牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

発育不良でも5等級になる飼い方

2012-04-26 17:37:26 | 素牛

東北の子牛市場では、生後日令が300日を越し、体重か300~350kgの子牛がかなり上場されているが、九州地方では250日令で240~270kgに揃えて出荷しいるケースもある。
日令が若く、発育の良い子牛の方が、飼い慣らし後の食い込みや発育が順調に経過することから、購買者の意向も月齢の若い方が人気のようである。
当方では、後者に絞って導入して成果を出している。
一昨年の口蹄疫の影響を受けた所謂待機牛が仕上げられて出荷されつつあるが、その成績は今一と聞いている。
7月市で導入した素牛らは、飼い慣らしがうまくいかず、その後の食い込みにもやや問題があり、順調とは言い難い状況である。
これらの出荷は、来月後半に持ち越すことになる。

話は導入子牛のことであるが、ある市場に始めて出荷した公的牧場の子牛数頭が揃って発育難で、毛色は茶髪並みで見劣りしたため、僅か10万円前後で競り落とされた。
ところがそれらの子牛が肥育される過程で、意外にも順調な発育で仕上がり、最近食肉市場に出荷された雌牛はA-5に格付けされて、大儲けしたという。
日令300日以上で体重200kgそこそこのシケ牛であったが、この子牛らは、配合飼料は単純な自家配合を2kg程度と良質のヘイレージを若齢時から飽食しており、そのために発育に問題はあったものの、牛本来の粗飼料での育成が功を奏して、肥育に入ると食い込みが良く、見かけに反して良好な結果を出した。
この生産牧場では、子牛市場への出荷を繰り返すことで、子牛を通常の商品化するために、ミネラル等が混合された市販の子牛配合を与えることで、最近は茶髪から黒毛和種に変身し、多少はDGを高めて出荷するようになり、競り価格も40万円と正常評価されつつある。
購買者が食い込みの良さに気付いたことと、子牛の生育状態の好転を評価した結果を得ている購買者は、セリ負けしない意気込みでボタンを押すに違いない。

300kgを越す発育の良い子牛作りも良いが、多少発育に難はあっても、評判を取るような子牛作りの方が、和牛子牛本来の育成法なのかもしれない。
当方も、数頭これらを競り落としているが、経過は順調である。

しかしながら、シケ牛が功を奏したのであって、高栄養の配合飼料を与え始めた子牛の肥育結果が気がかりである。




複雑な血統が功を奏している?

2012-04-20 19:21:16 | 素牛

肥育現場でなかなか思い通りに行かないのが、素牛選定である。
最近、僅かではあるが肥育成績が好転しつつある。
肥育牛の飼養管理は従前通りであるが、好転の兆しが出始めた決定的な理由が定かでない。
一般的には、素牛の能力、餌の給与パターンに何らかの変化などが考えられる。
このうち、素牛選定については、産地や産地で利用されている主要種雄牛の影響、子牛の育成技術などの関わりが考えられる。
これらの他に競り価格も重要なポイントになる。
この半年間に出荷した肥育牛について、素牛の競り価格が大まかに50万円以上、40万円台、30万円台、それ以下について、差益について集計した結果、30万円台が最も高い差益を得ていることが判明した。
これらの各ランクでの上物率も30・40万円台が高い値であった。
ただ、BMS値の平均は競り価格が高いほど高い値となり、販売価格も高いが、差益となれば逆転している。
この最大の理由は、素牛価格の差に対して販売価格に同様の差がないことである。
飛び級クラスがあって平均的には数値を引き上げているが、どのランクからも等級の分布が均等で似かよって大差ない。
これは、和牛の血統が全国的に斉一化されてきたことも、その一因と判断している。
このところ、50万円台が3等級になる一方で、30万円台の素牛が連続してBMS10を記録した。
購買担当者は複雑な面持ちのようであるが、高額牛が赤字と言うことではないことから、高額牛の見方を変える必要はない。
当方に限っては、結果的に、子牛市場における平均価格を「中」とするならば、「中」および「中の下」程度の素牛がねらい目と結果が出た次第である。


拘りの畜主

2012-04-19 20:21:09 | 繁殖関係

前回の研修見学会の2軒目の産直牧場である。
口蹄疫感染を懸念して、シューズカバーが準備され、開口一番「最近外国へ行った人の見学は出来ません」であった。
飼育頭数は1,100頭のうち、160頭は繁殖雌牛で一環経営牧場であった。
興味を惹かれたのは、この繁殖部門である。
先ず、美味しい牛肉を生産するための素牛確保のために繁殖を始めたという。
その後、繁殖用雌子牛を導入する際、但馬牛では小格のために飼いにくい。
肉質系で少しでも飼いやすい素牛作りのため、但馬系の血の濃い他所の雌子牛を導入し、それに兵庫産の精液を交配して、オリジナル但馬牛を生産していた。
それらから生まれ肥育され、BMS11~12の成績がでた母牛は、著明な種雄牛間で受精卵を増産して他牛に移植して素牛を生産しているという。
繁殖牛群の個々は、顔品や角質が良好で品位があり、見るからに但馬牛群であった。
分娩房では、分娩用のセンサーや360度を写せる監視カメラとその映像がパソコンで確認でき、畜舎を離れているときは、携帯電話にもLIVEで受信できる仕組みが取られていた。
分娩直後の子牛はカウハッチで1週間程度飼い、その後は哺乳ロボットに替えて集団管理に移行していた。
一方、繁殖雌牛の管理については、妊娠が確認されるまでは、写真下のような広い運動場を利用して、運動や日光浴をさせ、妊娠が確認されれば、写真上にあるように乳牛の連動スタンチョン様の牛床に妊娠牛を並べて繋養し管理されていた。

