牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

発症率は子牛生産地に差がある。

2012-08-22 22:46:02 | 予防治療
直近に出荷した500頭について、肝膿瘍の発生率を調べたら、出荷牛の25%弱であった。
そこで、導入した産地別に、発生率を調べたところ、7つの市場の内、2市場が約35%を示した。
この2市場産の牛は、何れも平均的に栄養度が高く、導入時のDG(生時体重30kgとして)が0.9~1.1kgに分布する割合が同様に高い。
優れた増体を示しているが、この背景には濃厚飼料重視の飼育法が判断できる。
つまり粗飼料の給与割合が低く、濃厚飼料の給与割合が高い牛特有の立派な子牛である。
このような子牛は、導入後粗飼料の食いつきが悪く、配合を好んで摂取する。
このような子牛は、基本的な腹作りが出来ず、ルーメン壁が発達できず、あげくルーメンパラケラトーシスやアシドーシスに繋がりやすい。
従来から導入している4つの市場産は10%台で安定している。
また、体重が220~240kgでの発症率は皆無であった。
その他、生産者個々を見た結果、同じ生産者が複数発症したのは、6生産者であった。
以前、肝廃棄を発症するような牛は肉質が期待できると聞いたことがあるが、5等級に判定された割合は、発症牛の20数%であり、枝重が450kg以下も同様であり、肥育後半に発症するタイプと、20数ヶ月までに発症するタイプのケースが認められた。

各市場の出荷名簿の中に、理想的な仔牛の飼い方が記述されているが、このマニュアルを踏襲して市場性の高い子牛生産を期待している。






肝膿瘍の出る牧場出ない牧場

2012-08-17 19:03:41 | 予防治療
肝膿瘍による肝廃棄が出る。
食肉市場の検査員によると、全く出ない牧場と定期的に出る牧場がはっきりしているとのことである。
当センターは後者の烙印を押されてしまった。
この両者には肥育法に歴然とした差が実在していることが頷ける。
そもそも肝膿瘍を誘引するのは、ルーメン内環境が芳しくないために、例えばルーメン壁が何らかの原因から発達が順調でなかったり、胃壁が常時傷つき易い状態になるルーメンアシドーシスに至ることや、絨毛周囲に濃厚飼料等が異常に詰まってしまいルーメン壁が爛れるルーメンパラケラトーシスに罹り、それらの結果直接的に肝臓に影響して膿瘍を発症する。
当センターでは導入時からグレードのやや低いオーツヘイを10数年間利用している。
このオーツヘイの繊維がやや荒い場合、ルーメン壁を刺激して常在菌等が肝臓に達することが原因ではないかと、専門家の助言を聞いた結果から判断している。
差し当たり、チモシーを併用してその差を確かめることとした。
オーツヘイでもグレードが高く(品質の良好)柔らかいものであれば、問題ないであろうが、生産地の干ばつ等で良質なものは入手しにくく、単価がかなり高いとのことである。
他所では、チモシーの利用の割合が高いと聞いているが、そのケースでは肝膿瘍が出ないのであろうか。
育成時に粗飼料の食い込みが不足しているのではとの指摘を受けたが、導入後半年間は、粗飼料主体の給与体系をとっており、この間は平均5~6kgは摂取しているため、他所との摂取量の違いは考えにくい。

