牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

産地指定交配

2009-06-30 18:43:30 | 種雄牛



鹿児島県から毎回届けられる競り市名簿に変化が起きていた。
知名度の高い種雄牛の産子数が激減しているのである。
聞くところによれば、主産地の市場管内に指定した種雄牛の精液は、それ以外の地域では入り難くなったという。
今回の精液の流出の制限は、精液の保存法や輸送法など流通手段が未整備時代であった頃は、やむなく郡単位で種雄牛を所有していた頃の方式に逆戻りした感がある。
牛肉の自由化を阻止する運動が叫ばれた頃は、国内一団となって和牛の改良を進め、外国産牛肉との差別化を鮮明にする動きがあった。
その影響からだろうか、それまで精液の県外流出は不可であったが、次第に全国各地で同じ精液の供用が行われるようになった。
その効果により、肉量肉質の改良が進み産地間差のない子牛生産が実現した。
今ここに来て、精液の流出制限が始まった意図がどこにあるかは定かではないが、子牛のブランド化を目指そうとしているのは確かであろう。
或いは産地間競争を煽り、県内レベルを高め、再び和牛の品質日本一を奪還する意図なのかもしれない。
これら大義名分は結構なことであるが、それらの結果如何では、県内の地方市場の切り捨てに繋がりかねない。
現に、離島などでは、当初に述べたように、主要種雄牛の産子が激減している。
つまり、目玉商品が減少していることになる。
さらに、市場を薩摩半島と大隅半島のそれぞれの1箇所ずつに整理統合するという構想のようであるが、その布石なのかと要らぬ憶測もしたくなる。
まさかとは思うが、種雄牛繋養者の意向ということも否定は出来ないが、それではこれまで供用してくれた生産者への背任行為と言うことに繋がりかねない。
これでは、県内産業の将来性が万全だとは言い難い。
地方や離島などは、新たな目玉となる種雄牛の掘り起こしなどの手だてが不可欠となってくる。



種雄牛の能力とは

2008-10-24 20:02:35 | 種雄牛
黒毛和種の種雄牛は、供用開始前に試験種付けを行い、それらの産子について、一定の基準に沿って公的施設等で肥育を行い、それらの肥育成績を基にした産肉能力検定間接法に基づく増体能力や格付け結果などを公表している。
この他に、一定の基準を定め、それに沿って、民間肥育センターなどで肥育を行い、その結果をデータ化する所謂現場検定という方式もとられている。
鹿児島県の場合、県有7頭の平均サシ(BMS)は3.73で、かなり高い数値となっている。
また県内で供用されている家畜改良事業団所有の11頭の平均サシは3.07であり、この他に民有の種雄牛も多数頭供用されているが、これらの平均値は、事業団と似通っている。
この数字を比較すると、明らかに県有の方が優秀な種雄牛群であることは、疑う余地はない。
これらの数値を考慮すれば、同県下で生産される子牛の父牛は、県有の種雄牛が圧倒的に多いと予測が付く。
ところが、現実は、民有の種雄牛の方が圧倒的に多いケースがある。
以前同県では、差ほど供用されていなかった事業団の精液も、年々その数を増加させている。
故平茂勝号が繋養されていたさつま中央家畜市場管内では、競りに掛けられる子牛の70~80%は、同牛など民有の種雄牛で占められている。
以前より素牛を導入している離島の11月の上場予定の子牛の約40%が県有である。
このような状況をつぶさに判断すれば、関接検定の成績イコール供用頭数ではないことが伺える。
本来は、検定成績イコール供用頭数が理想である。
例えば、サシが4.1でその当時日本一の能力として折り紙を付けられた種雄牛は、数年経った今、その産子は見られなくなった。
検定自体が、限定された頭数によるデータだけに、時にはその様な結果になることも否定できない。
一方、当初から高く評価され、人気の高い安福久号はサシが2.6である。
全国的には、サシが4.3が最高であると聞くが、産子能力の高い安福久号とのその差を、どのように解釈すべきであろうか。

平茂勝号に感謝

2008-10-15 23:54:17 | 種雄牛
黒毛和種種雄牛の銘牛であった平茂勝が、天命を全うして滔々、本日死去したことを後輩からのコメントで知らされた。
銘牛平茂勝は、肉量肉質兼備の種雄牛として最初に全国和牛登録協会が折り紙を付けたが、それ以来まさに全国版として和牛の改良に多大なる貢献をしたといえる。
今や、同牛と同牛の産子は、北は北海道から南の沖縄まで、それは多くの種雄牛たちが幅広く供用され、それらの後代牛である繁殖雌牛についても同様に活用されている。
正しく日本一の種雄牛と言っても過言ではない。
同牛は平成2年7月5日生まれで、18年4ヶ月で没するまで、245,000頭(H17.3現在)の産子数を記録し、それらの産子は、優れた増体と肉質能力を遺憾なく発揮し、係る産業の発展に多大なる貢献と実績を残した。
これらの貢献を顕彰して、平成17年11月11日同牛の生産地でもあり、繋養地でもある鹿児島県さつま中央家畜市場内に同牛の銅像が建立された。

同牛の生前の貢献に、関係産業にかかわる者として、衷心より感謝と冥福を祈念する次第である。




牛の種付け時に迷わない

2008-04-21 20:01:16 | 種雄牛
繁殖農家は、自分が繋養している雌牛に、どの種雄牛の精液を交配するかで決断を迷っているようである。
過去にも○○方式というような交配パターンが示され、農家はその指導を受けて交配してきた。
最近の和牛の雌牛群は、兵庫県の全てと宮崎県の半数以上を除き、肉量肉質が兼ね備なわった平茂勝号の系統で占められていると言っても過言ではない。
これらの系統の母牛には、但馬系統の種雄牛を種付けするのが順当な交配であろう。逆に但馬系統の母牛には、平茂勝の系統の種雄牛を種付けする。この単純な交配計画だけで、上物(A-4以上の格付け)以上の能力を持つ子牛が生産されている。
肥育している立場でも、この交配を繰り返して生まれた仔牛は、大体上物生産が目算できる。10数年以前には考えられなかった交配である。
最近注目されている種雄牛安福久号は、但馬系統であるが、平茂系統の母牛をターゲットに育成され、その交配により、肉質では高能力の成果をあげている。
話は変わるが、安福誉号という種雄牛がいる。平茂系統の母牛に交配した仔牛は、高い確率で、A-5にランクされる。ところが、子牛市場にその産子の出場頭数がかなり少ない。この産子が出れば確実に競り落とすことにしている。この産子は子牛育成時に若干小ぶりであるため、セリ価格も若干安い。そのため、生産農家が種付けしたがらないと聞く。子牛市では、体重220kg程度であるが、肥育の仕上がり時には800kgを優に越す。母牛の平茂系統がその能力を引き出させているのである。
ことによると安福久号に匹敵すると睨んでいる。農家は目先の利益だけに執着せず、優れた後継牛を生産する算段こそが、自らの将来に希望が持てることを考えていただきたいものである。

写真の2頭は、平茂系統の産子を肥育中の去勢牛である。