牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

但馬牛のこと(3)

2008-07-20 16:06:29 | 肥育


今から35年くらい前のことである。
京都府のとある市内に、毎年近畿東海連合肉牛共進会で優秀な成績を残しいる但馬牛の肥育家で故人s氏がいた。
氏は長年、市内の同志とともに肥育グループを結成して、地域の畜産技術の普及活動にも貢献された。
氏は大層研究熱心で、篤農家的存在であったが、その当時、氏の肥育法には理解できないことがままあった。
氏は、生後5ヵ月令の雄仔牛を兵庫県の美方市場から年に10頭程度導入し、生後12ヵ月令になれば、2.7m四方の牛房で1頭飼いで肥育した。
氏の肥育は、①去勢は生後15ヵ月令になった頃実施する。
②期間中、水田の畦草を数kg給与する。
③配合飼料は期間を通して5~6kgしか与えない。
④給水量は、制限する。
この肥育法で、約120kg程度の子牛をりっぱな肥育牛として仕上げていた。
これらの肥育法は氏が発行した実用書に掲載されている。

但馬牛以外の牛に同様の肥育を行っても、増体せず、体脂肪の蓄積が低いため、その能力を発揮することは、難しい。
筆者らは、但馬牛を飼う機会がなかったことから、氏の肥育法に納得し得ない理由があった。

表題(2)で記述したように、氏の肥育法は、但馬牛の特異性を生かした肥育法であったのである。





但馬牛のこと(2)

2008-07-18 19:41:21 | 肥育


繁殖用素牛や肥育素牛に但馬牛を導入しても、これまで満足な成果が得られなかった。
鳥取系や島根系に比べて、採食量が少なく、成畜になるまでにかなりの時間差を感じたり、群飼いすれば、食い負けし、栄養状態に問題が生じたものだ。
何とか、お産しても、20kgに満たない子牛のため、その育成に苦心した経験がある。
肥育に至っても同様で、欠損が伴う結果になったことがままあった。
そもそも、但馬牛をその他の牛同様の和牛と思いこんで飼育すること事態間違っていたのかもしれない。
但馬地方では、昔から母家の中で、1~2頭程度育てていて、親にも子牛にも青草や農作物などを煮て与えるなどの至れり尽くせりの管理が成されていたため、但馬牛も順調に育ったそうである。
だから、母乳もある程度確保できたのであろう。
最近では、但馬牛間の交配も複雑化する中で多頭化が進み、乾草と稲わらに配合飼料での管理に変わりつつある。
この様な条件下では、乳房が小さく、前述したように母乳の出の少ない母牛がいるのも事実のようである。
子牛の早期離乳も、それらの対策の一因のようであるが、むしろ問題なのは、繁殖用に育成することと、肥育する技術である。
昔から、牛は草で育てよと言う格言があるほどである。
但馬牛は、他産地の牛よりも、この格言どおりに飼うことが、基本のようである。
つまり、草を飽食させ、腹作りを確実に行い、他より多少タンパク質の高い餌を少しずつ与えるのが、但馬牛の最大の育て方のようである。
本来、但馬牛は、発育は晩塾でも、脂肪蓄積においては早熟性である。
繁殖育成にしろ、肥育にしろ、常に粗飼料を主体と心得て、配合飼料は多量に与えない飼い方を行うべきなのである。
例えば、肥育では、日量の給与量を多量に与えれば、その分増体するのが、常識的な考え方である。
これは、但馬牛には該当せず、その他の系統の牛に該当する基本的な考え方である。
具体的には、但馬牛には最高でも日量6~7kgに抑えた飼い方が、最も適していると言われている。
九州産の素牛を飼い慣れている場合は、胃が痛くなるほど我慢して、抑えて飼うのがベターで、この様な飼い方を行うことにより、但馬牛本来の肉質能力の高い美味しい牛肉生産が実現することになる。
但馬牛は、多量の飼料を必要とせずに、増体と脂肪蓄積をものにする能力がある。
肥育が効率的に行える系統なのかも知れない。