家畜共済制度について

2012-07-05 23:39:38 | 予防治療
JA共済連の家畜共済制度が会計検査院の指摘を受けて、肥育牛の場合は対象となる牛の月齢毎の評価額がこれまで最高40万円で頭打ちされていたが、今回各府県の食肉市場のDATAを参考に31ヶ月令以上は79万円に引き上げられた。
評価額が実情に即したことは、妥当なことであろう。
しかしながら、年々疾病率や事故率を下げ、3年に1度の掛け金率の改正では着実に引き下げられ、年間掛け金と実質給付額がほぼ見合う結果となっていた。
同共済制度では、掛け金のほぼ倍額の範囲で給付額が設定されているが、10年近く掛け金程度の給付で賄えられてきた。
3年ごとの見直しは昨年実施したばかりである。
ところが、今回の評価額の引き上げにより、昨年と同様の加入条件での提示額を見て、唖然とした。
昨年比164%と極端な上昇であった。
常日頃、疾病率を下げる努力をしたセンターほど、掛け金率が上昇しているとのことである。
当センターでは毎年7月中旬が更新時期であるため、毎年6月下旬に更新手続きを行っており、これほどの値上げに対して、事前の説明無しで「今回からこの金額になりました」である。
担当者にその説明を聞けば、「会検の指摘であり、共済法に則って算出されており、動かし難い提示である」の一点張りであった。
これだけの値上げであれば、被加入者の要望ぐらいは聞いた上で、段階的に期間をおいて値上げるなど、弾力的な運用が成されてもしかりである。
評価額を変更すると同時に保険法なる算出基準の改正も不可能ではなかったはずである。
前述の通り、これまで掛け金と給付額が見合っているが、今回の64%の値上げ分は明らかに共済連にストックされる額となる。
これを機に、事務方より獣医師へ「もっと診療費を増やせ」などの内部圧力が起きねば良いが・・・・。
実に不可解な値上げであると同時、本来3年おきの見直しを無視しての値上げでもあり、この制度は国の指導下にあるも、生産者を無視した共済連の机上の結論と判断せざるを得ない。
家畜共済制度は、大型センターなどでは未加入の例が多々あると聞くが、当センターではこれまで早期発見早期治療を実現するために、長年の実績から高く評価し加入してきた。
同制度の廃止に繋がらねば良いが。



事故率

2011-08-31 22:43:40 | 予防治療


8月31日が当方の年度末である。
当年度は例年より厳しい年であった。
例年度より肥育成績が思わしくなく、それに加えて枝肉相場が低迷したことが影響した。
枝肉相場の低迷要因は、牛肉の消費動向が低迷したことによるが、肥育成績では肉質(BMS値)の平均が前年比1弱下がり、枝重でも約10kg程度下がった。
増体量と肉質の関係は、系統にもよるが比例する傾向があり、結果的に食い込みに何らかの影響があったことは、結果的に否めない。
その理由として考えられることは、素牛の血筋が年々複雑化していることが考えられる。
今から10数年以前であれば、鳥取系に兵庫系を交配することでそれぞれの経済形質を有する遺伝子の発現は、単純には二者択一での発現であったが、現状では、日本中の和牛雌牛は鳥取・兵庫・島根などの系統の血液が全て関わりがあり、それらの系統間でも様々な能力差があるもの同士の掛け合わせが進み、複雑怪奇な血統を呈するようになった。
これでは、優れた種雄牛を交配しても必ずしも優れた子牛が発現するとは言い難く、複雑な結果となる可能性がある。
現状では、これらの影響を受けている可能性を否定できない。
何故なら同じ両親を持つ子牛であっても、その肥育成績は一定していないケースが多々あるからである。
また、肥育成績の低迷のひとつに、輸入稲ワラの品質の劣化やオーストラリアにおける干ばつによる粗飼料の品質低下も無関係ではないと判断している。
ところで、当年度における当方での事故率であるが、年間を通して約1,000頭を飼育しているが、死廃数は5頭に終わり1%未満であった。
肥育結果の低迷の中で、せめてもの事故率低下であった。
今回も、次年度こそは事故率0%の目標の達成を期している次第である。



