牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

舌足らず

2011-06-30 18:35:33 | 牛の鼻と口


牛を管理し、暇があれば牛を丹念に観察している御仁なら、写真の意図が理解できるはずである。
つまり、痒いところに手が届かないところを撮ったつもりである。
牛は、舌が手の代わりになると前述したことがある。
写真の牛は、舌足らずなのか、舌の使い方が下手なのかもしれないが、大方の牛は、頸を大きく揺らしながら背中の痒いところを舌先に力を入れて掻く。
また、尾をうまく振り回してハエやアブを追っ払らう。
このように絵になるような埃まみれの△の形状を残している牛を見ることは希有なことである。
日常管理の中で繁殖雌牛であれば、牛刷毛を使って背中をブラッシングするが、肥育牛の場合は余程のことがなければ刷毛を使うことはない。
それにしても、頸を後10cmも左右に振り回せば、痒いところに届くものを。
その後、筆者が取った行動は言うまでもない。

「趾間過形成」という蹄の病気

2011-06-28 19:56:18 | 牛の病気

5頭の群飼いで肥育中の生後月齢20ヶ月の去勢牛が食欲不振とのことで初診を受けた。
初診と治療が終了したが、その後の歩行状態が異常なことに気付いた獣医師は、右後肢の蹄間にその原因があるとして、該牛を柵に保定し右後肢の蹄底が上向きになるように固定したところで「趾間過形成」だと言い、「こんな酷いのは始めて診た」というのが写真下である。
乳牛では和牛より発生率が高く、蹄間に蹄叉腐乱などの感染が原因で起きる疾患のようである。
勿論、当センターでも初の疾患であった。
感染ルートは不明であるが、蹄底の蹄間に腫瘍のようにはみ出しているのは、外蹄内部から飛び出している。
治療では、抗生剤を満遍なく塗布し、飛び出した部分を外蹄内に納め、写真上のように畜産用ガムテープでしっかりと固定して巻き取り、その上を再度写真の様に二重巻きにして保護して処置を終えた。
1週間近くかかって患部の改善が診られなかったら、外底のみを切除することになるかもしれないとのことであった。
これに関連して、該牛の両頸側に他牛から突かれた小傷が複数箇所見受けられた。
食欲不振もさることながら、この傷を注意深く早めに発見して、何故突かれるようになったかを調べることで、疾患を早めに発見できたであろうと担当者らと反省した次第である。
また群飼いでの観察項目が増えたが、日頃の観察内容をさらに注視することの重要性についても同様である。



 






第10回全国和牛産肉能力共進会が開始された

2011-06-26 22:48:58 | 牛の改良

先週金曜日の夕刻から京都市内で、旧知の和牛関係者らと芋焼酎で和牛談義に花を咲かせる機会があった。
折しも、この日は第10回全国和牛産肉能力共進会の発会式があったと聞いた。
前回の開催から今回の本番開催まで5年ぶりとなるが、この間宮崎県で発生した偶蹄目家畜への口蹄疫感染による大量処分や、今年3月に発生した東日本大震災における家畜への被害など、関係の和牛生産地では、同共進会への参加に少なからず影響を受けたことであろう。
このような厳しい生産現場にあっても同共進会を盛り上げ、和牛関係者ここにありと言う気概と努力により、同共進会の狙いに沿った成果の実現を期待してやまない。
また5年ごとの和牛改良の進展の経緯が、如何なる成果として記録に残こされるかも楽しみである。
気がかりは、何時までも霜降り偏重ではなく、将来に向けた和牛改良の転換時に来ている様な気がしてならない。

