牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

満足なのか一列横隊

2010-10-25 18:52:18 | 畜舎


猛暑から解放され、秋の日差しを受け始めると、屋外に運動場付きの育成牛群らは、写真のように一列横隊によく並んでいるのを見かける。
よく観察していると並ぶのにも序列があるらしく、どうやら一番手前がボスのようである。
何故一列横隊なのかは定かではないが、秋の牛バエは鋭く刺すために、それを避けるために寄り添っているような気がする。
或いは、野生を先祖にもつ牛らであるが、一列横隊になることが、外敵から群を守るための彼らの習性なのかもしれない。
採食後、後方にある水槽で飲水し終えると、次々と一列横隊の頭数が増した。
暫し、満腹状態になったお腹の状態を整えているのかもしれない。
これが終われば屋内に戻り一斉に反芻が始まる。
ただ単に、突っ立った牛らに意味もなく、ついつられるがままに立ち並んでいるのかもしれない。
いずれにしてものんびりして満足そうである。
どの予想が正解かは定かではないが、屋内の狭い飼育房で飼われている牛たちには見られない光景である。


肥育と稲ワラ

2010-10-21 21:54:14 | 肥育

肉質が低迷している原因の一つに、肥育飼料の給与法があげられる。

期待したように体幅が出ない。
仕上げ期になってからの食い込みが今一である。
軟便や下痢がちである。
アシドーシスや蹄葉炎に罹りやすい。
肝膿瘍になり易く、肝廃棄が目立つ。
ルーメン絨毛の付着が診られる。
肉色が濃く、サシも今一で枝肉評価が低い。
皮下脂肪が薄すぎる。

以上のような症状が度々起きる場合、ルーメン内環境が正常でないことが考えられる。
その原因として考えられるのは、肥育用配合飼料と粗飼料、とくに稲ワラの給与バランスが崩れていて、配合飼料の給与割合が多過ぎると上記のような症状を起こし易い。
本来、牛は稲ワラや乾草などの粗飼料を消化するために反芻をする。
つまり草食動物であることから、肥育であっても粗飼料の摂取割合がやや高い方が、ルーメン内の環境は正常に保持される。
育成期間の頃から、稲ワラは常に飽食状態とし、配合飼料を漸次増量する給与法を取ることにより、ルーメン内環境が正常に保たれることから、飼料の摂取量は順調に経過し、健康状態を保持できることから、増体や体幅が期待できることになる。
以前、屋外肥育と称した実験の中で、育成期では、乾草(ル-サン)を稲ワラを2~3cmに細切したと同様な状態で、配合飼料(75%)と乾草(25%)に混合して与え、肥育中期からは稲ワラ(25%)に置き換えた混合を、いずれも飽食させたことがある。
この場合、25%の粗飼料は、草草、ワラワラだけを思わせるような状態で、配合が隠れて見えるほどであった。
この場合、育成期も肥育期も実に好んで採食し、増体速度は良好で、体幅に富んだ結果となった。
この給与法を行うことで、正常なルーメン環境が保持され、このような結果となったと判断したものである。
話を戻すと、それにより、下痢なども改善され、枝肉の評価も上がることとなる。

以前国産稲ワラは肉質に問題ありと記述したことがあるが、その原因は、ワラが良質のあまり、V/A含量が高いためか?としたが、国産ワラは細切しないケースでは、その比重が軽すぎるために、実質の摂取量が不足しがちとなることから、上記した内容と同様で、肉質に問題が生じたことも考えられる。
国産稲ワラを利用する場合は、カサの割には軽量であることを認識して、細切などを行う必要がある。

また、増体を期待して摂取量を高めることを述べたが、但馬系の素牛の場合は、育成期からこのように強引すぎた給与法では、体脂肪の蓄積などにより肥育後半に問題を引き起こす可能性がある。