ルーメン内PH調整

2011-08-03 19:32:30 | 予防治療


肥育牛が育成期から仕上げ期になって、配合飼料の摂取量が10kg以上になり順調に増体し始めた頃に、問題となるのが、ルーメンアシドーシスである。
配合飼料を多量摂取することで、ルーメン内のPHが酸性になることはよく知られている。
このような状態を放置することで、とくに夏場の食欲の減退やルーメンアシドーシスを罹患するケースが多々ある。
その結果、肝膿瘍や蹄葉炎に至ることも知られている。
このような結果にならないためには、濃厚飼料と粗飼料の摂取バランスが良好であれば、問題はないが、育成時から粗飼料の食い込みが少ない牛はルーメン内のPH調整を行うことで、かかる疾患を予防できる。
当センターで今夏から導入しているのが写真にある商品名アルカリックスで、鉱塩様のブロックになっており、内容は重曹がメーンとなっている。
写真下の白っぽいのがそのブロックである。
重曹は弱アルカリであり、牛が舐めることでルーメン内を中和する効果があることから、アシドーシスを予防できる。
ただ、難点は鉱塩のように常時舐めてくれない。
舐めるのは、何らかの体不調を感じたときに舐めているようである。
導入後8ヶ月経った頃から鉱塩と並べて置いておくことにしている。
写真下の同ブロックは、同時に異なるマスに置いたものであるが、よく舐めるマスと舐めないマスがあり、牛らが勝手にPH調整を行っているようである。
オレンジ色は鉱塩である。



再び後手後手のはなし

2011-07-20 19:50:23 | 予防治療

管轄する家畜保健所から、今朝聞き取りがあった。
震災後に東北地方から素牛を導入したか。
稲ワラはどこの産地のものを給与しているか。
そして午後になって、使用している稲ワラをサンプルとして放射性物質の含量を測定したいので協力して欲しいとの連絡があった。

事象が起きて始めて国内全域を対象に係る調査を行うことになったそうである。
震災直後から、対応が後手後手だを発する情報は、枚挙に暇がない状況が130日も持続したままである。
今回はたまたま稲ワラであるが、あらゆる食料品や飼料等について、係る調査に踏み切るための通達を震災直後に出せなかったものか。
震災後1ヶ月の間には、関東地方では水道水の異常や、野菜類への放射性物質の混入のニュースがあった。
その後、茶の話もあった。
これらの情報は係る調査の必要性を示唆していたはずである。

また、震災直後に国産稲ワラを給与させない様にとの通達を出したという農水省の話もあった。
ならば、その時点で何故係る調査をしなかったのであろうか。
何を根拠に通達を出したのであろうか。
最近の情報では稲ワラ1kg中に放射性セシウムが4万ベクレルも検出されたという。
しかも、汚染した稲わらは福島県産ではなく宮城県産とも言われている。
深く考えなくても、放射能の流出の大きさのほどが伺われる。
前述したが、放射能被災地とされる地域以外を含めて、住民や農家や畜産関係者の内外被爆の詳細について緊急調査が急務である。


鉱塩は使い分ける

2011-02-24 19:11:37 | 予防治療







一般的に肥育用配合飼料にはNaclは配合されていない。
湿気や配合の変質を引き起こすからである。
その代わりミネラルなどを含ませ固形化された鉱塩を利用している。
去勢牛は、尿道結石症の発生が出易い。
それを予防している一つが、塩化アンモン入りの鉱塩である。
去勢牛を用いて肥育するようになった当初の55~65年頃まで粗飼料には生草を給与していたが、その頃はこの尿石症やビタミンA欠乏症の発生は極希であった。
その後、粗飼料に稲ワラを利用するようになり、配合飼料の給与割合が多くなるにつれて、尿石症やA欠乏症が多発するようになった。
このうち、尿石症を発症したものには、塩化アンモン30gを水で溶いて与えることで、回復した。
その後、この効果を利用して塩化アンモンを混合した鉱塩が市販されるようになり、予防効果が一般的になった。
最近では、従来品(写真上)に加えて尿石症への予防効果をさらに高めるために、塩化アンモンを従来品より2倍混合した200TZが市販されている。
一方、雌牛の場合は、尿管の構造が去勢牛と異なることから尿石症の発症は皆無であるために、塩化アンモン入りの鉱塩は不要である。
そのために、雌専用として安価な岩塩(写真下)を導入して利用している。