写真にある記念の小さな湯飲みが筆者の焼酎棚に飾られている。
同共進会は67年の秋に実施されてから既に44年目を迎えたことになる。




戻牛

2011-06-22 19:08:48 | 繁殖関係

今年に入って、繁殖を終えた老雌牛4頭が繁殖部門から戻ってきた。
繁殖部門から不妊がもとでの老雌牛が、肥育部門へ戻ってきたら、自家生産した子牛を保留したり、肥育素牛として導入した雌牛の内、繁殖用として供用出来そうな雌子牛を貸与している。
それらの老廃雌牛のことを当センターでは「戻牛」と称し、暫く老廃牛肥育を行って出荷している。
この4頭の繁殖成績を調べてみると、11産が3頭、10産が1頭で合計43頭の子牛を出産して戻ってきたことになる。
初産から最終分娩時から算出すると、4頭の平均分娩間隔は13.7ヶ月となり、まずまずの繁殖成績を残したことになる。
和牛資源を増やしたという観点からは、極めて良好な結果であると判断できる。
当方では、受胎する間は人工授精を実施しており、13~14産の多産牛は当たり前の状態である。
多産次子牛は肥育成績が右下がりの傾向にあるが、繁殖経営をプラス維持するには、更新間隔を長引かせることで、母牛の償却費などの低コスト化が実現している。
~写真は無関係~


和牛肥育の今後は

2011-06-16 23:29:32 | 肥育

低迷中の肥育経営についてのコメントを頂戴した。
和牛の子牛相場は、全国的に下落の傾向にあり、今後も暫くはその傾向が持続されることが予測されている。
しかしながら、素牛価格が下がっても現行では、枝肉価格も低迷中で差益が残らないのも事実である。
このような状況に至ったのは、景気低迷に連動している潜在的な牛肉消費の低迷に加えて、東日本大震災と原発事故の影響、ユッケなどによる食中毒の影響などによることは周知のことである。
食肉卸売業によれば、ユッケに用いられていたモモ肉や一部のウデなどに加えて、内臓とくに肝臓の動きがかなり減少し冷凍庫が満杯になりそうだとのことである。
この状況はお盆前までは続くと予測しているようであった。
最近の肥育経営では、大げさに5等級:4等級:3等級の格付け割合が25:50:25%であれば、平均差益は±0円と見なした考え方である。
現状では、この±0円を確保するのに四苦八苦の状態である。
これを打開するには、①当たり前のことであるが、素牛選定時に数揃えでなく、子牛を見抜く審査眼を高め、仕上げ時の枝重や肉質レベルを想定した競り価格の上限を設定してセリに挑む。
②その他の必要経費の低コスト化。
③①②の成果を上げることにより3等級でも損をしない肥育を行う。
この3点を重視して取り組んでいるところである。

一方、子牛価格の低迷は肥育サイドでも、大きな不安定要因の一つである。
この数年、西日本を中心に子牛生産頭数が年ごとに減少しているが、子牛価格の低迷が、この減少に拍車が掛からねばと案じられる。
東日本大震災で好調であった東北地方の子牛生産にブレーキが生じたこともかなりの重大事である。
子牛生産と肥育経営の関係では、あちら立てればこちら立たずの関係であるが、景気動向が好転し、牛肉の消費が回復することにより、互いの関係も改善し互いの経営も安定する。
当方でも、100頭足らずの子牛生産部門もあり、部門ごとに赤字を出さない経営を目指しているところである。
そのために子牛生産でも、データに基づいた交配計画や、出荷時期を早めたり、配合飼料の給与体系を抑えるなどで低コスト化を図って、1頭30万円でも赤字にならない経営の確立を目指している。