畜舎から道路を隔てたところに、産直及び飲食用の建家があった。
この建家の中で、畜主の複合経営の内容について、自信と意欲満々の講釈が続いた。
産直するには、商品に特色が必要であり、それは「美味しい牛肉」で勝負していると言い、美味しい不飽和脂肪酸含量の高い牛肉を生産していると熱弁であった。
75才くらいに見える畜主はパソコンを持ち歩き、新情報を入手し、プラスになることは即試すという意欲の持ち主でもあるようであった。
新技術もさることながら、哺乳ロボットの導入に関連助成を受けるなど、経営手腕は一筋縄ではなく、参考になる事例が多々あった。
畜主曰く「とにかく牛と会話していれば、何らかのアイデアは浮かんでくる」同じような助言を故上坂章次京大教授から聞いたことを思い出した。
牛に関わり経営にかけている拘りの言葉なのであろう。
店舗の周りには、テレビ取材の予告チラシが貼られていた。







売れ無さそうで売れてる店舗

2012-04-19 00:35:44 | 牛肉

食肉流通関係者らで結成された若いリーダーの研修見学会に参加させて貰った。
直販と飲食店を営む和牛専用の直販店の2牧場を見学したが、その最初の直販店での印象である。
この店舗は県内で最も牛肉が売れる店と聞いた。
周囲に商業施設などはなく、高速道や地方道が交差する車道に面した一角に店舗はあった。
こんなところで売れているのかな!が第一印象であった。

店舗から2~3分の所に50台程度の駐車場があり、平日の昼時であったが、駐車場には買い物目当ての10数台の車が留まっていた。
明るい店舗に入ると奥の窓越しに食肉処理場が透けて見え、左方にはメスの枝肉が数本ぶら下がっていて、昔ながらのお肉屋のイメージである。
昔と異なるのは施設が近代的なこととショーウインドウの向こう側に5~6名の若い女性店員が忙しそうに動き回っていることであった。
店内にはいると写真の中央にある執筆台が目に入った。
台の上に置かれたかごの中に注文書が積まれ、お客は注文書に記入した用紙をカウンターの上のかごの中に入れて待つ。
暫しの待ち時間には、店内の右方に飾られたラップ詰めの焼肉やホルモン、同店オリジナル商品を物色できるようになっている。
ショーケースの精肉も全てパック詰めではないために、新鮮さが目に映る。
お客らは、呼ばれて精算して笑顔でグッバイサンキューである。
数人のお客らに聞いたら、異口同音「安くて美味しい」であり、この店舗へ1時間くらいかけて買い物に来ているケースも多々あるという。
「安くて美味しい」は産直の強みである。
周りを見渡せば、著明なキャスターが来店とか、テレビに取り上げられたと言うチラシが貼られている。マスコミを旨く利用しているのも客寄せに功を奏し遠方からの来店に繋がっていようと思われる。
その言葉をお客に信じさせた店舗側の狙いもさすがである。
明るい店舗の雰囲気、商品の斬新さ、清潔感、新鮮と安価(産直)、知名度とマスコミ人気、広い駐車場、便利な交通網など、なるほど売れてる要素があった。

年よりは危惧する

2012-04-12 01:12:52 | 雑感

TPPについて、日本農業を含め、我が国の畜産関係者の本音はどこにあるだろうか。
関税撤廃には魅力があるという関係者も現存していようが、この撤廃と同時に、係る関係国は自らの国益のために様々な輸入規制の緩和や輸出国の法改正にまで、協議の対象としているという。
身近な問題では、関税撤廃で輸入飼料が安価となれば低コスト化が実現するとか、海外へ高級牛肉の販路を拡大するなどと期待しているケースもあろう。
しかしながら、TPP問題はそのような目先の単純な事象だけを可とし賛成して良いものだろうか。
例えば、現状では和牛の精液や受精卵、生体子牛などは国内産業を守る生産者団体の申し合わせにより、和牛の遺伝子の国外流出を阻止する形が取られている。
しかしながら、TPPが現状のままで国際間合意となれば、アメリカなどは待ってましたとばかりに精液や子牛の買い付けに乗り込んでくることになる。
輸入飼料が安価になるどころではない。
大規模化農業国では、さらに安価な生産費で肥育され、現状の輸入牛肉の価格同然で外国産黒毛和牛の高級肉が店舗で幅をきかす事態は、想像ではなく現実の事態が明白に予測出来る。
その挙げ句、日本では和牛の生産経営が成り立たなくなることが予測される。
それに変わって数年後には、「安福久号」に負けない「King Fukuhisa yankee」が発進されくるかも知れない。
これらのことは、和牛界に限られたことではなく、酪農や養豚や養鶏に留まらず、日本農業全般にも同様に及ぶことになる。
農業者だけでなく、広くTPPの本質を理解した上で、日本の未来への舵取りを見定めていかねば、まさに国家存亡の危機を迎えることになる。
現在の政治や大手産業界は「がんばろう!日本」を唱えながら、日本古来の独自の産業や係る貴重な文化をも切り崩し、子供たちの夢や将来性をことごとく消滅させつつある。
日本政府は国策を謝り、為す術を無くした借金財政とその不況に戦き、すべからず金策の効率化優先で、食糧増産を蔑ろにするという施策一辺倒を踏襲し、聞く耳を持たない一本立て政策を突き進める積もりのようで、決定的な国策の誤りを加速しようとしている。
世界中は農耕地の減少傾向と人口増加により、日に日に食糧危機が迫っているという現実を控え、いつまでも食料輸入が継続されるはずがない。
戦後の日本人は、係る危機を予測できても、その本質を恐がり逸れてばかりである。
その結果が1,000兆円のツケとなった。
食糧問題では同様の人任せ的な温床が、後戻りの聞かない決定的な誤りを選択しつつある。