肉質が低迷している

2010-10-20 18:30:56 | 枝肉


最近出荷牛の肉質が相対的に今一である。
食肉市場に出かけて他産地からの出荷牛を偵察に向かうが、いずこも同じような成績である。
肥育法も生産地もあちこちと変えているわけではないが、何故か結果が出ない。
血統的には、著明な種雄牛の産子であるにも関わらずである。
同様の交配に絞り込んでも、結果は様々である。
交配関係が単純であれば相性が良ければいいものになり易いが、このところ他産地間での複雑な交配が行われており、相性関係自体が複雑で、なかなか結果を出すケースが希となってしまったのではあるまいか。
それぞれの遺伝子は単純なものではなく、その発現は神のみぞ知ると言われているほど、人が期待するほどに発現しない。
昔から産地内で閉鎖的に交配を重ねて来た頃は、遺伝子の分散が少なく、期待する形質を選抜しながら改良を加えてきたが、その方が速度は遅くても、改良の中身は確率の高いものが揃っていた。
そのいい例が、但馬牛である。
宮崎県でもそのような改良で全国的に評価を得ていたが、忠富士のように増体型を有するようになれば、宮崎産の特徴は全国同様となってしまった。
牛の改良は何時の時代でも、目標を持ち、それに向かって地道に進めるに限る。
兵庫県の頑固さが不可欠で、それが故に日本一のブランド化を実現するに至るのではなかろうか。

和牛子牛市況

2010-10-20 00:05:18 | 家畜市場


写真は、一月前の全国市況が日本農業新聞で紹介されていたものを複写して貼り付けたものである。
この1週間の市況によれば、宮崎県小林市場では前回比約数千円の下げで38万円程度となっている。
鹿児島県肝属市場では依然低迷し、36万円程度となっている。
淡路市場では2万円程度の上げて45万円であった。
これまでは口蹄疫による待機子牛の影響が、様々な形として市況に反映されていたようであるが、来月からは、全国的に口蹄疫の直接的な影響からは解放され、条件的には今年3月頃に戻るものと予想されている。
いずれにしても、著明な牛肉ブランドを死守するために、係る肥育産地は特定のブランドを有する兵庫県や岐阜県産子牛に人気が集中し、市況は安定して強含みの状態である。
そのほか、東北宮城県では茂洋号の産子の評価が高く相場をつり上げているようである。



稲ワラクラッシャー

2010-10-15 22:50:52 | 飼料





中国産稲わらは長さ7~8cmにカッティングしたものを78×34×27cmの長方形に梱包してネットが掛けられている。
この梱包1個当たりの重量は凡そ20~22kg程度であるが、納入時にはこの梱包16個が一括りとなってくる。
産地での加温処理の際に、この梱包での稲わらが、解しやすい場合と非常に堅く解し難い場合があり、給与担当者はこれらを崩すのに一苦労している。
ローダーのバケットで叩いて崩したり、掛合で殴って梱包を解しやすくしたり、三つ又で叩いて崩す者それぞれであり、時間と労力を浪費しているのが現状である。
そこで今回、稲わらクラッシャーなる機械を導入した。
機械は幅125cm、奥行き160cm、高さ70cmの極単純なネット付きボックスからなり、奥行きの130cmのスペースに中国わらの梱包を4個か6個を2重に並べておき、出口までの30cmのスペースの底面部にわらを崩すための刃が付いた回転用の太めの1本のローターが幅一杯に取り付けられただけのシンプルな構造で、回転させたローターでわらを崩して、シュート状になった出口から出すものである。
動力源はリフトを利用し、リフトに機械本体を載せて油圧と電機を利用し、機械本体の上げ下げと、奥行き130cm部分のわらを載せる部分が出口に向かって低く傾斜させ、わらがローターにうまく噛み込むように油圧操作ができるようになっている。

当機では数分で4個の梱包が解すことが可能で、手で解したものより、かなりソフトな感じで、肥育牛の食い込みも改善されている。
シュートの高さを調節することにより、飼槽にダイレクト給与でき、1時間で500頭程度の給餌が可能となる。
これにより、稲わらの効果であるルーメン環境の改善と増体および肉質の改善が期待できると見込んでいる。

当機の製造会社は数社あるようであるが、通常2機種あり、給与スペースにゆとりがあれば大きいタイプ、当方は通路が狭いために、小型を導入した。
価格は約120万円なり。