但馬牛のこと

2008-07-17 19:35:35 | 牛の成長

写真の親子は、正真正銘の但馬牛であるが、生後3日目の初産牛である。
子牛の生時体重は、23kgだったそうである。
昨日は、兵庫県のとある牧場へ見学に伺い、但馬牛についてのノウハウを教わった。
その中で、早期離乳はナンセンスと述べたばかりだが、成る程という現実を知らされて、例外のあることを認めざる得ない事態となった。
早期離乳でなければならない理由の一つに、但馬牛は母乳の少ない母牛が多いと言うことである。
これまで、但馬牛は子牛の体重が小さいから、乳量が若干少なくてもそれなりに子牛は育つはずであると確信していた。
ところが、初産の場合などは、日にちが経つに従って、体重が減るケースが結構あるというのである。
それで、早期離乳して人工乳を適量飲ませることによって、母乳より順調に育つという。
写真の子牛も、母乳を飲み終わると同時に、我々の見る前で離乳となった。
その二つ目は、管理上の理由であった。
畜舎を効率よく利用して多頭化しようとすることで、親子連れを多数頭管理するには、親子のための房がその頭数分必要となり、そうなると管理上煩雑で、必要以上の手間がいる。
母牛を数十頭の群飼いにすれば、子牛を同時に入室させる訳にはいかない。
そうなると事故が考えられるからだ。
授乳時だけ一緒にしたら、子牛の盗みのみが多発しかねない。
その場合も事故に繋がる。
見学した牧場では、繁殖親雌牛群は約40頭が1室に群飼いされ、子牛たちは段階的にそれぞれ群飼いされて、りっぱに育っていた。
早期離乳することで、少ない房でこれらの問題から解放されていた。
繁殖牛を多頭化し、早期離乳する場合、最低でも全母牛頭数の20%の数くらいの分娩房がいる。
分娩房は、安産が絶対条件であるからには、分娩予定日の約1月前から入房させ、房での環境に慣らす必要がある。
これらのことを考慮にいれ、早期離乳のケースがあることを柔軟に理解した次第である。
但し、母乳の多い牛を多頭数飼われていないケースでは、論外である。





台所事情に危機感か

2008-07-15 22:22:08 | 牛肉


真夏である。土用の丑の到来である。
京都では、コンチキチン祇園祭の宵々山である。
夏を乗り切るのにウナギを食べる習慣がある。
今年は、ウナギの産地偽装疑惑が取りざたされている。
それなら、ウナギに替えて牛肉を食べて貰えるかもと期待していた矢先、今度は飛騨牛疑惑である。
魚や食肉に対する信頼を根底から無にする出来事の連続である。

一方、原油高騰の影響がらみで、あらゆる食品や生活用品が値上がりした影響を受け、台所事情はかなり緊縮状態のようである。
その最中、偽装疑惑が拍車をかけ一般の購買意欲を低下させているようである。
食肉を扱う関西大手の店舗が、土用の丑を意識してリニューアルオープンした。
高級サーロインステーキを格安特売した。
しかし、完売したのは、切り落としなどの安価な牛肉や、鶏肉でも単価100円以下の安物の売れ筋が良かったという。

この様な厳しい時代になれば、先ずエンゲル係数を引き下げる傾向となるらしい。
この様な話を耳にするに連れ、生産者サイドのインスピレーションは、やばい!である。
店舗が好景気を推移すれば、牛肉産業は安泰のはずである。

このような時こそ、日本社会の浮沈に深く関わっているであろう公務員諸氏や企業戦士諸氏には、大いに牛肉を鱈腹頂いてほしい。
そして、日本経済の好転のために大いに汗を流して貰いたいものである。


家畜共済制度と肥育成績

2008-07-14 20:09:12 | 牛の病気


7月は、家畜共済加入の更新があった。
約1,000頭で、約455万円であった。
1頭当たりでは、4,550円となる。
5~6年前は、1万円近い掛け金であった。
年々、死廃や疾病率が減少したため、今では、掛け金が半額程度まで、減額された。
今年は、3年に1度の掛け金率の見直しが有り、さらに大きな減額を期待していた。
ところが、1頭当たり200円程度の減額であった。
減額があったと言うことは、3年以前より疾病率等がさらに減ったと言うことである。
家畜共済に加入していれば、その掛け金内で、獣医師の初診料等が無料といけばいいが、そうは問屋が卸さない。
初診料や時間外診療は、その都度月締めで料金請求が行われる。
その他、ワクチン摂種などは手数料込みで実費請求される。
これらを支払って年間約100万足らずである。
共済掛け金と診療費は、年間1頭当たり約5,500円程度となる。
これが、高いか安いかは、疾病率等の高い低いで判断することになる。

