聞く。
このブランド牛肉は、同じA-5であってBMS値が10以上であれば、他産地のものやブランドを外れた枝肉より、単価が1,000円以上高値で競り落とされているとも聞く。
正真正銘の但馬牛と言うことであろうか。
これまで、兵庫県は和牛を守るという点では、閉鎖的であり、その弊害から牛が小さいとか、これまで肉質では特出した成果がないなどと聞くこともあった。
今に至り、その閉鎖的な取り組みが、日本一のブランド化としての成果をものにしつつある。
それは、全てが、但馬牛であるという謳い文句である。
このことは、兵庫純血種であるということで他ならないからである。
他産地では、これに類する条件には行き着けないからだ。
ただ、ブランド化に成果が上がっても、但馬牛の増頭対策を打たねば、ブランド化も元も子もなくなる。