マイコプラズマ

2010-10-13 19:05:04 | 牛の病気
東北から6月(雌)と7月(去)に導入した素牛にマイコプラズマらしき疾患が1月前から発病して、連日抗生剤等の治療にも一向に回復の兆しがない。
疑わしい牛が他にも2頭居て、同時に家畜保健所に採血献体を渡して病症の原因を依頼中であり、症状の明らかな牛についてはマイコプラズマであろうとの予測を告げられたが、詳細に調べるための献体培養には1月以上を要するとのことで、未だに結果がでていない。
それにより、的確な治療法を心待ちの状態であるが、それまで体調維持が可能なのかも案じられる状態である。
この病気は、RSウイルスのようなウイルスによるものではなく、間接、中耳炎、乳房炎など様々な症状が牛によってみられるようである。
風土的な疾患ではなく全国的に診られるようである。
同症の発症が診られるのは和牛繁殖施設での子牛に罹る例がままあるようである。
発症すればなかなか厄介な病気で安易に直る疾患ではなさそうである。
担当の獣医師も、このところ手をこまねいているのが実情である。
写真の牛は、中耳を患っており、汚物様なものが中耳から垂らしており、他の牛は足の膝を痛がり常に座ったままである。
万が一の際には、家畜保健所に病観依頼で病気の詳細を調査したいと獣医師に相談中である。

子牛には辛い去勢顛末

2010-10-06 17:56:59 | 牛の病気
導入して間もない生後6ヶ月令の去勢牛の睾丸が異常に腫れているたため、無去勢の子牛と勘違いして、導入先の担当者に連絡を取ったところ、去勢は確実に行ったとの返事であったため、それならと腫れた睾丸を調べた結果が、写真の通りであった。
この施設では今でも挫滅去勢ではなく、観血去勢を実施していて、化膿箇所を詳細に調べたところ、メスを入れる場所が睾丸の下端から若干上部であった。
そのために術後の漿液が睾丸の底部に残ってしまったらしい。
切開箇所が塞がらず漿液が暫く残っていれば、当然腐敗し化膿に至る。
観血去勢後、抗生剤を使用するケースもあると聞くが、去勢を手順通り行えば、ヨウチンなどの消毒薬を塗布するだけで問題はないはずである。
観血去勢時の切開箇所は睾丸の先端であるべしが鉄則である。

この子牛の化膿処置は、胸と下ケン部の辺りに縦に1本のロープをそれぞれ巻いて、そのロープの両端を前後に引くことで、子牛は楽に横たわり、前後肢をロープで固定したところで、獣医師の出番であった。
鎮静剤を打って、暫くして睾丸を握りしめ、加圧すると写真のように白濁した膿が飛び出してきた。
ほぼ出し切ったところで、内部を生理食塩水で洗い流し、抗生剤を内部に満遍なく注入して終わった。
鎮静剤の効果を解除するための注射をすると、何事もなかったかのように群中に戻ったが、化膿が酷かったため、暫くは要治療とのことであった。

子牛には2度も大変辛い思いをさせてしまった。

肥育牛の下痢

2010-10-05 19:08:23 | 牛の病気

牛舎周りをしていると臀部が排便で汚れている牛をよく見かける。
この汚れ具合を観察していると下痢をしているか軟便をしているかが推測できる。
意外に水溶性で後方へ下している場合は、汚れ具合がそれほどでもない。
これが回復するにつれて臀部に便が付着する。
去勢牛と雌牛ではその汚れ具合が多少異なる。
同様の下痢や軟便であれば、雌の方がかなり広い面積で汚れが広がる。
雌は去勢牛より尾を左右に振る回数が多く、肛門の直下に性器が位置しているために、その部分に付着した排便が尾によって臀部はおろか左右の上腿に至るまで幅広く汚れていることがある。
病気を推測する場合、付着した排便が濡れているか、どの程度乾いているかで体調の経過が推測できる。
また、子牛と成畜では下痢などの種類が異なる。
下痢を起こす場合は、往々にして、粗飼料と濃厚飼料の給与バランスが崩れていることが原因になりやすい。
子牛の場合は、乾草などを多給することで便が軟らかくなりやすいが、成畜の肥育牛の場合は、稲ワラの給与割合が少なく、濃厚飼料主体となることで、ルーメン内の絨毛が団子状となり、やがて絨毛が剥がれるなどの状態になれば、結果的に軟便に至ることになる。
この状態は、まさしくルーメンアシドーシスであり、肝膿瘍を引き起こすことになる。
これらのことが、健康を損なうことで、枝肉に様々な支障となる症状を呈することにもなる。
肥育牛の下痢はそのような症状のシグナルでもある。