6月市で導入の牛娘たち

2011-06-15 22:55:32 | 素牛


6月初旬に導入した雌子牛である。
この2頭はこれまで導入歴のない生産者の子牛であるが、聞くところによると、生後数ヶ月の頃から良質ヘイレージを飽食摂取していることと、一頃より育成技術の成果が向上し、肥育素牛としての能力に期待できるまでに至ったため導入した。
以前は、やや発育に難があり、毛色は毛艶がなく赤茶けて市場評価がかなり低かった。
それらの評判を受けて、最近は市販の育成配合などを給与するようになり、発育も上昇して競り価格も平均相場に匹敵するようになった。
毛色が美しく改善した原因の一つは、発育が好転したことであり、その発育を改善するために取り入れた市販の飼料にあることが伺える。
これまで、粗飼料は飽食給与させ、濃厚飼料は自家配合を利用してきた。
市販の配合飼料には、家畜に必要な微量要素が混合されていて、その効果で発育が改善され、毛色も濃くなったようである。
以前も触れたことがあるが、専門家によれば銅が不足すれば茶色になりやすいとのことであるが、市販飼料により銅などの効果が現れてきたものと判断している。
導入後は粗飼料の利用性に富み、飼い直しでのトラブルもなく順調に経過している。
増体に加え、肉質も期待できそうである。
さらなる子牛育成の改善を期待している。

子牛データ

2011-06-09 23:33:52 | 子牛


生産地から子牛を導入する際、それぞれに子牛登記と生産履歴が手渡される。
先ず、子牛登記に記載される項目に、生時体重がある。
家畜市場でセリに掛けられる子牛らは、直前に体重測定されるために、生時体重が掲載されていれば、該牛のほぼ正確なDGが算出できる。
DG値によって、それぞれの導入牛の発育経過が理解でき、それまでの餌の食い込み状態も予測できる。
また、生時体重の大小により、母牛への飼料の給与量が適度であったか否かなども推測できることになる。
何れにしても、これらのデータが次回からの子牛選定用に参考となる。
ところが、平成21年7月から平成23年6月までの2年間に当センターで導入した949頭を調べたところ、生時体重が記録されている子牛の割合は、21.7%に過ぎない。
当センターが関係している繁殖センターからの131頭は100%記載されているために、これを除くと僅か9.2%である。
全国9カ所の子牛市場から子牛を導入しているが、これらの市場によって飛騨(10)20%、京都(87)18.4%、与論(221)11.3%、沖永良部(181)9.9%、曽於(25)8%、岩手中央(129)6.9%、肝属(27)4.8%、宮崎中央(138)0%である。
このうち京都は、87頭の内14頭が府立高校、京都府、大学など公の施設での生産子牛であり、生時体重が記載されているのは5頭に過ぎない。
せめて、公的機関は100%の記載が望まれるところである。
添付書類の内、生産履歴の給与飼料の記録欄では、子牛だけ記録したケースがある。
トリサとくにBSEの原因究明には、母親の飼料摂取履歴は子牛同様重要な項目である。
導入先が、繁殖であれ、肥育であっても、子牛登記や生産履歴の記載事項については、必要とされる項目である以上、購買者へのサービス意識の中で協力頂きたいものである。
生時体重の記載漏れがあった場合などは、生産履歴へのメモ書きでもいいのではと期待したい。

雌雄の違い

2011-06-04 00:16:23 | 肥育


久しぶりに肥育成績を肉質等級のランクごとに集計してみた。
ランクごとに、導入価格、導入時までのDG、終了時体重、肥育期間中のDG、枝肉重量、枝肉単価、販売価格、個々の牛の差益、BMSno.の各項目を調べた。
その結果、去勢牛については何れの項目についても、ランクの高い順に比例している。
ところが、雌牛の場合は枝肉単価、差益、BMSno.だけが比例しているが、その内容は去勢牛と異なり、バラツキが大きく、その他の項目については、順不同でバラバラな結果となっている。
去勢牛については、結果的に飼料の食い込みさえとぎれなく順調であれば、5等級となり、全ての牛が平均20万円前後の差益が得られる結果でもあった。
雌牛については、増体結果が良好であっても、必ずしも肉質がよいとは言い切れない結果であった。
また去勢牛では有り得ないが、雌牛では仕上げ体重550kgでも5等級となるケースがままあるが、枝肉単価が高くても枝肉重量が小さいために、差益が去勢牛のようには上がらなく、若干のマイナスというケースもあり、雌牛肥育の難しさの一面がある。
そのあたりが素牛選定にかかっていると言っても過言ではない。