家畜共済制度の仕組みは、道府県毎の家畜飼養頭数とその加入割合によるが、係る産業が零細な府県では、その内情に厳しい現実があると聞く。
よって、家畜共済への加入率が家畜診療所の運営に直接的に影響しているようだ。

一方、加入者は、疾病率の減少に鋭意努めなければならない。
疾病率が、減少すると言うことは、当該掛け金の減少だけでなく、総体的な肥育成績に大きく影響を与える。
年間500頭出荷する中で、事故率0%であれば、確実に黒字経営である。
聞くところでは、同頭規模で、年間30頭事故った実例があった。
年間2千万円からのマイナスである。

本来なら、1頭当たり5万円の黒字を想定すると、2.5千万円の黒字が、500万円プラス死廃金200万円に留まることになる。
せめて事故を5頭程度に留めておけば、2.15千万円の黒字に留まる。
如何に疾病や事故率を減らすかが、経営を大きく左右する。
それには、数千頭いても、彼らと毎日のコミュニケーションあるのみである。

疾病等は、共済に加入すれば改善できると思いこんでいるケースがあるようだが、それは全くの勘違いである。
疾病は自ら減らすもので、その意気込みがなければ牛飼いの資格は無い!


安全と安心

2008-07-12 20:02:44 | 牛の餌


今年2月から中国産稲わらを導入して、バーリーストローの利用を止めた。
昨年秋から解禁された同稲わらの輸入については、黒竜江省など中国東北部の口蹄疫を発症していない一部の地域の特定の農家の稲わらだけが、加熱処理工場で処理され、農水省の監視のもと、日本へ輸入されるようになった。
輸入された同稲わらには、加熱処理年月日と加熱処理工場の番号と農家番号が記されたラベルが付けられている。
この同稲わらの導入には、殊の外慎重に対応して実施した。
BSE国内発症以来の生産者及び消費者間共通の認識となった食の安全と安心を徹底する必要が常識的となってきた。
この様な認識の最中、同稲わらについては、過去に口蹄疫やウンカ事件などに加え、当時タイムリー的に食品への農薬混入事件などがあり、同稲わらには、ただならぬ不信感があったため、供用には慎重を期する必要があった。
そこで、取扱業者に相談して、同稲わらが、飼料として安心して供用できるための証拠を要求した。
その結果、日本への輸入解禁に至った農水省の経緯に繋がる文書が届けられた。
しかし、どの文書を見ても口蹄疫と害虫に関する内容は網羅されていたが、話題の農薬について消費者に納得して貰える内容のものはなかった。
そこで、輸入された稲わらについて、農薬の残存を検査することとした。
しかし特定した薬物についての抽出検査は、雲を掴むようなものであるという。
そこで、通常農作物に使用されている200品目について、つくば市にある分析セーターへサンプルを送付して検査依頼した。
結果は、全てにおいて、「認められず」であった。
ただし、問題となった、メタミドホスがその項目になかったため、再度検査に出した。その結果「認められず」であった。
この結果を受けて、そのお墨付けを入手した上で、同稲わらの給与を開始した。


何故早期離乳なのだろう

2008-07-11 23:48:19 | 牛の成長


最近の哺乳子牛の育て方は、
①母牛の発情再起を正常化させる目的で、分娩後数日間初乳を飲ませたら離乳させる。
②早期離乳すると、哺乳に手間が掛かるため、哺乳ロボットを導入する。
③生後3ヶ月間は粗飼料を与えないで、代用乳とミルクのみとする。
④粗飼料と子牛配合は、生後4ヵ月目から給与する。
の様である。

筆者らは、常時55頭の和牛繁殖において、サイレージとふすまのみで、年1産を果たし10産した母牛は当たり前であった。
しかも、約6.5ヶ月間母乳に付けた結果である。
その経験から、何故早期離乳させるのかが理解に苦慮している。
早期離乳することで、繁殖成績は抜群なのであろうと想像は出来るが、現実はどうなのだろうか。
様々な資源不足が叫ばれている現状下で、哺乳ミルクや代用乳などを潤沢に与え、尾枕を作るなどは、何かヘンではないだろうか。
母乳という安価で安全で最高の栄養源を無理矢理放棄すること自態、本来の本能的授乳を無視し、高コストかを邁進しているに過ぎない。