ハエの激減の理由

2010-12-06 23:07:57 | 予防治療


今夏は牛舎でのハエの発生が例年の10~20%程度と減少した。
このような現象は開場以来30年間無かったことである。
いつもの年は5月下旬から秋に至るまで3~4回の駆虫を実施していたが、今夏の駆虫作業は皆無であり、労力的にも、家畜や人への薬剤弊害、さらには経費の節減につながるなど、結構な年でもあった。
なぜ今年はハエの発生が減少したかを検証しているが、今夏の例外的な猛暑により、ハエの産卵箇所や幼虫期の成育環境が乾燥するなどにより、順調な増殖が出来なかったのであろうか。
ただ、今夏も5~7月は例年同様の気象環境であったことを考慮に入れれば、必ずしも猛暑だけの原因ではなさそうである。
他に考えられる状況としては、口蹄疫の感染予防との関係である。
4月20日に宮崎中央から肥育素牛28頭が到着し、口蹄疫の発症の情報をもとに、その日の内に炭酸ナトリウム(ソーダ灰)による畜舎内等の消毒を実施したが、このアルカリ性がハエの増殖を阻害したのではないかとも考えられる。
その他にハエの増殖環境を増長することはあっても、減少させる要因は見あたらないからである。

畜魂慰霊法要

2010-11-01 23:21:30 | 予防治療


逝きし牛たちの霊魂に慰霊を捧げる法要を10月29日午前11時から実施した。
法要は、地元の90歳を超えた寺の住職により厳かに執り行われた。
折からの雨も、その法要時間だけは晴れ間を覗かせ、獣医師、地域行政や地域団体の関係者、取引業者、当センター関係者ら35名の参列者であった。
正午から一堂に会して昼食会となり、行政機関等から畜魂に対する挨拶を頂戴した後、会食となった。
従来、献杯の音頭となっていたが、道路交通法等を鑑み、酒類の提供を省略したため、献杯まで省略するという事態となった。
家畜を育てて、販売することは、その先には、彼らの生命を犠牲にして、とりわけタンパク質資源として、経済的にも食料源としても、我々の生活の手段として重要不可欠な存在となっている。
このことを、常に理解するとともに、注視しながら自らの産業の発展に寄与しなくてはならない。
その意識を新たに持ち続けるための年中行事でもある。

寝首を噛まれる

2010-09-08 19:26:49 | 予防治療




4日早朝、牛ブログを書く右手をムカデに刺され、約5時間大変な痛みを感じる疼きに悩まされ、病院で世話になったにもかかわらず、2日目3日目と浮腫が酷くなり、今日の午後になり写真のようにやっと腫れが引いて5日ぶりにパソコンを開いたところである。
寝首をかかれると、ことわざがあるが、熟睡している首辺りに痛みを感じて手を当ててしまったのが不運の始まり、人差し指の先端をいやと言うほど噛まれ、小豆の半分ほどの出血を診ることになった。
慌てふためいて照明を付けたところ、自らの胸に12cmくらいのムカデが這っていて、仕舞いにはとうとう逃がす始末。
一方噛まれた指は途端にうずき始め、逃げたムカデのことが気がかりで、眠れるものではなく、殺虫剤を探してきて、潜り込んだであろう辺りにスプレーした。
3分も経たずにどこからともなく、もがきながら現れたところを殺処分とした。
それからが、生き地獄のごとしで、こんなに痛みが持続するなどとは、努々思いにもよらない七転八倒の体となった。
やれやれの経過にいたり、やっとの思いで安眠できそうである。
鉢物を多数育てていることから、それらに居着いていたものを部屋に持ち込んだようである。
猛暑の折、油断大敵である。