コメントを寄せてくれるコメンテーター氏の放牧による繁殖経営などは、氏がコメントしているように、牛本来の生息環境下で飼われるため、牛はストレス無しで、子牛の発育を含めた繁殖成績は抜群であろうことが予測できる。
ある大学の教授は、和牛の繁殖牛を日本中の河川敷で放牧すべきで、実現すれば10~20万頭は増加するという。




牛たちも日陰が恋しい

2008-07-10 20:30:35 | 肥育


温暖化が牛たちにも影響を与えている。
冷涼な飼育場だとして設置されたが、30年も経てば夏冬関係なく、5~6度は気温が上昇している。
今年も、30度を超す暑さに見舞われ、熱中症に罹る肥育牛も出た。
数百頭が飼育される畜舎では、気温が30度を超せば、室温は35度を超す環境となる。
少々の室内換気が有っても、牛の体温、厩肥熱、メタンやアンモニアガス、屋根や周囲の複写熱などの影響は、いちいち高温を助長している。
畜産用換気扇をフル稼働しても室温は下がることはない。
夏場の牛たちにとっては、かなりのストレスである。
酪農家の場合も、夏場牛がえらがらず餌を食ってくれなければ、目標の乳量は確保できないという。
肥育牛も僅か2年間の肥育期間であるが同様である。
肥育牛は、夏場が勝負である。
夏のストレスは、肝機能の低下にも繋がる。
筆者が関係しているセンターは、幸いにして、夜間の気温が昼間より10度程度下がるために、難を逃れている。

写真の牛たちは、導入後2ヵ月の去勢牛である。
30年前に植樹した欅が、今では最高の陽陰樹となって、子牛たちに冷涼な空間を与えている。


肥育経営どうなる

2008-07-09 19:34:35 | 肥育

飼料難がらみもあって、飼料の高騰に歯止めが掛けられない状況が続いている。
飼料だけかと思っていたら、鋼材も急騰し、畜舎の新築や立替もままならない状況である。
黒毛和種を扱う肥育センターにとって、由々しき状況である。
この難局をどのようにして乗り切るかが、経営者の悩みの種であろう。
平均60万円の素牛を出荷する頃には、枝肉相場はどのようになっているだろうかと、掌に冷や汗をかきながら寝床に向かっている畜主の姿が目に浮かんでくる。
全ての飼育経費を算出すれば、現状では、45万円は掛かっている。
素牛代を加算すれば、105万円でトントンである。
経費を5万円減らすには、約4ヵ月短縮しなくてはならない。
そうなると、枝肉の仕上がり具合が気になる。
それでも100万円で販売しなくてはならない。
少なくても枝肉重量を500kgに持って行くとして、枝肉単価は、2,000円を確保しなければならない。
それには、A-4のピンでなければならない。
現状では、かなり厳しい相談になりそうだ。
だから、ピンの素牛ではなく、中程度に留めておけば、45万円程度の素牛代となる。
そうなると85万円で何とかなる。枝肉単価は1,700円で良いことになる。
大損はしなくて済むはずである。




牛談義(3)

2008-07-08 22:47:02 | 牛の餌


飼料稲の栽培面積が年々増加しているという報告があった。
その栽培法や利用法についての研究や実用化の実現に向けて開発されている。
飼料稲は、発酵飼料と放牧的利用法の二つが主な利用法であった。
発酵飼料は刈り取って、そのままロールベールしてラッピングすることでサイレージ化して利用する方法である。
ロールベールする一つの試みとして、飼料稲の切断長を1.5cmと4.5cmにして乳牛に給与したら、切断長が短いほど採食量が多く、泌乳量も多いという研究報告があった。
切断長を短くしてロールベールする新しいべーラーが開発されたそうである。
また、黒毛和種に飼料稲のロールベールを給与する例と、飼料米を作付けした水田で立毛放牧する際、電牧を利用することで、無駄のない採食が実現した例があった。

食品副産物の飼料としての実用化の例として、おから、焼酎かす、菜種油かす、米ぬか、ビールかす、ウイスキーかす、モルトかす、醤油かすなどを混合して、乳酸菌発酵飼料に変えて約4,500頭の肥育飼料として利用している例も紹介された。

この他、このシンポでの紹介はなかったが、未利用資源としては、竹や木材を粉末にした飼料化や残飯の飼料化などが進められている。
世界的な穀類のバイオエネルギー化や耕地面積の減少など、飼料用穀類の生産量は激減すると言われており、まさに、危機的状況である。
どげんか、せにゃいかん!